「正しいファシアケア」普及プロジェクト

 ファシアは、筋肉や臓器、神経や血管などの周囲、そして人体を包み込むように皮下脂肪の中にもあります。糸状の構造物(線維性結合組織)が網の目構造を呈して、人体の隙間を埋めるように存在しています。例えば、アキレス腱とそれを取り巻く腱鞘との間には滑りが必要で、その動きを許すのが立体的な網の目構造となるわけです。

 「美と若さの新常識」では、「下腹ぽっこりを解消する」というテーマでしたので、腹部のファシアケアをご紹介しました。蒲田が考案した「組織間リリース」という技術を用いて、腹筋の最も深部にある腹横筋の周囲のファシアの動きを改善して、腹横筋を最大限に収縮できるようにしました。その結果ウエストがほっそりし、姿勢も大きく改善したことが紹介されることと思います。

 腹横筋の周囲のファシアケアを行うとき気をつけなければいけないことがあります。それは、腹横筋の厚さは数ミリで、その奥には内臓があります。ちょっと抵抗感があるところまで押し込むと、いとも簡単に内蔵を潰してしまうことになります。そのようなことを避けるため、腹横筋の表側の深さ、あるいは腹横筋の裏側(内蔵側)の深さを正確に判断しつつ、適切な深さに到達するまで指先をそっと沈み込ませていきます。


 一方で、ファシア〇〇という名前を用いて、ファシアの動きを改善していることをアピールする治療やケアが広く行われています。〇〇マッサージもしくは〇〇リリースという名前が用いられることもあります。いろいろな方法があるので個別の技術への言及は避けますが、その技術を用いるときにファシアに対してどのような作用があるか、そしてその周辺のファシア以外の組織にどのような作用があるのかをよく吟味することが必要です。

 腹横筋に対して、深さを調節せずに押し込むような技術を使うと、少なからず内蔵を潰すことになります。もしも内蔵に疾患があったり、内臓のそばの血管が弱くなっていたら大変なことになります。そのような例は、筋肉に対するファシアケアでは頻繁に起こることです。例えば殿部に強いマッサージ(もしくはファシアケア)を行って、大殿筋の奥にある坐骨神経を潰し、坐骨神経症状を起こしてしまうことがあります。こうして坐骨神経症状を発症する患者さんは想像以上に多く、中には自分自身で硬いボールなどを使ってグリグリと神経を潰してしまっている場合もあります。

 このように、どの組織にどの程度の力を加えているのかを正確に把握せず、ただ潰すだけになってしまう技術を「挫滅マッサージ」と呼んでいます。これは、そのような強いだけのマッサージ、ファシアケアを受けている方、もしくは自分自身で実施している方には、あらためてその結果を冷静に判断することをお願いしたいと思います。1ヶ月やってみて症状が悪化していたらまず止めてみましょう。それだけで症状が良くなることもあります。

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