ロシアクラシックの有名ヴァイオリン協奏曲

kurasuuです。この記事では、ロシアクラシックの中でも親しみやすいと思われるヴァイオリン協奏曲の有名曲を紹介したいと思います。

私がクラシックについて語る時、かなりの長文となりがちですので、「クラシックなんか興味ねーしあんなつまんないのきかねーよks」というような方はここでブラウザバックをすることを推奨します。


ロシア音楽史について

これ以降、「音楽」=「クラシック音楽」とさせていただきます。クラシックに全く興味がない方は排除した(???)つもりですし、クラシックに関心のある方でしたらこの表記で分かってもらえると信じています(単に自分がクラシックと打つのが面倒だからですが)。

皆さんは「ロシア音楽」と聞いてどんな曲を思い浮かべるでしょうか?チャイコフスキーのくるみ割り人形や白鳥の湖?それとものだめカンタービレの千秋先輩の演奏でおなじみのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番?はたまた、ショスタコーヴィチの交響曲5番とか?人によってイメージするものは様々でしょう。時代が違えばその当時流行りの音楽が違うのは当然です。皆さんにロシア音楽を好きになってもらうためにも、まずはロシア音楽史について大雑把に説明していきたいと思います。ここではロシアの音楽史を大きく4つに分けて手短(?)に説明させていただきます。

1.ロシア音楽創成期〜

現在で言うロシア音楽が始まったのは意外にも遅く、19世紀に入ってしばらくしてからでした。後に「ロシア音楽の父」と呼ばれるグリンカから始まり、少し時が経ってバラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフのロシア民族的な要素が強めの音楽を作曲したロシア五人組やチャイコフスキー、また更に時が下るとグラズノフやラフマニノフ、スクリャービン(初期)といった作曲家が続きます。この時代の音楽(かなり大雑把な分け方をしましたが)の特徴としてはロマン派にロシア的な要素が合わさった作風です(ニワカがバレる)。

2.20世紀初頭〜

19世紀末になると、音楽界でロマン派から脱却しようという動きが徐々に見られるようになりました。フランスでの印象主義音楽はその先駆けと言えるでしょう。ロシア音楽に関しても例外ではなく、スクリャービンがショパンのようなロマン派の透き通ったような作風からどこかドロドロとした神秘主義的な作風へと変化していきます。その影響を受けてか、その後に続いて当時前衛的な音楽をかいた作曲家がストラヴィンスキーとプロコフィエフの2人です。彼らのその複雑なリズムや不協和音に満ちた作品は、当時の楽壇でセンセーショナルを巻き起こしました。その頃のドイツでのシェーンベルクら新ウィーン楽派が創始した無調音楽等の影響も相まって、ロシア音楽では非常に前衛的な音楽が生み出されていきました。

3.スターリンの社会主義リアリズム〜

上で述べたような前衛的な音楽運動は、スターリンの出現によって終わりを迎えます。1930年頃からスターリンは無調音楽等の「分かりにくい」音楽を弾圧していきます。そして1932年、スターリンは「社会主義リアリズム」の提唱に至りました。その表現方針は

  • 現実を、社会主義革命が発展しているという認識の下で、空想的ではなく現実的に、歴史的具体性をもって描く

  • 芸術的描写は、労働者を社会主義精神に添うように思想的に改造し教育する課題に取り組まなければならない(wikipediaより引用)

つまり、一般大衆に向けた平易で分かりやすい音楽を作曲することを作曲家に要請するものです。今要請と言いましたが、時代はスターリン政権下。皆さんがイメージするソ連に違わず、この要請に従わない者は音楽界での地位を完全に失ってしまうことになります。これにより、ソ連の音楽は復古的なものとなりましたが、一方で作曲家自身の作風と社会主義リアリズムを上手く融合した傑作がたくさん生み出された時期でもありました。この傾向は戦後のジダーノフ批判の頃非常に強まり、ショスタコーヴィチやハチャトゥリアン、プロコフィエフといった当時の有名作曲家は体制に賞賛されるような音楽を作ることを余儀なくされました。

4.スターリン死後〜

1952年、スターリンが死去します。この偉大なる独裁者の訃報は、ソ連中を大混乱に巻き込みました。そんな中、ショスタコーヴィチが交響曲第10番を発表。反社会主義リアリズムで晦渋なこの作品は、当時のソ連楽壇で大論争を巻き起こしました。この論争は、ショスタコーヴィチ肯定派が優勢なうちに収束し、これ以降音楽に対する当局の制約は次第に緩くなっていきます。ショスタコーヴィチやヴァインベルグ、シュニトケといった作曲家は西欧で広まっていた十二音技法等の前衛的な技法が取り込まれるようになっていきました。また、クラシック音楽とジャズ音楽との融合を図った作曲家としてカプースチンも有名です。

有名ヴァイオリン協奏曲の紹介

ロシア音楽史について軽く触れたところで、ようやく本題であるロシアの有名ヴァイオリン協奏曲について紹介したいと思います。なぜヴァイオリン協奏曲なのかというと、単純に自分がヴァイオリン奏者だからです(機会があればピアノ協奏曲も紹介したいところです)。

ここでは年代順に有名ヴァイオリン協奏曲を紹介していきます。

P.チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

知ってる人も多いと思います。4大ヴァイオリン協奏曲の1つであり、ロシア音楽の中でも抜群の知名度を誇る後期ロマン派のヴァイオリン協奏曲です(個人的には3大ヴァイオリン協奏曲に入っていないのが不服です())。第1楽章の甘美な旋律、第2楽章の悲しく美しい叙情的な旋律、第3楽章の快活で楽しい旋律と、ヴァイオリン協奏曲の王道であり今日多くのファンに愛され続けています。個人的にもヴァイオリン協奏曲の中で最も好きな曲であり、思い入れの強い曲です。
https://youtu.be/CTE08SS8fNk

A.グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲

このヴァイオリン協奏曲はグラズノフが自身の作曲活動の最盛期であった1904年に作曲されたヴァイオリン協奏曲で、グラズノフの代表作の一つ。チャイコフスキー譲りの華麗な協奏曲でありながら、グラズノフ特有の上品さも兼ね備えた、ヴァイオリン協奏曲の名曲です。カデンツァの重音と第3楽章の明朗な旋律が印象的です。
https://youtu.be/jq8oxIgyp8E

S.プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番

ロシア革命のさなかのプロコフィエフの亡命前に完成された作品ですが、初演は亡命先のパリにて行われました。亡命以前のプロコフィエフの作風はピアノ協奏曲第2番(これも大変な名曲なのでいずれ紹介したいところです)のような急進的でグロテスクさが前面に押し出されたものが特徴的でしたが、この作品はどこかつかめない感じの幻想的・瞑想的な作風の第1,3楽章と、刃物のような鋭さを持った第2楽章で構成されています。元来ヴァイオリン協奏曲の形式的に急緩急という構図が一般的なのに対し、この作品は緩急緩という構成であるのが特徴的です。
https://youtu.be/SokXIbbfkrk

I.ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲

ストラヴィンスキーが唯一作曲したヴァイオリン協奏曲。ストラヴィンスキーの作風が新古典主義の時代に作曲されていることもあり、簡素だが現代的な響きが特徴的。第3楽章の旋律がとても楽しそうな作品です(正直に言うと、あんまりストラヴィンスキーは聞きこんでませんorz)。
https://youtu.be/UQn6NG9CTn4

A.ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲

ハチャトゥリアンが1940年に作曲した作品。当時ハチャトゥリアンは、エレヴァン周辺の民族音楽を調査中であり、その影響を受けつつ後の初演者であるオイストラフの助言も受けながら作曲されました。ハチャトゥリアンは民族的な色彩が強く大胆な作風が特徴的ですが、この曲においてもその特徴は存分に発揮されています。美しい抒情的な旋律は存分にうたい、第3楽章のような民族色満載の快活な旋律はとても楽しくパワフルであり、今日におけるヴァイオリン協奏曲の隠れた名曲といっても差し支えはないでしょう。
https://youtu.be/TeKZAbFj83I

D.カバレフスキー:ヴァイオリン協奏曲

カバレフスキーが1948年のコムソモール結成30周年を記念し、青年に捧げる協奏曲三部作(ピアノ・ヴァイオリン・チェロ)のうちの一つとして作曲された作品です。青年に捧げていることからか、それともカバレフスキーの素直な抒情性からか、この曲は非常に平明なものとなっています。また、演奏時間が17分程度と、ヴァイオリン協奏曲としてはかなり規模の小さい作品です。こういうシンプルな分かりやすいヴァイオリン協奏曲も聞いてみれば非常に楽しいものです。
https://youtu.be/_T6flnBaRhA

D.ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番

最後に紹介するのは20世紀のヴァイオリン協奏曲の代表曲と言ってもよいほどの、交響曲に匹敵するレベルのこの大作。1947~1948年に作曲されましたが、時勢はジダーノフ批判でショスタコーヴィチ自身に批判の矛先が向けられている状態。この作品はいくらか前衛的で晦渋な作風であったため、ショスタコーヴィチはこの作品の発表を見送ります。偉大なる独裁者スターリンが死去し、音楽に対する規制が緩んできた雪解けの時期にこの作品は発表されました。このヴァイオリン協奏曲は4楽章制と珍しい形式で、それぞれの楽章は非常に独立したものです。思索的で沈鬱とした雰囲気の第1楽章、諧謔的でどこかネジが外れているような印象を受ける第2楽章、古典的で重厚な雰囲気の第3楽章、第3楽章後半のカデンツァ後激しい序奏で始まり快活な旋律が特徴的な第4楽章といった構成となっています。この作品は技術的にも非常に難しいものなのは当然のこと、解釈が非常に難解な作品であることが知られています(ショスタコマニアに怒られそうな文章を書いてしまい申し訳ございません)。
https://youtu.be/8HZVQyD9rsY

以上でロシア作曲家による有名ヴァイオリン協奏曲の紹介は終了です。プロコフィエフやショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番や私の大好きな作曲家の一人であるミャスコフスキーのヴァイオリン協奏曲、さらには後期ソ連の作曲家によるヴァイオリン協奏曲等はまだまだ紹介しきれていないのですが、それらの紹介は自分がそれらの曲について語れるようになってから紹介したいと思います。
また、私の好きな作曲家であるプロコフィエフ・ミャスコフスキーの紹介も、また機会と時間があればしたいと思います。

では、またの機会に。