経営学の研究者・教育者になってそろそろ30年になります。あと10年足らずのうちに、この職からも離れることになるでしょう。その時に、自分がこれまでやってきたことにどれだけ納得することができるか、大変興味があります。
最近、経営学に関連した学会に出席していつも感じることは、「この人たちの発表や研究は、本当に社会の役に立つのだろうか?」ということです。その裏には、もちろん自分の研究不足もあります。ですから、ある意味負け惜しみであると言えましょう。はっきり言って、研究者としての自分は今から20年前に一度「死んだ」と断言して差し支えありません。前任校を設置するために、研究のための時間は全く取れず、学会にも全く参加できず、そのために経営学の研究の最新動向からは完全に置き去りにされてしまい、その遅れはいまだに全く取り戻すことはできません。
けれども、それを差し引いたとしても、今の経営学は社会にとって本当に役立つことをしているのだろうか?と疑問に思っています。例えば、経営学の研究者は自分の身の回りで起きている小さな問題を、(自分が研究している)経営学によって解決することは可能なのだろうか?と問いたいのです。
私はここ10年、医療関連の領域を経営学の視点から研究してきました。幸運なことに途中何回か科研費も獲得して、主に訪問看護ステーションを対象に研究していました。研究して感じたことは、経営学(者)が本当にするべきことは、まだまだ山のようにある、ということです。すなわち、経営学は社会にとって必要不可欠である、ということです。
では、経営学はその要求に応えているか?と問われると今の私に明確に答えることはできません。しかし、最近になって一つのチャンスが到来したと感じています。経営学が社会の要求に応えられるかどうかを、自ら示すことができるチャンスです。現在、私は医学部の研究者数人と共同で研究をしています。中高年齢者の特定健診率を上昇させて生活習慣病を未然に防ぐ、という課題についての研究です。もしうまくいけば、医療費の劇的な削減につながり、日本の社会が本当に変わるかもしれません。この課題解決に経営学が役に立てば、胸を張って「経営学は社会の役に立つ」と言える日がやってきます。それを自らの口で。そうすれば、私は納得して経営学者をやめる日を迎えられるでしょう。