ヤドリバエ同定入門シリーズでは,
ヤドリバエの同定で鍵となる形質について, 一つ一つ説明していきます.
今回は, "Length of ocellar setae "についてです.
この項目は, 非常に重要な項目です.
Mosch webでは7番目の項目, CMPDの検索表においては多数のcoupletに記されていますね.
まず, ocellar setaeてなんやねん, てな感じですよね.
これは, 「単眼剛毛」を意味します.
単眼剛毛というのは, 文字通り, 単眼のすぐ近辺に生えている剛毛のことです.
※注)単眼をもたないヤドリバエというのも, 極めて稀ですが存在します. 日本含む旧北区においては, Aulacephala属とTherobia属の二属だけです.
下の写真をご参考ください.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/3birvg1d70d8mmpy1713623965.gif)
ocellar setae (単眼剛毛)の位置がお分かりいただけると思います.
上の写真では, ocellar setaeが前に向かって伸びていますが, 稀に横向きだったり後ろ向きに伸びているケースもあります. こちらについては, またいずれ紹介します.
今回は, この剛毛の “Length(長さ)” がポイントになります.
重要形質度: ★★★★★
わかりやすさ: わかりやすい
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単眼剛毛の長さは, 大まかに, 以下の3つのタイプに分けられます.
①単眼剛毛はよく発達している(well-developed). つまり, 長い.
②単眼剛毛はあまり発達しない. つまり, 短くてまるで軟毛のよう(short and hair-like).
③単眼剛毛が欠如(missing). つまり, 一切存在しない.
単眼剛毛が一切ない場合もあることに注意しましょう.
種類によっては, 欠如しているケースもあります.
では, 実際に写真で見ていきましょう.
↓ocellar setae well-developed
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/dd8d4opg1f4qx6rb1713757680.gif)
単眼付近にかなり長いocellar setaeがあることが, 見てとれます.
well-developedですね.
もう一つ例を見てみましょう.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/zlm8aqxuj5m4one11713771878.gif)
こちらも, はっきりとocellar setaeがありますね.
先ほどのヤドリバエほど長くはありませんが.
では次…
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/1xrp0692rre3xfep1713772303.gif)
おっ, ocellar setaeが一切存在しないタイプじゃないですか?!
と思っちゃったあなた, 実は違うんです!
単眼付近を拡大して見てみます.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/gujmmfh1t68seb8o1713772716.gif)
上の写真を見ると, 少しわかりにくいかもしれませんが, 単眼の近くに, 丸い空洞があります. これは, ocellar setaeの“ソケット”(いわゆる毛根のこと)です.
つまり, 元々, ここには剛毛が生えていたはずなんですね.
それがふと取れてしまったということなんです. それで毛根だけ残っているんです.
ソケットがそれなりに大きいですから, ここにはそれなりの長さのocellar setaeが生えていたことが推測できます.
つまり, このヤドリバエは, ocellar setae well developedのグループに属すると推測できるのです.
このように, 剛毛が取れてしまったり折れてしまっているケースがしばしばあります.
そのような場合を考慮して, 非常に慎重に観察しましょう.
剛毛が取れたところには, ソケットが残っているはずです.
↓ocellar setae short and hair-like
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/3ev0cbxh4mtspfjx1713773916.gif)
ocellar setaeがかなり細くて短いですね!
もう一つ例を見てみましょう.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/jn6k3m5lasl4vejk1713775511.gif)
こちらもocellar setaeがものすごく短いです.
ocellar setaeより少し後方(後単眼付近)に, 5本程度の軟毛が写真に写っていますが, それとそこまで変わらないほどの細さですね.
これがocellar setae short and hair-likeのグループです.
またもやまたもや
じゃあ, その境界ってどう判断すればいいの?
どこまで毛が短かったらshort and hair-likeで, どこまで長かったらwell developedなの?
と訊かれそうです.
あまり判断に困ることはないと思いますが, 定義がはっきり決まっているのでそちらを紹介します.
「ocellar setaeの長さ」 > 「単眼三角形に一番近い frontal setae の長さ」の半分
…well developed
「ocellar setaeの長さ」 ≦ 「単眼三角形に一番近い frontal setae の長さ」の半分
…short and hair-like
frontal setaeについて説明しないといけないですね...
今のところは, 下の写真をご参照ください.
またいずれ詳しく説明します.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/x8yxgkbpdi58mfu71713777513.gif)
↓ocellar setae missing (ocellar setae absentとも言う)
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/ek99yg6mqxm6k9qu1713787487.gif)
ocellar setaeないですね... ソケットも見当たらないですから, 取れたわけでもないです.
ということで, こちらがocellar setae missingのパターンです.
単眼付近には, 軟毛はたくさん生えているものの剛毛がありませんね.
Drino属は, ocellar setae missingの種が多いことで有名です.
もう一つ例を見てみましょう.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/h80sm8v2lnihmdbg1713787738.gif)
やはりocellar setaeは見当たりません.
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ここまで三つのパターンを見てきました.
ヤドリバエにおいては, ocellar setae well developedなものの方が, ocellar setae missingなものよりもかなり多いです.
Mosch Webで試してみると,
ocellar setae well developed: 384属
ocellar setae short and hair-like: 106属
ocellar setae missing: 47属 (重複あり)
ですね.
ocellar setae missingとなる種が多い有名属としては,
Atylostoma属, Aulacephala属, Dexiosoma属, Drino属, Isosturmia属, Peleteria属, Takanomyia属
などがあります.
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最後に, 剛毛に関する形質を調べるとき, 気をつけねばならない点が一つあります.
それは, 「変異」です.
ちょっとした変異で, 剛毛の本数や長さなどが, 本来と異なる場合があります.
例を見てみます.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/vitbz6fuux11en7q1713789842.gif)
ocellar setaeはヤドリバエにおいては, 基本, 1対(右左1本ずつ)です.
しかし, 上の個体を見ると, 左は1本なのに右は2本あります!
これが変異です. 右側のocellar setaeが異常ということです.
この場合は, どちら側が異常かというのがすぐわかりました.
しかし, そういうときばかりではありません. 次の写真を見てください.
![](https://res.cloudinary.com/pando-life/image/upload/f_auto,b_rgb:E9E9E9,c_limit,q_auto:good/article/contents/g3dnkuwm23x13oxw1713790281.jpg)
右側がocellar setae missing(absent)で
左側がocellar setae presentです. ※present:存在する
これでは, どっち側が本来の状態で, どっち側が変異による異常なのか, さっぱりわかりませんね... これだと種類判別のとき, ものすごく困ってしまいます.
結果から言うと, 左側が変異です. この種類は本来, ocellar setaeを持たないです.
でもこれは, 他の多くの形質を確認して, 種類を確定させた後に判明したことです.
変異が存在し, どちら側が本来の姿かわからない場合, その形質は一旦脇に置いて, 他の形質を精査するしかありません.
さあ, いかがだったでしょうか?
ヤドリバエ同定入門③では, "length of ocellar setae"について解説しました.
ぜひいろんなヤドリバエの単眼剛毛を見比べてみてください.
次の記事→ヤドリバエ同定入門④
ヤドリバエ同定入門④ 〜parafacial setae〜
虫キョロリス