変わるべき外国人技能実習制度の課題 (前)

世界平和に向けて(17)

【特別対談】変わるべき「外国人技能実習制度」 コロナ禍で浮き彫りにされた課題(前)

◎ DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁 明川 文保 氏

◎ 元駐ベトナム 特命全権大使

梅田 邦夫 氏

◎ 元駐インド特命全権大使  JICA副理事長

堂道 英明 氏

日本はこれまで外国人技能実習制度(以下、実習制度)のもと、中国やベトナムなどアジアの国々から数多くの人材を招いてきた。先進国としての開発途上国に対する貢献活動の意味もあり、これまで多くの実績を残して来たことも確かだ。

一方、人材送り出し国も経済的発展を遂げ、あらゆる環境が変化した事で、同制度の「実態」に光が当たる事も増えた。

コロナ禍で浮き彫りにされた課題と、今後、日本が進むべき動向について、3人の有識者が語り合った。

◎聞き手

株式会社 データ・マックス

代表取締役 児玉 直

実習制度の目的と乖離

先進国としての貢献活動

明川 文保 氏

 明川 外国人技能実習制度は、1960年代後半ごろに海外の現地法人などで社員教育として行なわれていた研修制度を原型として93年に制度化されたことに始まります。日本が先進国としての役割を果たしつつ、国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術、知識など、開発途上国への移転を図るという意味もあります。

また、相手国の経済発展を担う「人づくり」に協力する事を目的とし、アジアを代表する先進国として国際貢献活動の一環でもあります。

その後、制度自体は2016年11月に大きく改訂されました。

現在、日本国内の外国人労働者166万人の内32万9,034人が(19年10月厚生労働省調べ)この外国人技能実習生となっています。

以前は圧倒的に中国からの実習生が多かったのですが、現在はベトナムが最も制度の利用者が多い現状です。

 梅田 19年12月末時点の在留外国人総数は293万人で、前年比7.4%増となり、過去最高となりました。

在留ベトナム人は約41万人(前年比24.5%増)で、中国人(81万人)、韓国人(45万人)につぐ3番目の多さです。

在留資格別に見てみると41万人の内の技能実習生は約22万人で9年間で28倍に急増し、国別では断トツ、2位の中国人の実習生数の約2.7倍となっています。

 20年9月末時点で特定技能の資格を得た人は8,769人いますが、そのうちベトナム人は5,341人と最も多くなっています。

その大半が技能実習修了者で、新たに特定技能の資格を得たケースです。

また、厚生労働省の外国人雇用状況調査によると、19年10月時点で外国人労働者の総数は166万人です。

その内、ベトナム人労働者(40万人)と中国人労働者(42万人)で半数を占めます。

14年あたりからベトナム人労働者が急増し、過去6年間で10倍以上に増加しています。

外国人雇用状況

 ベトナム人実習生が増えた要因としては、それまで最大の送り出し国だった中国が世界第2位の経済大国となり、国民の生活が豊かになった事があります。

日本が直面する深刻な労働力不足問題にとって、ベトナムが最大の貢献国になりつつあるのが現状です。

 その一方で非常に残念な事ですが、15年から19年までの間に、ベトナムは不法残留者数、失踪者数(技能実習生)、国別犯罪検挙件数で中国や韓国を抜いて最も多くなっています。

外国人受刑者数も、1位中国、2位ブラジル、3位ベトナムですが、ベトナム人受刑者だけが増加しています。

 また、アメリカ国務省が毎年公表している「人身売買報告書」では、技能実習制度において「奴隷労働」とも呼べる深刻な人権侵害が日本国内で発生していると批判されており、日本の対外的な評価が著しく低下しています。

ベトナム人は様々な夢や大きな期待をもって日本に来ます。失踪者や犯罪者になろうと思って訪日する人は誰もいません。

彼らを、そのような状況に追い込む悪徳ブローカーや送り出し機関、受け入れ監理団体(協同組合) 受け入れ雇用企業が存在しているからなのです。

 3年前に技能実習機構が創設されて、監理団体や受け入れ企業に対する監査が厳しくなった結果、やや改善はしていますが、依然として悪徳監理団体や企業が存在しており、早急な改善が必要です。   【麓 由哉】


<プロフィール>

明川 文保(あけがわ・ふみやす)

DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁。日本支局・(一財)DEVNET JAPAN 代表理事。東久邇宮国際文化褒賞記念会 代表理事。山口県生まれ。1973年山口県防府市に日本初の冷凍冷蔵庫・普通倉庫を備えた3温度対応の総合流通センター開設。岸信介元内閣総理大臣後援会青年部会長、衆議院議員安倍晋太郎私設特別秘書、九州山口経済(連)の国際交流委員・運輸通信委員・農林水産委員、山口大学経済学部校外講師などを歴任。


堂道 英明(どうみち・ひであき)

鴻池運輸(株)社外監査役。DEVNET INTERNATIONAL 理事。石川県金沢市出身。日本の外交官。外務省中東アフリカ局長や、駐インド特命全権大使、国際協力機構(JICA)副理事長などを歴任。現在は、鴻池運輸(株)の社外監査役としてこれまで培ってきた経験・人脈を活かし、国際的事業の発展に精力的に活動している。


梅田 邦夫(うめだ・くにお)

(株)日本経済研究所 上席研究主幹。(一財)外国人材共生支援全国協会 理事副会長。広島県出身。日本の元外交官で外務省国際協力局長を経て、2014年からブラジル駐箚特命全権大使、16年からベトナム駐箚特命全権大使を歴任した後、20年に外務省を退職。その後も、実習生問題解決に向けて積極的に活動を行っている。