「ちーぎゅー!」
時は2020年12月4日。
ぼくは使い古した丼容器に入り、産声をあげた。
冷ややかな器に温かなごはん。
矛盾した2つの物体の上にぼくはかけられる。
牛肉だけであればそれは牛丼。豚であれば豚丼になるというのは皆お分かりだろう。
しかしぼくは『3種のチーズ』という付加価値を持って
産まれてしまった。
そこにぼくの自我はひとつもないのに。
部活終わりのまだ汗も乾ききっていない学生たち
味気ない飲み会の帰り
一仕事終えて帰路に着くサラリーマンの群れ
ぼくは今日も、産声をあげてすぐに食べられる。
もっと特殊なオクラ牛丼などに産まれることができたなら、もっと長く声をあげることはできたのだろうか。
冷たいものや常温のものでは声を上げることすら許されない。
儚い存在。
それでも僕は今日も、
「ちーぎゅー!!!」
ありったけの声を奥の方から。