技術の進歩に日本企業の人材施策は追いついているのか?

 IoT、自動運転、AI(人工知能)、拡張現実、仮想現実など、今ほど「技術の進歩」を日々実感する時代はそうそうないだろう。だが、こうした時代に、企業の人事施策が追い付いていない可能性がある。

 ひとつは「Industry 4.0時代、製造リショアニング時代の技術者の処遇の盲点」についてだ。日本のものづくりは夜明けのときにあると思うが、同時にこの盲点・落とし穴に気が付かないと、みすみす好機を逃すのではないか、とも思う。この盲点とは、ものづくりが高度に進化する時代において活躍する技術者が「必ずしも正当な評価を受けない」ということである。

 こうした状況が起きる論理は次のとおりである。前提として、これからのものづくりは、情報通信技術と製造機械の連携のように、仮想世界と現実世界の領域が交差したり、エレクトロニクスとコンピュータサイエンスが交差したりと、「領域と領域の境目がぼやける」という特徴がある。このとき、の領域で活躍できるのは、「多分野を行き来する技術者」であろう。私の親友の一人も、ロボティクスと人間工学、Pythonからはんだ付けまでの領域横断技術者だったが、日本の大手重電メーカーに入るやいなや自動運転AGVを開発し、大活躍だ。安価な自動運転AGVは自動化工場に必要不可欠であり、彼は会社に多くの売上をもたらした。

 そんな彼が「岩尾、おれ会社辞めるよ」と言い出した。「給料なんかいらない。でも会社の方が俺を社内下請けさんって言ってるのは耐えられない……」といって小さくなった。その重電メーカーでは「領域を跨ぐものは半端もの」という扱いだったようである。領域横断的な仕事は片方の領域でしか評価されないため、仕事全体の半分しか評価されない。上司は機械や電気・電子など1つを極めた人材ばかりなのだから当たり前といえば当たり前である。

 だが、交差する領域の中で新しいものづくり革命を起こすには、こうした人事評価の落とし穴にも目を見けるべきかもしれない。