世界平和に向けて(17)
【特別対談】変わるべき「外国人技能実習制度」 コロナ禍で浮き彫りにされた課題(後)
DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁
明川 文保 氏
元駐ベトナム 特命全権大使
梅田 邦夫 氏
元 駐インド特命全権大使 JICA副理事長
堂道 英明 氏
日本はこれまで外国人技能実習制度(以下、実習制度)のもと、中国やベトナムなどのアジアの国々から数多くの人材を招いて来た。
先進国として開発途上国に対する貢献活動の意味もあり、これまで多くの実績を残して来た事も確かだ。
一方で、人材送り出し国も経済的発展を遂げ、あらゆる環境が変化した事で、同制度の「実態」に光が当たる事も増えた。
コロナ禍によって浮き彫りにされた課題と、今後、日本が進むべき動向について、3人の有識者が語り合った。
◎聞き手
株式会社 データ・マックス
代表取締役 児玉 直
コロナ禍だからこそできること
変わるべき実習制度の実態
明川 今回、コロナ禍によって国際間の物理的交流が止まり、同時に問題も多く生まれました。
日本も急激な不況に見舞われており、中小企業は真っ先に切り易い実習生を、一方的に解雇しています。
時には、空港に置き去りにしたり、無給で労働させたりするなど、悪質な実例も有ると報告を受けています。
DEVNETではSDGsの一環として実習制度を推奨し、様々な取り組みを行なって来ましたが、この様な状況を踏まえ、より加速化させる必要があると考えています。
私たちは今、農業に目を向けています。
日本には(農協連 以下、農協という)素晴らしい制度があります。この制度そのものをベトナムに提供するというプロジェクトです。
この制度のもと、鳥や牛などの家畜を預託し、生産元を援助する仕組みをベトナムで実施する方針です。
これは日本に高い農業技術が有るにも関わらず、地方を中心に深刻な人材不足が問題となっており、ベトナムで活用されていない豊かな土地の運用を同時に解決するための計画なのです。
現在、農協を中心に声をかけており、実現に向けて動いています。
堂道 英明 氏
堂道 農協など日本の制度を作り上げてベトナムで雇用する為には、ベトナム政府から日本政府への支援要請が必要です。
この要請があり、日本で支援できる財団や人材が入れば技術協力は可能でしょう。
私が社外役員をしている会社では、外国人労働力の安定的確保の為に、技能実習生の日本での生活を支えると共に、必要な業種では、送り出し派遣国の関連企業との提携強化やM&Aも必要だと考えています。
明川氏の構想は、帰国した技能実習生の起業を支援できないかというものであり、似た様な側面があります。
一過性の労働力として見ないで、技能の発展を共有して、送り出し派遣国でも産業を起こそうとしている点が、優れた構想だと思います。
そこで、こうした構想をJICAなどで支援する事ができるか、という点ですが…
たとえば中小企業の海外展開支援制度は、申請する日本企業や事業自体の審査は有るものの適用可能との事でした。
JICAの支援は、あくまでも日本企業への支援です。これは農業分野でも適用されます。
この制度は補助金ではなく構想実現の為の調査費用という位置付けですが、それなりの調査費用が出せますので、パイオニアが出て来ることを期待したいのです。
これらの活動を行なって行く為には、両国政府間で諸問題の解決に対して共同で実施していく認識が必要であり、日本とベトナムの協同で人材を育成するという概念を作り、それをベースに実習生や特定技能、留学生などを当てはめて行く事ができれば、より効率と効果が上がる事を期待できます。
梅田 農業協力で言えば、ベトナム北部ナムディン省では、日本文化日本語学院と南九州大学が連携し、技能実習制度を活用して、日本の農場実習、南九州大学(宮崎)への留学を行なっています。
また、ベトナムにも農業大学は有りますが、農業高校が無い事から、JICA協力のもとで、第一号の高校を作ろうという動きも有ります。
また、直ぐに対応しなければならない問題として、コロナ禍の日本で、仕事も住居も失い、生活費にも事欠き、帰国もできないベトナム人の増加があります。
昨年12月初旬段階で約2万人のベトナム人が帰国を希望していますが、ベトナムにおける隔離施設の収容能力に問題が有る事から帰国便を増やす事が困難で、帰国したくてもできない状況があります。(註=帰国後、コロナ対策として一定期間の隔離が義務付けられている)
私が所属している「外国人材共生支援全国協会」(NAGOMi)では、関係省庁と自民党が連携して、技能実習・特定技能・留学・定住(日系人)などに関する制度改善に必要な具体的施策についての勉強会を始めています。なお、新たな技能実習生は、人数こそ少ないものの、11月以降も訪日し続けています。
明川 現在のコロナ禍で面接ができない、人の移動ができないなどの理由で、実習制度は停滞しています。
また先ほどもご指摘が有った様に、日本国内の受け入れ企業が、実習生を雇用し続ける事ができず、実習生を蔑ろにしてしまっている状況がより顕著になりました。
自国の事で手いっぱいとなっている状況ですが、今回のコロナ禍は、今までの実習制度の在り方を見直し、再編して行く機会と捉える事もできます。
むしろ、今しかできない事です。
コロナ禍が沈静化し、ヒトの移動を含めたグローバル経済が再開すれば、これまでのやり方と変わらない実習制度が運用され、問題は、また闇の中に紛れるのは明白です。
人口減少が止まらない日本にとって、人材不足は経済崩壊をも招く要因の1つです。
もはや日本にとっては 「貢献活動」ではありません。
実習制度の本来の目的にズレが生じる事は、時代の移り変わりがある以上、致し方なく、また当然の様に起こり得る事なのです。
だからこそ私たちは問題を提起し、時代に合わせた制度の再編や、制度が活かせる環境づくりを目指さなければなりません。
【麓 由哉】
<プロフィール>
明川 文保(あけがわ・ふみやす)
DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁。日本支局・(一財)DEVNET JAPAN 代表理事。東久邇宮国際文化褒賞記念会 代表理事。山口県生まれ。1973年山口県防府市に日本初の冷凍冷蔵庫・普通倉庫を備えた3温度対応の総合流通センター開設。岸信介元内閣総理大臣後援会青年部会長、衆議院議員安倍晋太郎私設特別秘書、九州山口経済(連)の国際交流委員・運輸通信委員・農林水産委員、山口大学経済学部校外講師などを歴任。
堂道 英明(どうみち・ひであき)
鴻池運輸(株)社外監査役。DEVNET INTERNATIONAL 理事。石川県金沢市出身。日本の外交官。外務省中東アフリカ局長や、駐インド特命全権大使、国際協力機構(JICA)副理事長などを歴任。現在は、鴻池運輸(株)の社外監査役としてこれまで培ってきた経験・人脈を活かし、国際的事業の発展に精力的に活動している。
梅田 邦夫(うめだ・くにお)
(株)日本経済研究所 上席研究主幹。(一財)外国人材共生支援全国協会 理事副会長。広島県出身。日本の元外交官で外務省国際協力局長を経て、2014年からブラジル駐箚特命全権大使、16年からベトナム駐箚特命全権大使を歴任した後、20年に外務省を退職。その後も、実習生問題解決に向けて積極的に活動を行っている。