外国人技能実習制度を監督する日本の認可法人・外国人技能実習機構(OTIT)は、ベトナム大手送り出し機関5社から技能実習生の新規受入れを停止する方針を、ベトナムの労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)に文書で通知した。2カ月後を目処に実行すると説明している。
現在、ベトナム政府が認可した技能実習生の送出し機関は約460社あるが、OTITの新規受入れ停止対象を、この大手5社に限定した事には理由がある。
OTITがDOLABから、ベトナムの送り出し機関から2018年に送り出された実習生数の資料提供を受けた。日本の受入れ企業で実施される、実習生の技能実習計画に記載された送出し機関の会社名称と照らし合わせて、失踪者が多発している送り出し機関を特定した。そのうえで、460社の送り出し機関のなかで18年と19年の合計失踪者数の割合が平均の約3倍を超えていたのがこの5社であったのだ。
この大手5社を除く約455社の送出し機関からは、これまで通り実習生の送出しが行なわれるため、国際間の移動が解禁された段階で、感染症対策を講じた上で、送出しと受入れが再開される。
一般的には、ベトナムの送出し機関1社につき、日本側の技能実習生を受入れる監理団体は3社までの契約ができる。ほとんどのベトナムの送出し機関は、日本側の監理団体3社と契約を交わしている。この大手5社の送出し機関と、技能実習生の受入れ契約を交わしている、日本の各監理団体(協同組合)は、他の送出し機関との契約を、早急に取り付ける必要があるだろう。
大手5社が送出した技能実習生の失踪者数が、平均の3倍以上である事の原因として、実習生の気まぐれや我儘であるとは到底考えられず、その要因は様々だろう。この技能実習生らが様々な要因を抱える事が重なり、失踪するケースの事例を以下に挙げる。
ベトナムの商習慣として 「紹介料や手数料などの高額な債務を背負っても、日本に行けば幸せになれる、毎月、高額な収入がもらえる」などと言われて、根拠のない期待を抱き、気持ちが駆り立てられた。
以上は直接、実習生から聞いた話であるが、抱いていた思いと現実のギャップも失踪の要因の1つのようだ。大手5社から送出された実習生数は他社と比較しても多いため、多額の債務を背負って来日した実習生も多かったのではないかと推察される。今回の日本政府の対応により、このように債務を背負って来日する事が暗黙の了解となり、実習生からの搾取が繰り返されていた現況が、今後は減少していくだろう。
コロナ禍でベトナムからの実習生の送出しが止まると、人手不足の企業などでは、一時的に困る事情もあると考えられるが、今回、大手5社から技能実習生の受入れが停止された事で、実習生が来日する際に多額の債務を抱える事がなくなれば、実習生の心の悩みや苦しみが軽くなり、失踪や犯罪に向かう実習生が減少すると考えられるのは喜ばしい事である。
持続可能な開発目標SDGsの16は「平和と公正をすべての人に」と掲げ、あらゆる形態の汚職や賄賂が減少し、世界中の人々が平和と公正の下で生きていける世界をつくる事を目指している。
本来の技能実習制度の趣旨を鑑みて、必要以上の金銭的な負担がなく、正規の条件でクオリティの高い外国人の来日が期待できるように、現状を改善する交渉をベトナム側と行なうのは、今がチャンスで有ると筆者は考えている。
(上記文章記述 岡本弘一)