ヤドリバエ同定入門② Eye bare or pubescent ?


ヤドリバエ同定入門シリーズでは,
ヤドリバエの同定で鍵となる形質について, 一つ一つ説明していきます.

今回は, "Eye bare or pubescent ? "についてです.
この項目は, 非常に重要な項目です.
Mosch webでは1番目の項目, CMPDの検索表においては多数のcoupletに記されていますね.

まず, この英語を理解しましょう.
「eye」というのは, 日本語に訳すと「複眼」です. 
複眼は, 単眼とはっきり区別するために, 「compound eye」と表現することもあります.
「bare」,「pubescent」については, 前回の記事をご参考ください.
それぞれ, 「むきだしの・裸の」, 「毛に覆われた」という意味です. 

前回の記事→ヤドリバエ同定入門①

ヤドリバエ同定入門① Arista bare or pubescent ?

虫キョロリス


結局, “Eye bare or pubescent?”は, “複眼に毛が生えているか生えていないか?”という意味です.
ただ, 実際の検索表やMosch Webにおいては,
「Eye bare or nearly bare」 or 「Eye pubescent」?というふうに
nearly bare(bareに近い)の場合もbareと同じグループに含めることになります.
なので, これ以降は, “「Eye bare or nearly bare」 or 「Eye pubescent」?” として表すことにしますね.
複眼, つまり目 に毛が生えているというのは人間の感覚でいくと不思議な感じもしますが, ヤドリバエではよくある話です.

  「Eye bare or nearly bare」 or 「Eye pubescent」 ?
  (訳)「複眼は裸か裸に近い」もしくは「複眼は被毛」のいずれか?
  (意)「複眼には毛が生えていないかほぼ生えていない」,

     もしくは「複眼には毛が生えている」のどちらか?
  重要形質度:  ★★★★★
  わかりやすさ: わかりやすい


では, 早速, 写真で確認してみましょう.

↓eye bare
    ↑Exorista(Spixomyia) lepis [和名なし]の頭部背面

複眼には, 特別, 毛が生えているようには見えません.
複眼は裸であると言えます.
もう一つ例を見てみましょう.

    ↑Drino facialisかその近縁種 Drino sp. の頭部側面

こちらも, 複眼には毛が生えていませんね...
ちょ〜っと待ったぁ〜〜!!
少し角度を変えてみてみましょう.

    ↑Drino facialisかその近縁種 Drino sp. の複眼 (後方から)

どうでしょう?  複眼の表面に, 毛が短いですが, はっきり存在するのが見えますね.
このような短い毛を " ommatrichia (オンマトリキア) " と言います.
複眼にオンマトリキアがまばらに生えている場合, "eye sparsely haird (複眼はまばらに被毛)"  とか "eye with scattered hairs (複眼はまばらに被毛)" などと表現します.


じゃあ, このような場合は, eye pubescentに含めるのか?というと,
実は, eye nearly bare(複眼はほぼ裸)と見做して, eye bareと同じグループに含めます.


またもやまたもや

じゃあ, その境界ってどう判断すればいいの?
どこまで毛が短かったらnearly bareで, どこまで長かったらpubescentなの?

と訊かれそうです.

そうですね〜.
pubescentの場合は明らかに毛が長い場合が多いので, 比較的判断に困ることは少ないかと思います. ただ, ちゃんとした厳密な定義がありますので, 紹介しますね.

 eyeの毛の長さ  ≦  facet2つ分の長さ ・・・ eye bare or nearly bare
 eyeの毛の長さ  > facet3つ分の長さ ・・・ eye pubescent

facetってなんやねんって感じですね.
facetというのは個眼面のことです.
昆虫の複眼は, 小さな個眼がたくさん集まって構成されています.
この個眼一つ一つの表面をfacetと表現するのです.

    ↑Drino facialisかその近縁種 Drino sp. の複眼 (後方から)

ご参考ください.


↓eye pubescent

      ↑ルリアシナガハリバエ  Janthinomyia elegans の頭部背面

複眼に毛が生えているのがとてもよくわかりますね.
もう一つ例を見てみます.

     ↑ナカジロハリバエ? Senometopia prima? の頭部側面

やはり毛が生えているのがよくわかります.
ただ, 光の当たり具合や角度により, 稀に毛が見えにくい場合があります.
複眼の毛の有無については, よく観察してから判断しましょう.

上に示した2つの写真のように, 複眼全体に多数の毛が生えている場合は,
" Eye densely haired(複眼には毛が密生する) " と表現します.
ちなみに, Senometopia属は, "Eye densely haired" なことで有名な属です.


今回紹介したのは,
「eye bare or nearly bareのケース」と「eye pubescentのケース」なわけですが, 前者の方がやや多いです.
Mosch webによれば, 旧北区にいる423属のうち, eye bare or nearly bareが309属で, eye pubescentが148属となっていますね.(重複あり)


さあ, いかがだったでしょうか?
ヤドリバエ同定入門②では, "Eye bare or pubescent ?"について解説しました.
ぜひいろんなヤドリバエの複眼を見比べてみてください.
(終)



次の記事→ヤドリバエ同定入門③

ヤドリバエ同定入門③ Length of ocellar setae

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