好きなもの紹介②

 私が紹介する好きなものはナイジェリアの作家であるエイモス・チュツオーラのやし酒のみという小説です。彼は英語を使用して作品を執筆しましたが、その文体はヨルバ語(ナイジェリアなどに住むヨルバ人が話している言語)を英語構文に導入したような不思議な文体です。そのため日本語に訳した際に常体とですます調が入り乱れるといった不思議なことがおこり、この作品の魅力をより増やしています。

 この作品のあらすじは次のようなものです。やし酒を飲むことしか能がない男(のちに神々の父と判明する)が、専属のやし酒作りの職人が事故で死んでしまったためにその職人を呼び戻しに死者の町へ行く冒険譚です。それに珍奇な生き物が出てくるアフリカの神話が混合したというような物語になっています。旅の最中に森で頭蓋骨だけの紳士から町長の娘を助けて妻にしたり、町の食べ物や住民などすべてが赤い町に行ったり、森の白い木の中に住む誠実な母なる人物にもてなしてもらったりしながら、やし酒作りの職人の住む死者の町へ向かいます。これは巻末の解説に書かれていたことですが、アフリカ人にとって森は神聖で恐怖を感じるものらしいです。また、ユーモラスな挿話も面白いです。不帰の天の町という残虐な生物が住んでいるところに行ったときの描写では「この未知の生物たちは、何かにつけて、人間の逆張りを行くのだった。たとえば、木に登る時には、まずハシゴに登っておいて、そのあとから、ハシゴを木にもたせかけたし、また、町の近くに平坦地があるのに、家はすべて、傾斜の急な丘陵の中腹に建てたし、そのために居住者も落っこちそうなぐらいに、家は傾斜し、事実、子供たちは、家からいつもころがり落ちていたが、親たちは一向におかまいなしといった調子だった。」と滑稽に述べられています。さらに、よく出てくる登場人物にソング・ダンス・ドラムというのがいます。彼らよりうまく歌える人も踊れる人も、ドラムを叩ける人もおらず彼らが演奏を始めると体が勝手に歌い、踊り始めます。特にダンダンというドラムはヨルバ人の中で言語としても使われており彼の別の作品にもよく描写されています。それはあらゆる調子の音を出すことができ、そのことは音のピッチの高さが重要なヨルバ語にうってつけのものらしいです。この小説を読んでアフリカの雰囲気がわかったような気がします。アフリカに関係する団体に所属しているのでこれからアフリカの小説も読んでいこうと思います。