ヤドリバエ同定入門④ 〜parafacial setae〜


ヤドリバエ同定入門シリーズでは,
ヤドリバエの同定で鍵となる形質について, 一つ一つ説明していきます.

今回は, "parafacial setae "についてです.
この項目は, 非常に重要な項目です.
Mosch webでは14番目の項目, CMPDの検索表においては多数のcoupletに記されていますね.

まず, parafacialという部位がどこを指すのか説明します.
parafacialというのは, 日本語に訳すと「側顔」です.
と言われても, ピンと来ませんね...
そこで, 下の図を見てください.  parafacialというのは, ズバリ, ここです!
   ↑Drino facialisかその近縁種  Drino sp.の頭部側面

赤丸で囲った部分がparafacialです.
厳密にどこからどこがparafacialなのか, どこが境界線なのか, はまだ僕もよくわかっていないです. すみません.
おそらく, parafacialの上側の境界は lowest frontal setaeではないかと思います.
つまり, lowest frontal setaeより下側がparafacialです.
lowest frontal setaeというのは, frontal setaeのうち一番下にあるものです.
frontal setaeに関しては, 下の写真を参考にしてください.
   ↑Exorista (Spixomyia) lepisの頭部正面

parafacial... 人間でいうほっぺたみたいなところ?って思うかもしれませんが,
ヤドリバエの頬はまた別の部分にあるので, 頬ではないです.

今回は, ここの毛の状態がポイントになります.
parafacialの毛の状態には, 大まかに, 次の5つのタイプがあります.
と言いつつ, 分け方は色々あります. 下記の分け方は一例に過ぎません.

①parafacial bare
 (側顔は裸)
②parafacial with fine hairs on less than its upper half

 (側顔はその上半分より少ない範囲に細い軟毛があるのみ)
parafacial with hairs or setae on approximately its upper half
 (側顔はその上半分程度に軟毛もしくは剛毛がある)
④parafacial with hairs or non-proclinate setulae over its whole length

 (側顔はその全長にわたって軟毛もしくは前傾しない剛毛に覆われる)
⑤parafacial with proclinate setulae

 (側顔は前傾剛毛を持つ)


 重要形質度: ★★★★★
 わかりやすさ: ややわかりやすい


では, 1つずつ具体例で見てみましょう.

↓parafacial bare
      ↑Drino facialisかその近縁種  Drino sp.の頭部側面

最初に, 5つものタイプに分けておきながら言うのもなんですが,かなり多くのヤドリバエがこのグループに入ると思います.
上の写真の個体も, lowest frontal setaより下のparafacialの部分に, 一切, 毛が生えていませんね. parafacial bareです.
もう一つ例を見てみましょう.
    ↑Dolichocolon sp.の頭部側面

parafacialに剛毛が?!
と思うかもしれませんが, 実はこれはparafacialではありません.
parafacialの隣にあるfacial ridgeという部位に生えている剛毛です.
次の写真を見てもらえるとわかるかと思います.
    ↑Dolichocolon sp.の頭部正面

このヤドリバエ, parafacialはあくまでbareです.
parafacialとfacial ridge, 間違えないようにしましょう.


↓parafacial with fine hairs on less than its upper half
    ↑Siphona paludosa[和名なし]の頭部側面

lowest frontal setaより少し下側, parafacialの上部に, 軟毛が7本ほど生えています.
この場合は, 2つ目のグループになりますね.


↓parafacial with hairs or setae on approximately its upper half
   ↑Smidtia sp. [未同定]の頭部側面

parafacialの上半分程度に軟毛が多数生えていますね. これが3つ目のグループです.


↓parafacial with hairs or non-proclinate setulae over its whole length
    ↑オオズクロスジハリバエ Gonia chinensisの頭部側面

parafacial 全体に, 軟毛や短な剛毛がたくさん生えています.
Gonia属は4つ目のグループなことで有名です.

setulaeはsetaeと同義で, 「剛毛」を意味します.
non-proclinateは, proclinateを否定する語で, proclinateの意味についてはもう少し下の方で説明しているので, そちらを参考してください.

もう一つ例を見てみます.
     ↑アカアシナガハリバエ Dexiosoma caninumの頭部側面

これは, parafacial bareでは?!
と思ってしまいますよね... もうちょっとよく観察してください.
拡大して見てみます.
      ↑アカアシナガハリバエ Dexiosoma caninumの頭部側面

実は, 短な毛が多数生えているんですね.
白く反射してるのがかすかに見えると思います.
なので, このヤドリバエは①のグループではなく, ④のグループです. これは少しわかりにくいかもしれませんね.


↓parafacial with proclinate setae
     ↑Peleteria pallida[和名なし]?の頭部側面

parafacial全体に軟毛がたくさん生えていますね!
さらに, parafacial中ほどには, 剛毛も3本長いのが生えています.
この剛毛は,proclinate setae”という種類のものです.
これについて説明しますね.
proclinateは, 日本語に訳すと, 「前傾した」です.
毛の生えている表面に対して, 前かがみに生えているものがproclinate setaです.
逆に, 毛の生える表面に対し, 後ろかがみに生えるものをreclinate setaと言います.


先ほどのヤドリバエの横顔の写真を見ると, parafacialに生える3本の剛毛は, 毛の生える表面に対して前かがみに生えています.
つまり, これらはproclinate setaeです.
このような場合, 5つ目のグループに属します.

Peleteria属は5つ目のグループに属することで有名です.
Tachina属とよく似ていますが, Peleteriaがparafacial with proclinate setulaeな一方, Tachinaはそうではありません.
さらに, Peleteriaはocellar setaeを持ちませんが, Peleteriaは持つという違いもあります. 非常によく混同される2属です.


もう一つこのグループの例を見てみます.
    ↑Athrycia trepida [和名なし]の頭部側面

parafacial上部に, かなり長い2本のproclinate setaeがありますね!
こちらも⑤のグループということになります.

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ここまで4つのパターンを見てきました.
最初のほうでも述べましたが, ヤドリバエにおいては, parafacial bareなものの方が, それ以外のものよりも結構多いです.
④や⑤のパターンは比較的珍しいです.

④や⑤のパターンになる種を含む有名属は,
Athrycia属, Dexiosoma属, Drino属, Gonia属, Istocheta属, Leucostoma属, Linnaemya属, Panzeria属, Peleteria属, Phasia属, Pseudogonia属, Tachina属, Voria属, Winthemia属
などがいます.
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さあ, いかがだったでしょうか?
ヤドリバエ同定入門④では, "parafacial setae"について解説しました.
ぜひいろんなヤドリバエの側顔を見比べてみてください.


次の記事→ヤドリバエ同定入門⑤ (現在執筆途中です)

ヤドリバエ同定入門⑤ 〜setae on facial ridge〜

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