死ぬ為に産まれるものがある。
花火がその類かもしれない。光を散らして、一瞬の輝きを放って、それで死ぬ。もう用済みになれば誰も見向きしない。水を張ったバケツにその抜け殻だけが浸っていて、夏の残骸みたいに彼らは二度目の死を迎える。
彼らは幸せなのだろうか。私にそれを推し量るだけの度量はないけれど、でも、その瞬間の煌めきは確かに人を幸福にする。果たしてそれはどんな気分なのだろう。幸福だろうか、不幸だろうか。
私は彼らとは違って、悲しみの為に産まれ悲しみの為に死んでいく。そういうものだ。誰かを幸福にするなんて事はまず叶わない。なら、私は産まれなくともよかったのではないかと、静かな部屋でそんな事に考えを巡らせる。
ふと、生みの親を思い出す。彼らがしている事はさながら、死刑の決まった囚人を手術する医者といったところだろうか。私を殺す為だけに、私を作り上げる。いや、人でない限りは「殺した」なんて感情もきっと無いのだろうな。
彼は幸福だろうか。私が死ぬ為に産まれたように、彼には彼なりの、私を殺す為に私を作り上げる義務がある。作っては殺し、殺されてはまた作る。考えるだけで気がおかしくなりそうだ。
どこからかすすり泣く声が聞こえる。不幸の音は連鎖していき、静かな部屋に残響する。私がいなければ泣かずに済んだ人間もいるかもしれない。私が死ぬ事で悲しむ人間がいる。死ぬ為に産まれたという事は、私が産まれる事を望まなかった人間さえいるという事だ。やはり私は、誰も幸せになんてできない。
色とりどりの、名前も知らない花がそっと置かれていく。その人達の表情は様々だった。悲しむ人間、泣いている人間、無表情の人間、でも、無理矢理に偽物の笑顔を作る人間。やはりその中に幸せな人間など誰一人いなかった。人を悲しませる為に産まれ、悲しませる為だけにしか死ねない私に、一体どれ程の価値があるだろうか。
どうやらやるべき事は終わったらしい。あとは暗い部屋に閉じ込められて、いよいよ私は死んでいく。そういえば私は、幸福というものをただの一度も知れないまま死ぬ事になるのかと、人の重さを感じながら思った。
一体私は何の為に産まれてきたのだろう。いや、産まれてきた理由も意味も全部分かっている。分かった上で、それで納得していいのかどうかが知りたいのだ。死にたくないとすら思えないような、こんな不幸と悲しみの渦中で死んでいく私を誰が望んだだろう。私を殺す為に私を産んだ親も、不幸を閉じ込めて悲しみに暮れる人間達も、そして、死ぬ為に産まれた私自身も。誰も、幸福には成れなかった。
そうして私は、暗い部屋に閉じ込められた。この瞬間の為だけに私は産まれたのだ。今日という日はこの人の為の葬式だけど、葬られるものは二つある。誰も私の事なんて想わないだろうけど、それでも、死んでいく魂はここにもう一つある。
死体と共に私は焼かれていく。酷い臭いが充満する。あるいは、これが不幸と悲しみが焼かれる臭いかもしれない。
結局、死ぬ為に産まれた私の棺桶は誰も用意してくれなかった。この瞬間の為に、死ぬ為に産まれた私の最期には、私の人生には、価値も幸福も何も無かった。
私を業火が覆って包み込む。最後に見たその光は、確かに花火のように、ほんの少しだけ綺麗だったのだ。
花火がその類かもしれない。光を散らして、一瞬の輝きを放って、それで死ぬ。もう用済みになれば誰も見向きしない。水を張ったバケツにその抜け殻だけが浸っていて、夏の残骸みたいに彼らは二度目の死を迎える。
彼らは幸せなのだろうか。私にそれを推し量るだけの度量はないけれど、でも、その瞬間の煌めきは確かに人を幸福にする。果たしてそれはどんな気分なのだろう。幸福だろうか、不幸だろうか。
私は彼らとは違って、悲しみの為に産まれ悲しみの為に死んでいく。そういうものだ。誰かを幸福にするなんて事はまず叶わない。なら、私は産まれなくともよかったのではないかと、静かな部屋でそんな事に考えを巡らせる。
ふと、生みの親を思い出す。彼らがしている事はさながら、死刑の決まった囚人を手術する医者といったところだろうか。私を殺す為だけに、私を作り上げる。いや、人でない限りは「殺した」なんて感情もきっと無いのだろうな。
彼は幸福だろうか。私が死ぬ為に産まれたように、彼には彼なりの、私を殺す為に私を作り上げる義務がある。作っては殺し、殺されてはまた作る。考えるだけで気がおかしくなりそうだ。
どこからかすすり泣く声が聞こえる。不幸の音は連鎖していき、静かな部屋に残響する。私がいなければ泣かずに済んだ人間もいるかもしれない。私が死ぬ事で悲しむ人間がいる。死ぬ為に産まれたという事は、私が産まれる事を望まなかった人間さえいるという事だ。やはり私は、誰も幸せになんてできない。
色とりどりの、名前も知らない花がそっと置かれていく。その人達の表情は様々だった。悲しむ人間、泣いている人間、無表情の人間、でも、無理矢理に偽物の笑顔を作る人間。やはりその中に幸せな人間など誰一人いなかった。人を悲しませる為に産まれ、悲しませる為だけにしか死ねない私に、一体どれ程の価値があるだろうか。
どうやらやるべき事は終わったらしい。あとは暗い部屋に閉じ込められて、いよいよ私は死んでいく。そういえば私は、幸福というものをただの一度も知れないまま死ぬ事になるのかと、人の重さを感じながら思った。
一体私は何の為に産まれてきたのだろう。いや、産まれてきた理由も意味も全部分かっている。分かった上で、それで納得していいのかどうかが知りたいのだ。死にたくないとすら思えないような、こんな不幸と悲しみの渦中で死んでいく私を誰が望んだだろう。私を殺す為に私を産んだ親も、不幸を閉じ込めて悲しみに暮れる人間達も、そして、死ぬ為に産まれた私自身も。誰も、幸福には成れなかった。
そうして私は、暗い部屋に閉じ込められた。この瞬間の為だけに私は産まれたのだ。今日という日はこの人の為の葬式だけど、葬られるものは二つある。誰も私の事なんて想わないだろうけど、それでも、死んでいく魂はここにもう一つある。
死体と共に私は焼かれていく。酷い臭いが充満する。あるいは、これが不幸と悲しみが焼かれる臭いかもしれない。
結局、死ぬ為に産まれた私の棺桶は誰も用意してくれなかった。この瞬間の為に、死ぬ為に産まれた私の最期には、私の人生には、価値も幸福も何も無かった。
私を業火が覆って包み込む。最後に見たその光は、確かに花火のように、ほんの少しだけ綺麗だったのだ。