人の食を支える言語聴覚士という仕事
内容・役割
「食べること,しゃべることは社会を築く」
人間が生きるために必要な行為である「食べること」や意思伝達を行うための行為「しゃべること」は,口や喉という共通した身体部位を使用します.「最近,水を飲むとムセるようになった」「食べ物が噛みにくくなった」「しゃべりにくい」など,日常よく聞かれるトラブルは言語聴覚士が治療する領域です.
普段何気なく使用している「口」や「喉」ですが,加齢とともに動きが悪くなります.「足が動きにくくなった」「腰が痛くなった」などの身体の動きは日常で認識しやすく,対策(少し距離を歩く,スポーツをするなど)も取りやすいです.しかし,「口」や「喉」はどうでしょうか.多少,「噛みにくい」や「ムセが起きる」としても,対策を取るどころか,意識することもなく,また日々の日常を過ごしてしまいます.その結果,トラブルサインが出ていた状態を放置した「口」や「喉」は,気がついたときすでに取り返しのつかない状態になっていることがあり,肺炎や低栄養,脱水などの内科的疾患に直結する問題となります.
なかなか意識が向きにくい「口」と「喉」ですが,人間において重要な役割を占めています.
2006年の介護保険法改正に伴い,介護予防重視型施策(介護を必要としない身体にする施策)が行われ,2025年をめどに,食べること・しゃべることを始めとする生活上の手助けが必要な方に対し,いつまでも住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう,行政だけでなく「地域」で力を合わせて守っていくこと(地域包括ケアシステム)が望まれています.
その地域支援の中で言語聴覚士は口腔機能(口や喉の動き)低下予防を行っています.
これは,歯科領域の専門家と手を取り合い,口腔機能(口や喉の動き)低下や低下の恐れがある虚弱な方に,介護が必要とならないよう,口腔機能(口や喉の動き)の低下を早期に発見するとともに,その状態を早期に改善することを目指します.
我々は,口腔機能(口や喉の動き)に問題を抱えた方や予防が必要な方を中心にリハビリテーションを行う専門家です.口腔(口や喉)は全身の機能をしばしば明瞭に反映し社会生活をするための原動力になっています.つまり,食べること・しゃべることは一人ひとりの社会を築きます.
そして,口腔機能(口や喉の動き)に配慮することは,生活習慣や生活意欲の改善を導き,病気や要介護状態の予防に貢献することは,言うまでもありません.
地域一人ひとりの口の健康を守るため,私たち言語聴覚士は,歯科領域の専門家,および他の医療職種と手を取り合いサポートしていきます.
想い・やりがい
私は、言語聴覚士を育てる養成施設で、働いています。
言語聴覚士という仕事を広めると同時に、どのような言語聴覚士を育てるか、日々より自問自答しています。
その中で、たどり着いた懸ける想いは、
私たちは「相手を思いやるコミュニケーションができる学生を育てます。」
インターネットが普及した現代、全世代の86.9%がLINEを利用しています。LINEやメールは、非常に手軽で便利なものです。その一方で、コミュニケーションの基本である直接対面して会話する機会が減ってきているようにも感じます。また近年、日本人のコミュニケーション能力の低下も耳にするようになりました。
さて、コミュニケーションとは何でしょうか?
それは、相手の思いを感じ、自分の思いを伝えることです。またコミュニケーションは「ことば」に限ったことではありません。ことばだけでなく、表情や身振り、態度、声色、それが発せられた状況などから相手の思いをくみ取り、また自分の思いを相手に伝えています。そしてこれを可能にしているのが、相手を思いやる気持ちです。
リハビリテーションでは、「患者さまが中心の支援」をとても大切にしています。いくら専門的な知識や技術があったとしても、相手を思いやる気持ちがないと、「一方的」「独りよがり」の発想しかできなくなり、患者さまが中心の支援とは、ほど遠いものになってしまいます。
「知識・技術より、ぼくたちに寄り添ってほしい」
コミュニケーション障害を抱える患者さまの願いです。
だからこそ私たちは、「相手を思いやるコミュニケーション」ができる学生を育てたいと思っています。
時には厳しい対応をすることもありますが、寄り添ってほしい… 患者様の声を聴くことができる人間を育てたい。私たちはそのマインドを持ち、日々学生さんに携わっています。
実現していきたいこと
言語聴覚士という仕事の認知度を上げていきたいことが、願いです。
日本で、言語聴覚障害は人口のおよそ5%程度に出現する
といわれており,日本(人口約1億3千万人)では
およそ650万人もの人が何らかの言語聴覚障害かかえて生活していると推測される。2000年の時での報告によると,言語聴覚障害児・者のニーズ応えるには,すぐにも約36,000人の言語聴覚士が必要
とされている。しかしながら,急速な少子高齢の社会において,言語聴覚士の職業フィールドである発達障害児の療育指導,高次脳機
能障害者の社会復帰支援,認知症高齢者の介護予防を含む指導,摂食嚥下障害者への指導など,実質的 にはこの概算の1.5倍(54,000人)は必要だという現場の意見も挙がっています。
しかしながら、言語聴覚士という仕事は、1998年に国家資格として施行され、歴史が未だ半世紀にも及ばず、認知度が低い仕事です。
言語聴覚士を必要とする患者様が多く有られる中、言語聴覚士を目指そうという方が少ない・・・ とても悔しい思いをしています。
言語聴覚士は、今後益々発展し、必ず社会に貢献する資格です。
微力ですが、私たち多摩リハビリテーション学院専門学校 言語聴覚学科の教員は、言語聴覚士の必要性を日々、訴えていきたいと思います。