自粛期間中に読んだ本

 ありきたりのテーマで恐縮ですが、ここでは私が大学入学後に読んだ本(近代文学)をいくつか紹介しようと思います。つまらない記事にならないよう、あまり著名とはいえない作品ばかり選んだつもりです。が、私がいつもマイナーな本ばかり好んで読んでいるのは事実であり、以下の選本はたしかに私の思想の一端を示しているかもしれません。

1. 織田作之助「夫婦善哉」

 1920年代の大阪。芸者・蝶子が恋愛結婚した相手は自堕落で浮気者という典型的なダメ男だったが、惚れたが因果、何度裏切られても夫を支え続ける。大阪下町の言葉を交えながら早いテンポで話が進んでいきます。喧嘩ばっかりの夫婦だけれど、愛があるから(?)結局最後は助け合う、いい話だと思います。又吉直樹は「登場人物がみんなみっともなくて美しい」と評したようですが、人間の不完全さを肯定的に捉えるという点ではよくあるミュージカルみたいですよね。ただ底抜けに明るい話というわけではなく、旦那のあまりのダメぶりは閉口ものだし、蝶子は一度自殺未遂をしていたりするしという具合なので、そこはご注意ください。

2. 小杉天外「魔風恋風」

 たぶんこの作家の名前を聞いたことのある人はほとんどいないでしょう。小杉天外は明治・大正期に活動した秋田県出身の小説家です。作風をころころと変えた作家ですが、彼の代表作と目されるこの「魔風恋風」は、純粋な文学としてよりも通俗小説として人気のあった作品であり、その人気ぶりは明治最大のベストセラー「金色夜叉」と並び称せられたほどです。自転車で学校へ急ぐ主人公の女学生が人とぶつかって転倒、入院するという、現代のライトノベルもかくやというべきポップな場面から物語が始まるのですが、雰囲気の明るいのは冒頭だけで、あとはひたすら薄幸な主人公に降りかかる不運の連続が描かれ、当時の女性の立場がいかに弱いものだったかを読者にまざまざと見せつける鬱展開に仕上がっています。プロットに難がある気もしますが、とに角どろどろした恋愛、特に後味の悪い悲恋が好き!という方にはお薦めの一冊かもしれません。

3. アナトール・フランス「神々は渇く」

 革命混乱期のフランスを舞台に、ひとりよがりの「正義」の名の下に多くの人間をギロチンへ送った青年が政変によって一夜にして断罪される側になり、自らが裁いてきた人々と同じように断頭台で処刑される。この作品はいわゆる歴史小説に分類されるものですが、例えば日本の司馬遼太郎を読んだ後のようなさわやかさはなく、全編を血と情熱が支配している感があり、後味の悪いラストと相まって、人間による裁きとはいかなるものかを読者に深く考えさせる仕上がりになっています。また、小説とはいえ史実に忠実であり、主人公と他数人を除いた全ての登場人物が実在したというのもおもしろいと思います。ちなみにこのアナトール・フランスという作家は1921年にノーベル賞を受賞した人ですが、かの芥川龍之介が傾倒した作家としても有名な方です。

いかがでしたでしょうか?かなりクセの強い作品を選んだので、この記事を読んで「私も読んでみたい!」と思った方はあんまりいないかもしれません。でも、出回っている小説が全部「ためになる」小説ばかりでもつまらないし、そもそもためになるかならないかは読んだ本人が決めるべきものだと思います。今回の記事の目標は「昔の文学ってなんかとっつきにくいけど、こういう変わった小説もあるんだな」と皆さんに思っていただくことで、そう思っていただけたなら嬉しいです。