「幸せに味がした」
そんな文章を噛み締めながら読んだ作品だった。2019年に本屋大賞を受賞して、今もずっとおすすめコーナーに置いてあるこの作品が少し前から気になっていて、やっと手に取って読んでみたら、平和な作品ですごく癒された。
大人の事情に流されるように、親が変わり、名前が変わり、心を自分も知らないうちに守っていた優子が、やっと安心できる人と場所に気付く過程を描かれていた。森宮さんの不器用な優しさに愛情を感じたし、優子を取り巻く人たちは愛に溢れていて、読んでいる自分も文章越しに温かく思えた。
作中で描かれる「家族とご飯」が温かい。
また、さりげない文章に胸を打たれることが多くあった。
「だけど、森宮さんはちっとも平気なんかじゃなかったのかもしれない。思い切った行動をする早瀬君を認められないくらいに。七年経っても誰も好きになれないくらいに。きっと、私の気持ちを乱さないように平然を装っていただけだ。どうしてそんな簡単なことが分からなかったのだろう。いや、私にわかるわけがない。病気だったことも、愛する人に出て行かれた森宮さんの気持ちも。私の親である人は、あまりにもたやすく子どもを優先してしまうのだから。」
この一節は特に心に残った。
自分よりも大切な存在が俺にもいつか出来るのかな。