悩みとライトノベルの調和

鴨志田一『青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない』
 
この作品はシリーズものの三巻なのだが、全巻に共通することがある。思春期特有の悩みを思春期症候群という不可思議な現象とともに描かれているということ。それは、時折生々しいと感じるほどにリアルだ。
この小説のメインヒロインとなる高校二年生の双葉理央(ふたばりお) の悩みは「コンプレックス」と「自己嫌悪」そして「承認欲求」。彼女は人より発育が良かったことを利用し、SNSでいかがわしい投稿を始めてしまう。最初は自傷行為のような感覚だったのだが、徐々にエスカレートしていき、最終的に自分が嫌になってしまう。誰かにかまってほしい。でもその手段が許せない。でもかまってほしい。負のスパイラルに陥った彼女は、二人に分裂する思春期症候群を発症してしまう。
そんな理央を救った主人公、梓川咲太(あずさがわさくた) にも大きな魅力がある。友人である理央に寄り添い、台風にも関わらず自転車で理央のもとへ駆けつけるという大胆な手段をとった。普遍的ではあるもののどこかぶっきらぼうで、ひねくれもの。人の考えを否定も肯定もしないというひとつの優しさを持つ彼は、いわゆる典型的なライトノベル主人公とはまた違った存在なのだ。そして、彼には恋人がいるため、ヒロインたちに対して行き過ぎた行動を決してしない。その誠実な姿には大いに好感を持てる。
ここでなぜ三巻という微妙な巻を選んだのか。それは最初に述べた通り、思春期特有の悩みをリアルに描いているというところにある。とある巻では「集団への同調」に悩むヒロインが、またとある巻では「目立つことでの孤立」に悩むヒロインがピックアップされるといったように、シリーズを通して着眼点が鋭い。特にこの巻ではその特徴が出ている。舞台はSNS社会である現代。ましてや主人公やヒロインは高校生。これもまた最初に述べた通り、生々しいほどにリアルなのだ。

22070003 ノベル&シナリオ専攻 一年 熊谷夢奈
2022年10月21日に、小説紹介の授業で書いたものです。

学生へのメッセージ、スカウトなどは「お問い合わせ」からご連絡ください。


学生ポートフォリオ
879件