弊社の入居するオフィスビルには空につながるガラス張りの吹き抜けがあり、その受け皿として私の席のある2階には、入ることのできない中庭が存在する。入ることができないので帰宅する際に雨が降っているかどうかを確かめるくらいの役割しかない中庭だが、内見で初めて見たときからいつかきっと、と夢想している。朝出社したら謎の死体が転がっていて、転落した形跡がない。そんな準密室殺人の現場となることを。
そんなことばかり考えているものだから、昨日私の首からぶら下がっていたはずの社員証が消えたことに気づいたときには狼狽えた。これはフラグでは? 私の社員証を握りしめた死体が発見されたらどうしよう。むろん私は誰も殺っていない。落ち着け。私を誰だと思っている。もし殺るならそんなわかりやすい証拠を残すはずがないではないか。それに被害者の頭部の傷は背後から鈍器で殴られたことを示唆している。この唯一の外傷が致命傷だったとすれば、振り返って私の社員証を奪えるだろうか。仮にそれが可能だったとして、死後硬直も始まっていない手から社員証を奪い返すのは造作もないこと。つまり、誰かが、私を、はめようとしている!
もちろん。もちろんその通り。探偵役は慇懃にこう述べた。
そんなわかりやすい証拠を残すはずがない。だからこそ、この証拠は意図的に残されたと考えるのが自然です。なぜか。あなたをはめるためではありません。あなたに疑いを向け、それを晴らすためではないでしょうか。はめられた、むしろ被害者であることを装うために。
などと探偵役の論理の飛躍の着地点を探っていたところ、会議室から上司が手を振った。
「社員証。椅子に引っかかっていましたよ」
社員証を落としたばっかりに私がこんな妄想にふけっていたことを誰も知らない。日常も一皮めくればミステリが詰まっている。
私は、大雪が降った際中庭にうっすらと積もった雪を見て「あぁ、こんな周りが閉鎖された空間でもはらはらと雪が舞い降り積もるんだな」としか考えていませんでした笑
私はライト層なのでこの程度ですが、いわゆるマニアは密室になりそうな環境を見るたびに、この間取りならこのトリックで……、とか考えているんじゃないでしょうか。雪と死体というシチュエーションも映えますね。
ヤバいっすね
ちょっと心配になりました(笑)
あの中庭はいろいろ想像力を刺激するのです。
視覚効果として、1階のエレベータホールで談笑する女子社員、ふと見上げて死体を発見し絶叫とか、同様にエレベータホールに影が差し、見上げれば吹き抜けを墜落し2階のガラス板に激突する人影とか。
それ
本書けるレベルっす
お疲れ様で御座います。
社員証が御無事に見つかられた事、何よりです。
又、ランチへ行かせて頂いた時等に是非
「妄想の・・・」につきましてを詳しく拝聴させて頂き
たく思います。
妄想を愉しむコツは、今回のように外に出していい妄想と誰にも言えない妄想のラインを引くことですね。