新型コロナウイルスへの対応について。

今回は少し、毛色の違う投稿をします。

【新型コロナウイルスへの政府の対応について。】

かつての同僚(厚労官僚)、警察庁はじめ官邸官僚の方々が寝食忘れて対応に奮闘されていること、本当に敬意を表します。私たちが思っている以上に、対策を講じる方にはものすごいプレッシャーが押し寄せます。100点満点でないことを叩くのは簡単ですが、とやかく外野から論評するのは気が引けるところもあります。

それでも、僕自身、東日本大震災の際に医療担当部局の総括者として切り盛りし、新型インフルエンザの対策チームにも在籍した経験も踏まえ、また国際保健の大家である海外の友人と話したことをもとに、いくつかの問題意識をお話しします。

今回のような感染症のアウトブレイク(通常以上に発生すること)のような危機管理において大事なのは、「必要なリソース(人員や金)を必要なところに的確に投入するロジスティックス」「情報を漏れなく集め先手を打つためのインテリジェンス」と言われています。

この点で、もっと日本が確かな感染症対策を講じられるように、以下のような問題意識について、皆で考えていくべきではないかと考えます。

1.政府内のガバナンスと指揮系統が混乱していないでしょうか。

・今や、政府の危機管理は警察官僚の皆さんが仕切っているようです。しかし、医学的な知見や対応に関しては、素人対応になっていないか、注意が必要です。あくまで、厚労省より官邸の方が上役で、厚労省の考えや専門性でも通らないとすればもどかしいこともあるでしょう。いわゆる警察的な発想だけでは「善と悪」「ひとり残らず食い止めよ」というマインドで突き進んでしまうおそれもあります。

・「水際で食い止める」という発想は、初期段階で一定の意味はあるのかもしれませんが、状況をかんがみると、感染が国内に広がった状況を想定した対策を先手で講じることが大事でした。パニックを抑えること、そして、重症化する方々への周知や病床の確保などです。しかし、実際には、連日、クルーズ船に、医療担当部局の職員までもが投入され、あたかも”水際作戦オンリー”とも言うべき人的資源の投入をすることは、現場のスタッフを疲弊させるばかりか、本当に必要なことに人手が割かれないことを懸念します。

・なお、検疫所も苦労されていますし、大事な機関なのですが、厚労省の医療系官僚の”直轄地”のようなでもあり、それが故に、検疫所を活躍させなきゃ、という心理が働くことがないようにしていくことも大事です。現場が酷使されると対応や判断にも影響が生じるのはどこの組織も同じです。

・政治家も、国民の代表として動くことは大事な資質ですが、一方で、徒にクルーズ船を「視察」したり、動き廻って「頑張ってます」アピールと見られるようなことをするのは控えることが大事です。もちろん有用な視察もあるでしょうが、政治家が動くことは、その準備や対応に、現場の多くの人員が割かれることには思いを致すべきです。急時にこそ、アピールの場とばかり動いてしまうことになっては、東日本大震災時の私の経験を思い起こします。映画シン・ゴジラで描かれた世界です。

2.国際的な情報を活用する能力・人脈(いわゆるインテリジェンス)についても、相変わらず、日本は脆弱ではないでしょうか。

・残念ながら、厚労省は行政機関であり、世界的な感染症の専門家や、国際保健の世界で各国のキーパーソンと直接つながっているスタッフはほとんどいません。それは仕方のないことでもあります。日本の学術界でもしかり。国立感染症研究所の先生らは、基礎医学研究の分野では素晴らしい知見をお持ちですが、アウトブレークに際しての知見や対応についての専門家は少数です。

・さらには、巷のクリニックや市中病院の感染症専門の医師の方々も、患者を診るという臨床面では専門家かもしれませんが、アウトブレークに際しての対応や見通しについて、テレビなどで語って、解説してもらうというのは残念ながら酷というものでしょうか。全く次元の違う話ですから。

・かつて「保健医療2035」で提言したように、先進諸国の保健省に設置されているようなCMO(chief medical officer)とCDC(疾病予防管理センター)を日本に設置することが急務です。CMOは、政治からは中立性を持って、専門的に、保健医療政策をサポートする役職です。それを支えるために厚労省省内に、世界の最新情報や学術論文を即時適切に収集・分析し、日本の知見を国内外に発信する体制の構築が必要、と提言させていただきました。CDCは健康危機対応のための独立したプロ集団です。現在は日本国内にそのような組織はありません。感染症研究所がアウトブレイク対応を任されていますが、研究所では国を守ることはできないと考えています。いずれも、最後はいかに適切な人材を登用してくるか、ということが大切で、いたずらにポストやハコを作ることは慎まねばなりません。

3.情報の出し方も、国民が薄々感じているように、遅く、狭くなっていないでしょうか。

・タクシーの運転手さんなど、街中の人と話しても、「政府は大げさにしないように情報をコントロールしているではないか」という見方が多いのが実情です。政府が「国内アウトブレイクはない」と言っているのには、本当かな?という疑念を持っている人も少なくないようです。もちろん、根拠なく、煽ることはしてはならないし、憶測でものを言えないという政府の難しさはあります。しかし、情報を抑制することで、かえって不安を煽っては元も子もありません。東日本大震災のときの原発事故のときの情報公開の遅さ、を思い起こしてしまいます。

・ちなみに、私の過去の経験では、このような事態での「対策本部」に集められた職員は、上へ下への大騒ぎで、仕事に邁進しています。全国47都道府県からの情報、世界各国からの情報を整理・分析するだけでも過酷な作業です。しかも、メディアへの数時間おきの記者会見への想定問答づくり、国会質疑への答弁作成など、対外的な説明や整合性のある筋道ある言葉づかいの整理など、膨大な作業が生まれます。言い間違いが許されない、という壮絶なプレッシャーが彼らを襲っていることにも思いを致してください。

・政府ではないですが、テレビ局各社も、とりあえず形になるよう、それらしき専門家を捕まえてきて、ゲストとして出演依頼する必要があるようです。しかし、専門ではないのに、あれやこれやと質問攻めにあうと、かえって見ている方々の情報や憶測を混乱させます。医師だから、誰でも何でも分かるなんてことはありません。テレビを見ていると、コメンテーターやスタジオのタレントがゲストに「答えられそうもない」難しい質問をゲスト医師に投げて、ゲストが苦し紛れに憶測でモノを言う、とも見えるやり取りもあり、生産的ではありません。メディア自身が、海外から直接海外メディアや当局から情報を入手する努力をしているのか、心もとないところです。

私は政府内部にいる訳でもないので、直近の状況を正確に知る由もありません。現場や政府内、メディア含めて、皆な、一所懸命に少しでも感染拡大を食い止めようと死力を尽くしています。その思いは間違いないものです。しかし、貴重な労力が、刻一刻と割かれている今だからこそ、少しでも、賢く力を結集し、情報が適切に公開され、それを受け止める私たちも冷静に対応し、自分の頭で考える、それが必要です。

政府の対応の拙さや不十分さをあげつらうだけでは、問題解決にはなりませんし、他人事にしてはなりません。
私たちも、冷静に、今起きていることを観察して、毎回、きちんと反省・検証し、進歩させていくことが必要だと、改めて感じます。

関係者の皆さんの奮闘に改めて敬意を表しつつも、
足を引っ張り合うのではなく、一致団結して、この危機を乗り超えましょう!


岩尾俊兵
2020.02.26

毎日いろんなイベントの中止の通知を受け取り、また私が住む町ではマスクの奪い合いの乱闘が起き、まさしくパニック状態を目の当たりにしております。

> テレビ局各社も、とりあえず形になるよう、それらしき専門家を捕まえてきて、ゲストとして出演依頼する必要があるようです。

この部分も非常によく分かります。
また、今こそ一致団結というところも共感いたします。

私も何か役に立てばと、コロナウイルス拡大の人工社会シミュレーションをプログラミングして、医療政策研究者に無償で差し上げました。
人の多い場所から順に消毒する、マスクも人に会うことが多い交通機関従業員に重点的に配分するなど、色々なことが分かり始めているようです。

同時に、死亡率と感染率が二律背反になっているという非常に難しい問題の存在を知りました。

私はひとまず発言を避け、必要に応じてまたシミュレーションなりで貢献できる準備はしようと思いました。
たけうち先生のお言葉に勇気をいただきました。