「俺塾」開校!!

「息子がヤバい・・・」

暗い声で妻から電話があった。ただならぬ雰囲気に緊張が走った。
小学校で先生との面談があったようだ。そこで塾へ通うように“強く”勧められたという。塾を勧められるということは、息子の学習状況はおおよそ推察できた。話を聞きながら、学習状況よりも息子がどういう気持ちでいるのかが一番心配になった。勉強が追いつかずに自信を無くしていないだろうか。学校が嫌で通うことが苦痛になっていないだろうか。そんなことを想像すると胸が苦しくなった。

息子は10歳になる。
生まれた翌月に単身赴任が決まった。単身赴任といっても、幸い隔週ペースで週末を家で過ごしているので顔は忘れられていない。生まれてから10年間ずっとそんな生活なので、息子は父親というものは、隔週でしか帰ってこない存在だと思っていたらしい。以前、友達の父親が毎日帰ってくると知り、衝撃を受けたと云う。自分の家庭が普通だと思っていたら、案外普通でないらしいことに気づいたようだ。そんな話を聞くと、一緒に居る時は思いっきり愛情を注いでやりたいし、また離れているから言い出せずに不安に思っていることはないかと心配事も尽きない。

妻は、電話口で話を続ける。
「・・・だけどね、息子さんは、誰よりも学校を楽しんでいますって先生に云われた。。。」
思わず吹き出してしまった。思い出した。そうだ、彼は学校が好きだった。

昨年、緊急事態宣言が出て、学校が休校になった時、息子は「安倍さん、いいね」と喜んでいた。小さな自民党員が誕生。しかし、1週間後には友達と会えないストレスから翻意し休校の解除を家で訴えていた。

学校が楽しい。喜ばしいことではある。親としては望ましいことでもある。ただ、それだけでいいのか・・・。心の中のひっかかりを整理しようと考えを巡らせた。

「ねぇ、聞いてる? 塾、どうしよう・・・」

ため息交じりの妻の声。私は決めた。

「俺が教える。だから塾は必要ない」

妻は「出費が抑えられて助かる」と喜んだ。しかし、私は家計のことを考えたわけではない。私と息子が向き合ういい理由になるし、離れていても息子に愛情を注げるチャンスだと考えた。さらに、一番の思いは、学びの楽しさを息子に伝えたかった。学びの楽しさを知れば、もっと学校が好きになる。完璧だ。

決めたら、即実行。
息子に、これから週末にリモートで「俺塾」をやると伝えた。俺塾❓と怪訝な表情を見せたが、そんなことはどうでもいい。昔やっていたドラマから命名したと説明するのも恥ずかしい。なので説明はしなかった。大切なのは名前より中身だ。

リモートでやると決めたものの、どうしたらいいのか。想像してみると、準備することが結構ある。電話じゃ見えないし、教科書が2冊あるわけでもない。スマホのLINEビデオだと顔は見れてもノートが見れない。まずは環境整備から。

息子にPCを与えた。家にPCがなかったので、このタイミングで購入。surfaceが学割をやっていたので、迷わず購入。小学校で通信授業があるというので、PCへのハードルは問題ないだろうと思った。しかし、数日後、息子から「PCが壊れている。ひとつもアプリが表示されへん」と相談の電話があった。聞くと、学校の通信教育はiPadを使っている。アプリを使って計算や絵を描いたりするらしい。タブレットとPCの違いを説明したかったが、うまく説明することができなかった。家族と親戚に例えるのが分かりやすいのか、Webとアプリを一から説明するのがいいのか。教育の難しさを始める前から感じることになった。つまづきはあるものの、息子と下記の点をまとめて開始できるまで至った。

  • 授業はzoomで行う
    └ 直前に私からGmailで招待メール(URL)を送る。息子はメールをみて、画面を開き、音声をON、ビデオをONにする
  • 教科書は事前にLINEで共有
    └ 理解度がすすむように、私は事前に簡単な資料を用意する
  • 授業の在り方を息子と共有
    └ 分からないことが分かるようになるから楽しい。だから、分からないことは恥ずかしいことでも問題でもない。分からないことは楽しさの種

教科は算数。
「速さ」の単元。先生から一年間で一番難しい単元だと云われたらしい。息子もかなり身構えている。速さを求めるのは、私の時代は「は・じ・き」と教わった。40年近く前の話だ。今も「は・じ・き」なのか。調べると、今は「み・は・じ」と学校では教えられているようだ。みはじ?言葉になっていない。はじきの方が覚えやすいだろうにという考えを押し殺し、みはじの公式を教える。書いた紙を画面に見せつつ、息子にも書いてもらう。息子には紙やノートはおもいっきり使うように云ってある。

公式が分かれば、スラスラと解く。ステップ1は攻略。息子も満足気。
次に、秒速と分速と時速について教える。ついでに単位を揃えることも教えたい。
で、問題を出してみた。

考え方が大事なので敢えて、分かりやすく分速を「60m」にした。

解く息子。
分かった!と云い、回答。

不正解・・・

頭を抱える息子。

なぜ、息子が時速1000Kmにしたのか。60÷60=1。Kmをmにするにはゼロを3つつけて、1000。そんなところだと思う。これは完全な私のミス。速さを教える「ついでに」単位も・・・と横着した私の教え方が悪い。教え方が悪いから、息子は混乱してしまった。そもそも秒速とは何か、分速とは何かを教えていないと、安直に60で÷のか×のかという思考になってしまう。なので、秒速と分速について教えることにした。

1秒間に何メートルすすむことができるか、その速さが秒速だよ。1秒間に1メートル進むと、秒速1m。1秒間に2mすすむと秒速2m。じゃ、1秒間に10mだったら?と聞くと秒速10m!!と元気よく答えてくれた。「さすが!!いいね!」と盛り上げつつ、じゃ、秒速1mの人が10秒歩くと、何m歩けるの? 息子は考える。で、「10m?」まだどこか自信なさげ。じゃ、60秒歩くと? 「60m!!」。そうだね。どうやって答えを出したの? 解説してくださ~いとお願いすると「1秒で1mなので、1×60=60m!!」と返答。すこしずつ理解してきている。では、1分は何秒? 「簡単やん、60秒!!」 じゃ、秒速1mを分速にするにはどうしたらいい? 上の図を見ながら、「そうか。1分は60秒だから、60をかけるんか」と答えました。そして、すぐに先ほどの問題を解き始めます。

正解!!!
その時、息子が「うわぁ~、めっちゃ楽しいやん!! 分かるって楽しいな。算数、好きになったわ」と喜びの声を上げました。その瞬間、胸が熱くなりました。自分でも不思議でした。解けたことが嬉しくて感動したのではなく、小さなことかもしれないけれど、息子の役に立てたことが嬉しかった。生まれてからずっと離れて暮らしているので、私は息子に対して、どこか申し訳なさと負い目があります。その穴埋めが俺塾を通して少しでもできれば、嬉しいなと感じました。

俺塾をスタートさせて思うことは、教育の大切さです。
現在、算数を中心にやっていますが、覚えるのではなく、考えることの楽しみを少しずつ息子は感じています。大人が導き方を誤らなければ、子どもは素直に耳を傾けて学習しようとします。だからこそ、大人が「何を」どのように伝えるかが非常に重要であると思います。私は、息子に俺塾を通じて、考えることの大切さを学び、その学びの視野を徐々に社会へ広げようと思っています。なぜ勉強をするのか、なぜ働くのか、何のために生きるのか。親子の授業は、これからも続きます。

あっ!! 息子からLINEが来ました。


No Name
2021.03.01

児島さん

素敵な記事でしたのでコメントさせてください。

“分からないことは楽しさの種”
とても癒されました。

仕事をしているとタスクに終われ、わからないことや変化することが起こりそうになると、ついついストレスに感じることも正直あります。
でも、成長することや進化することの喜びを感じることは本当に大切です。
大人になり、慣れてしまったそういった喜びをしっかり噛みしめる時間をこの記事でいただいたように思います。
ありがとうございます。

児島 誉人
2021.03.01

中井さん、ありがとうございます!! 嬉しいです!!

昨日、俺塾をやろうと思ったら、友達が遊びに誘いに来たので行かせました。中止になっちゃったな~と思っていたら、夜になって「今からやろうよ」ってLINEが入りました。分かることの楽しさを知ると、行動も変わるのだなと思いました(^-^;

私もついつい抱えがちになりますが、子どもの姿をみて、学びの在り方を再認識できたように思います^_^ 

No Name
2021.03.01

我が子からのお誘いいいですね!
お子さんもお父さんのことを信頼しているから、わからないことをわからないと素直に言えるのだと思いました。

癒しと学びのある記事最高です☺
またの投稿を楽しみにしています!

大久保裕貴
2021.03.01

児島さん

児島さんの表情が素敵です笑
勉強も素晴らしいですが、学校大好きって言えるお子様が素敵です!

児島 誉人
2021.03.01

大久保さん、ありがとうございます!
私の想定外のことを繰り返してきた彼なので、多少のことでは動じなくなりました💦 月曜日を待ち侘びる小学生って、いいですよね。

No Name
2021.02.28

記事を読んでほのぼのと癒されました。

息子さんが頭を抱える写真で、1枚目、2枚目とも児島さんが微動だにしていないことに目が行っちゃいました笑(まるで静止画のよう)

Pandoで親子登録したら、遠方でもこういったリアルタイムで親と子を繋ぐサービスがあると良いですね。

児島 誉人
2021.02.28

なかがわさん、ありがとうございます!
Pandoは現在、学生と企業へ展開していますが、その次はFamily Pandoをやりたいと思っています!! 家族のビジョン! 絶対いいと思うんですよ。実現させますよ😤

林 陽人
2021.02.27

個人的な話にはなりますが、アルバイトで個別塾の講師をしています。
指導方法を読んでいて、児島さんもそういった経験があるのかなと思いました!!
褒めることはもちろん、正解してもどうやってその答えに至ったのかアウトプットさせることは大事ですよね!!微力ですが、何かお力になれることがあれば是非!!

児島 誉人
2021.02.27

林さん、ありがとうございます!!
現役の塾講師なんですね! 私は講師経験もなく、学生時代のアルバイトは専ら宅急便の荷下ろしなどの肉体労働でした(^_^;) バイトで有り余るパワーを発散していました。

仕事も教育も思考プロセスの言語化そしてアウトプットは重要ですね。思考を整理して「話す」のではなく「伝える」ことで、理解の定着度も変わるかと思っています。ただ、まだ手探り状態でやっているので、困ったら、林先生に相談させて頂きますm(__)m

松永祥武
2021.02.27

考える事が楽しいと思える教え方、そして自主的に臨みたくなる姿勢を育む俺塾、素晴らしいです!東南アジアで仕事をしていた時、日本の教育水準の高さを実感した事とその機会を平等に与えられている事はとても恵まれている事だと気づかされました。試験の為の勉強では無く、基礎教育の中で生まれる考える事が楽しいと思える事が創造力を生み、社会や人生を豊かにするのだと思いました。
私の息子は高校3年生、微分積分やモル質量など既に私の領域を超えています。笑

児島 誉人
2021.02.27

松永さん、ありがとうございます。
確かに、考える楽しさ⇒創造力になりますね。なるほど。知的創造の楽しさを知ると、人生にも大きく影響を与えるでしょうね。
私も高校生は教える自信がないです・・・。実は、今も、こっそり予習しています💦 

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