アポクリン汗腺からの汗
人の汗にはエクリン汗腺からの汗とアポクリン汗腺から出る汗の二種類があります。このうちエクリン腺は全身に存在し、体温調整のための発汗を担っています。暑い時や運動した時に出る汗はエクリン腺からの汗です。また、エクリン腺は手のひらや足の裏で最も密度が高く存在しており、緊張や興奮した時にこうした部位での発汗をします。辛い物を食べた時に額や顔から出る汗もエクリン腺からの汗です。エクリン腺から少しずつ出る汗はサラサラした無色の汗で臭いもありません。(もちろん汗を含んで時間が経つと衣服に雑菌が繁殖して汗臭くなります)。ワキや耳の穴、乳首周辺、陰部等の限られた場所に存在するアポクリン腺は、思春期以降に毛穴からジワジワと出るようになる汗で体臭の原因となります。アポクリン腺からの汗はエクリン腺からの汗と違って、脂肪、タンパク質、糖質を含み、ややベトベトとしており、皮膚の常在菌によって分解されることで、揮発性の脂肪酸、揮発性の有機化合物を生成します。特にチオアルコール類の有機化合物は微量でも非常に強い刺激臭を出します。これがいわゆるワキガの臭いです。
ワキガになる人とならない人
アポクリン腺からの汗には個人差が大きく、汗腺自体の大きさや数、発汗量が異なります。アポクリン腺を取り除く剪除法というワキガ手術をすると良く分かりますが、アポクリン腺の大きさは個人差があり、ワキガの人のアポクリン腺は発達していて大きくなっています。誰にでもアポクリン汗腺は存在していますが、ワキガでない人ではアポクリン腺からの汗は殆ど出ていませんが、ワキガの人ではジワジワと汗が滲み出てくる状態になっています。日本人の10人に1人がワキガと言われますが、アポクリン腺からの汗が殆ど出ていないか、ジワジワと出てくる人かの違いです。ワキガの原因となる常在菌は誰もが持っているので、菌が感染してワキガになるということではなく汗量の問題です。耳垢が湿っている人にワキガの人が多いというのは、耳の穴の中にもアポクリン腺がありますので、その発汗量が多い人はワキでもやはり発汗量が多い傾向にあるからです。
なぜアポクリン腺の汗が出るのか?
腋臭を出すだけで、必要のなさそうなアポクリン腺から発汗してくる汗ですが、思春期から分泌を始めることで分かるように、いわゆるフェロモンとしての役割も果たしていると言われています。好意を寄せる人の匂いはいい匂いに感じることは多くありませんか?もしかすると原始人の頃は体臭はもっと重要な影響を持っていたのかもしれません。乳首周辺にもアポクリン腺があり、授乳中は分泌量が増えると言われていますが、子供が母親の乳首を判別しやすくするためだとも言われています。
ちなみに赤ちゃんの頭がいい匂いがするのは皮脂腺からノナナールという成分が分泌されているからと言われており、愛おしい気持ちを高める効果があると言われます。
生き物の歴史を眺めれば、原始的な生命に始まり様々な環境に合わせて多様な変化を遂げ現代の生態系に至っています。生物進化の過程で新たに獲得していく機能もあれば、必要性を失っていく機能もあります。アポクリン腺もそのような機能の一つかもしれませんね。
【監修医師】
新宿マリアクリニック院長 金丸博之
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