甘酒の主成分は「愛」でした

「もう1軒、コンビニに寄っていいか?」


山本社長が云われた。何か買い忘れたものがあるのかと思い、道中にあったコンビニに山本社長は足早に店に入られた。私は店の外で待っていた。しばらくすると一本の缶を持たれた山本社長が戻られた。「あった、あった」という微笑みを浮かべながら。そして、その缶を私に手渡した。それは甘酒だった。

山本 美仁

中央大学レスリング部 監督・コーチ



山本社長との出会いは、今思えば、本当に奇跡のように思える。
私は、自分の人生を誰かの期待を満たすのではなく、自分の志を持ち、挑戦をする人を増やしたい。そして、自分の想いを発信し、想いに共感した人たちが集う。その同志の輪と数を増やすことで、社会をよりよくしていきたいと考えている。そのプラットフォームがPando。SNSやプラットフォームは多数あるが、誹謗中傷がなく、志の前に全員が肯定されるPandoは、私が誇らしいと思えることのひとつでもある。

Pandoを推進するにあたり、私は考えていたことがある。プラットフォームであるからには「数」は大事であるが、それ以上に、Pandoの考え方に賛同してくれる人を集めなければ意味がない。だからこそ、通常業務以外の時間を使って、私は尊敬する方々に私が実現したい世界について、手紙を送った。相手は誰もが知る著名な方なので、手紙を送ったとしても読んでいただけるかどうかも分からない。もしかしたら、本人の手元にすら届かず、捨てられるかもしれない。けれど、書かずにはいられなかった。

そんなある日、突然、ケータイに連絡が入った。
「手紙、ありがとうございます。是非、会いましょう」。それは、THE BODY SHOP、スターバックスで社長を務められた岩田さんからだった。今でも、その時の興奮を覚えている。後日、千葉県にあるホテルのロビーで時間をとって頂いた。岩田さんの本は、すべて読んでいた。講演会にも足を運んだ。高圧的な素振りは微塵もない。一流と云われる方は、皆、こちらが恐縮するくらい謙虚だ。経営やマネジメントなどの能力とともに、圧倒的な人間力をお話を聞いて感じた。だから、多くの人が魅了されるのだろう。1時間、自分のビジョンについて話をさせていただいた。岩田さんは、深くうなづきながら、私の話を聞いてくださった。岩田さん自身、会社経営とは別に大学でmissionについて講義をされていることもあり、Pandoや私の考え方に共感をして頂いた。そして、最後に「児島さんに紹介したい人がいる」と云われた。「どなたでしょうか?」と私が問うと、岩田さんは「中央大学の山本監督です」と云われました。経営者でもなく、学生でもなく、監督・・・。私はすぐには事態が呑み込めずにいた。

しかし、今、振り返ると、岩田さんがなぜ山本監督を私に紹介をしたのかが分かる。アスリートとして、教育者として、そして経営者として幾重の逆境を乗り越えた、その生き様こそPandoが目指す世界の体現者であるから。


何かを極めたり、何かを成し遂げる人は、どんな環境にも左右されず、一心に打ち込む強さがある。「本気」という言葉があるが、私は山本社長と話をさせていただいてわかったのは、本気にも程度があるということ。本気を振り切ると本物になる。本気だと言っている程度では、まだまだ本物にはなれない。だから、本物を目の前にすると、居心地が悪くなる。自分の程度は、自分がよくわかっている。体現している人が目の前にいるのは幸運である。目指す姿があるのは幸せだと思う。


社会に出て私は30年経つが、職場では家族のことは話をしてこなかった。職場と家庭は別。そんな考えがあった。ただ、生きていると、どうにも自分ではコントロールができない問題に直面したりする。親のこと、家族のこと、そして自分のこと。まさか・・・と思うことが、同時に起きる。うまく対応できない自分を責めて追い込む。それで解決に至ればまだ救いはあるけれど、時間だけが過ぎるばかりで光が見えない。他人には頼れない。頼らない。迷惑を掛けられない。そう思えば思うほど、身動きが取れなくなっていく。仕事のパフォーマンスも悪くなりつつあった。

そんな時、一人だけ毎日のように連絡をしてくれる人がいた。それは親でも、兄弟でもない。山本社長でした。

「元気ですか!!!(爆笑)」
電話口で常に明るく接してくださった。

「この前、会ったとき、少し手が震えていたから気になってな・・・」
「俺は、児島を信じてるよ」
「何も心配はいらない」

ご多忙な中、事あるごとに連絡を頂いた。いつしか私は、自分に起きていることを山本社長にだけお伝えした。問題を伝えるのは負けだと思っていたけれど、伝えることができたとき、救われたと感じた。救われたからこそ、私は献身を誓った。


山本社長から頂いた一本の缶。
私は缶コーヒーだと思い、頂いてすぐにカバンにしまった。まだ、飲みかけのボトル缶があったからだ。山本社長と別れて、帰路についたとき、何気なくカバンから缶を取り出した。すると、缶コーヒーだと思っていたものは、甘酒だった。

「甘酒・・・」

山本社長のことだから、きっと意味があると直感した。そして、スマホで甘酒を調べてみた。すると、甘酒は“飲む点滴”と云われるくらい栄養素が豊富だと書かれてあった。私のことを気にかけて、コンビニで甘酒を探してくれたのだと、その時分かった。私は社長の思いを知らずに、すぐにカバンにしまったのだ・・・。

私は思う。
目の前で起こっていることを、ちゃんと心の目を開いて見なければ、真実は見えているようで見れていない。人のことを、どう思うのか、どう感じるのかは、自分がどう見たいのかというフィルターがかかっていることがある。だからこそ、あるがままに見る勇気を持つことで、事実はまったく違うものになることもある。心の目をもつことで、人の心は必ず豊かになる。

私なら「甘酒は栄養素が豊富だ。元気のないお前のために買ったぞ。カバンにしまわず、飲んでみろ」とでも言ったかもしれない。しかし、山本社長は一言も云われなかった。心遣いを心遣いとして、受け取れるかどうかは、受け手の人間力次第でもある。

頂いた甘酒は、私にとって単なる甘酒ではない。
これほど、愛情が詰まった飲み物はない。この甘酒は、今も冷蔵庫にある。私が受けたことは、今度は私から学生やメンバーに届けていく。それは私の使命でもある。

よねやま
2022.02.18

>心遣いを心遣いとして、受け取れるかどうかは、受け手の人間力次第でもある。

上手いコメント(言葉)が見つからなくて申し訳ございませんが、ものすごく心に刺さりました。

私が自覚していないだけで、毎日のなかで多くの方から心遣いを受け取っている気がしたので、お一人おひとりが私に贈ってくれる言葉やコミュニケーションを、もっと大切にしようと思えました。

いつも素敵な記事を届けてくださり、ありがとうございます。

児島 誉人
2022.02.18

よねやまさん、コメントありがとうございます!!

よねやまさんの周りには、同期を含めて本当に多くの方がいて、素敵な関係を築かれていますね。それは、よねやまさんのご人徳なんだと思います。

先日、楽々清算で分からないことがあり、よねやまさんの記事をストックしていたので読み返しました。よねやまさんの心遣いは、いたるところにあり、助けられています。いつも、ありがとうございます!!

関連記事