テレビは終わりか?

先日、2人の大学生と会って、将来の仕事についてお話しする機会がありました。偶然にも2人ともテレビ関係の仕事を志望していました。テレビの世界は、やりがいあって、華やかだし、楽しそうですし、分かりやすい世界ですし、多くの若い人が憧れを持つことはもっともです。


僕も、政府に居たときは専ら取材対象として、僅かながらTVコメンテーター時代は演者として、メディアの世界に接してきました。取材されて加工されて報道されるときには、「本質はこうじゃない」と歯ぎしりすることもあったし、発信するときには、「こう伝えると分かりやすいのかな」と試行錯誤する日々でした。


他方で、最近は「テレビはまったく見ない」「テレビはつまらない」と言う若者も多くいます。YOUTUBEやNETFLIXの方が、自分の好きなものをいつでも見られるし、便利なことも確かです。


テレビは終わりだ、テレビの裏側はドロドロしているという悲観論もありますが、私なりに、これからのテレビには期待もしているし、不安もあります。テレビの役割として、私なりに経験し、体感し、大事だと考える役割は、以下の3つです。2人の大学生の方はじめ、参考になれば幸いです。


第一に「サーチライト」の機能があります。目立っては無いけど頑張ってる人、革新的な取り組みをしてる人、そういう人や団体に光を当て、多くの人を巻き込むきっかけにする、社会全体で後押しする、それを見た人が刺激を受けて頑張る、新しいものを生み出すきっかけを作る機能です。情報のIPOみたいなものです。人は人の営みに最も感化されます。地域で頑張っている農家や、新しいテクノロジーを介護施設に導入している人、などなど枚挙に暇はありません。


第二に「回転寿司」の機能があります。ニュースやワイドショーが最たるものですが、普段、殊更に自分が興味を持ってなくても、分野や粒度を問わず、多様な情報をどんどん送り込んできてくれます。その時々の新しいネタ(情報)に関心を持って新しいものの見方を持ったり、興味を深めるきっかけとなります。自分の好きなものだけをひたすら深掘りし続けるネットの世界とは異なります。「回転寿司」があって初めて私たちの視野や考え方は広げられます。


第3に「拡声器」の役割があります。小さな出来事や事件でも、そこから見出される問題点や、社会の本質的な課題をあぶり出す機能です。小さな事件の中に見え隠れする社会の意識の変化、人の変化、時代の流れ、を見いだすことができます。障害者の殺人事件や、高齢者のドライバーの事故など、見ながら様々な時代の変化を考えさせられます。


物事をストレートに、わかりやすく、伝える、という点で、テレビはまだまだ利点があります。

人は、結局、頭に浮かぶ「絵」を通じてしか考えられないものです。

視覚的な情報を持つテレビは、その点で強みを持っています。一定以上の知的水準を持ったスタッフたちがプロとして製作する現場は、学べるところも多いです。特に、無駄な枝葉を削ぎ落として、キャッチーな言葉に凝縮して、しかも面白みのある形で情報をまとめる、と言うスキルは、、テレビの世界に集結してると言っていいかもしれません。いろんな人はいるでしょうが、やはりテレビの業界の方々は、かなり真摯に番組作りに取り組んでいる印象を持ちます。また、限られた一瞬の時間にコメントを凝縮するので、出演者の方々の集中力や一体感と言うチームスピリッツも存在しています。あるキー局の方が言っていました。「毎日文化祭をしているようなものです」確かに、そういう見方もできるでしょう。


もう一つ、付け加えておきたいのは、これからの時代、テレビは「話し相手」と言う機能も高まっていくことです。高齢者の方、一人暮らしの方、いろんな方が、「音」として、BGM的にテレビを使う価値と言うのは侮れません。

私の一人暮らしの80を超えた母もそうです。よくもあしくも一人暮らしの方が増える、空の社会が進んでいく中で、ネットもありますが、受動的に、テレビは、人に寄り添いながら、話し相手になったり、世界とつながる接点となる可能性を持っています。その良し悪しは色々あるでしょうが、現実です。そのようなニーズ、「寄り添い」のためのテレビと言う視点も大事になってくるでしょう。


テレビには、同じようなバッシングネタを繰り返す、お笑いやくだらない企画ものが多い、と言って批判する方もいるでしょう。テレビも時代によって変わるのでしょう。今は試行錯誤の時代かもしれません。多くを求めてはいけないかもしれません。

これから、報道機関なのか、生活の一部なのか、日々のリラックスをくれるものなのか、いろんな機能があるでしょう。これからの時代も、いろんなものをミックスして見せてくれる、それもテレビの魅力かもしれません。


それでも、あの板のようなテレビから、無料で様々なコンテンツが流れてくるのは、それはそれで豊かともいえます。他方で、スポンサーが減り、じり貧という見方もあるし、メディアリテラシーと言う概念があるように、全てを鵜呑みにしない、そういう教育や私たちの姿勢もますます大事になるでしょう。


テレビ業界を目指す若い方々、これから自分がどういう風にテレビの世界を変えていくのか、業界に合う自分になろうとするのではなく、自分ならこうする、と言う意思を持ってチャレンジすると、さらに未来が面白くなってきます。

松下 耕三
2020.01.24

私はテレビの視聴者側、制作会社側、テレビ局側、スポンサー側と一通りの目線を経験しましたが、全ての大企業で働くのと同じく、企業の利権、力を、自分の力と勘違いしないことが、テレビ局で働く上で一番大切なことと思います。
その上で、武内さんのお話しの通り、志を持って挑んでもらいたいと思います。