【すごいな、文学の力。】

最近、「文学」を読めてないな、「小説」を読めてないなと、思う。
心の渇き、感性の摩耗、が起きてないか、要注意だ。
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そんな中、ある方のご紹介で、北九州市立文学館長の今川英子さん、林芙美子研究の第一人者の方に、文学館をご案内いただく機会に恵まれた。
明るい光と健やかな整然とした展示。館内の巨大ステンドグラスも心を透き通らせる。
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結論。北九州市の文学土壌はものすごかった。
この土地に縁のある文学者はまあ多い。
森鷗外は、軍医の傍ら、この地で「小倉日記」をしたためた。そういえば、私の亡父が、「これは読め。」と言った数少ない本のひとつが『或る「小倉日記」伝』(松本清張)でもあった。耕作の熱いひたむきな思いに感動した。厚生省に入ったひとつのきっかけにもなった。
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杉田久女や橋本多佳子といった女性俳人は、その感性を輝かせた。
「いなびかり 北よりすれば 北をみる」(橋本多佳子)
そして、林芙美子。そう、あの『放浪記』で一世を風靡した。
個人的には印税でパリに滞在し、堪能し、たっぷりとそのエキスをその後の作品に活かしていった”生き様”が颯爽としていて印象深い。
「花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど 風も吹くなり 雲も光るなり」
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火野葦平は、港湾荷役労働者(沖仲仕)の家に生まれ、若くして文学の才能がほとばしり、若松を舞台にした『花と龍』『麦と兵隊』などを残した。展示されている彼の猛烈で緻密なメモに、ほとばしる執筆意欲と観察眼に、驚愕した。
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最近を見ても、佐伯泰英さん、葉室麟さんといった時代小説家をはじめ、平野啓一郎さん、藤原新也さん、松尾スズキさん、中村うさぎさん、山崎ナオコーラさん、そして大好きな『東京タワー』のリリー・フランキーさん(彼の600枚の手書き原稿はほとんど書き損じもなく、芸術品のようだった)、本屋大賞を最近取られた町田その子さん。
輩出した作家の豊富さと多様さに驚く。
しかも、ジャスト作家、ではなく、社会活動やエンタメなど、少しだけ”はみだし”系の方が多い。生命力の方が多い。芥川、直木賞の人口当たり受賞者数では、北九州市はトップレベルとのこと。
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なぜ、ここまで、芳醇な文学が生まれ、蓄積されてきたのか。
館長の今川英子さんのお話も踏まえると、北九州市には、製鉄で日本の近代化をリードする中で、全国から、東京からも、地頭の良い労働者、多彩な人材が集まったそう。
そうした人材が互いに刺激しあい、摩擦しあい、思索や表現に深みと豊かさを生んでいった。企業文化としての後押しもあり、文芸、演劇、俳句といった市民活動も活発に。
一朝一夕にはできない、深い深い熟成された文化文学の溜めがある。
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などと感じながら、久々に文学に囲まれて、読みたくなってきた。
今川館長いわく、
「私は、新聞に出る経営者の愛読書紹介の記事をよく読みます。そこにノウハウ本と歴史本ばかりが並んでいたらがっかり。一冊でも文学書が入っている経営者は本物だと(笑)」。
ドキッ。むべなるかな。

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