岩尾俊兵
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ヒストリー

出身地

佐賀県有田町

幼少期の暮らし、体験


佐賀県有田町にて伝統磁器と工業用磁器の製造販売業を営む会社の一族として平成元年に生まれました。大正知識人的な気骨をもつ祖父によって「兵の勁く俊れし心持て、平成の世に力盡さん。」という詩とともに俊兵という名前を与えられました。

祖父はその会社の社長・会長、父は常務でしたが、父はその後一族経営の会社を飛び出して新会社を設立→大失敗で多額の借金を作ってしまった末に有田町に帰ってきました。

それでもあきらめない父の学習塾起業によって、教材作りの手伝いなどをしながら幼少期が過ぎていきました。

在野の経営学者・哲学者・漢学者を自称する父が気まぐれに出す「思考クイズ」に答えるうちに、社会や人間について考えることが好きな少年になっていました。暇な時には庭の土から埴輪を作ったり、詩を作ったりしていました。

中学・高校時代

中学生のときから純文学が好きになり、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、芥川龍之介を読み漁りました。大衆文学では山本周五郎も好きでした。

同時に、父の部屋に所狭しと並べられた経営学の本も読み漁りました。中学生のときに一番影響を受けた経営学書は新郷重夫『トヨタ生産方式のIE的考察:ノン・ストック生産への展開』と藤本隆宏『生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス 』でした。漠然と、経営学の研究者と小説家のどちらかになりたいと思っていた時期です。

そんな中、家庭の事情から中学校卒業と同時に働かざるを得なくなりました。そこで、故郷佐賀県を離れて、陸上自衛隊に入隊しました。勉学をあきらめたくないという思いから、自衛隊の宿舎はトイレだけは電気がつくので、毎日トイレで英語や国語、歴史の辞書を読み、2年間で大部分を丸暗記しました。2年間の自衛隊勤務の後は、コンビニや工事現場など神奈川県と東京都でざまざまな労働に従事しながら勉学に励みました。そんな生活の中で、高等学校卒業程度認定試験合格が得られたので、大学受験に挑戦しました。

当時、感銘を受けた会計学の本と経営組織論の本の著者がどちらも慶應義塾大学商学部出身だったことから、ここを第一志望と決め、半年後に合格しました。通常のルートから外れてしまったかに思えましたが、結果的には一年浪人と同じ年齢で大学に入学できました。



大学・専門学校時代

学部では会計学のゼミに所属し、卒業論文『トヨタ生産方式の3つの謎と貸借対照表マネジメント(当初は『日米M&A比較:労働市場の差異性の観点から』というタイトル)』を書き上げました。トヨタ生産方式のサブ・システムにはいくつかの謎があるという指摘が門田安弘『トヨタプロダクションシステム:その理論と体系』という大研究によってなされているのですが、この謎が会計学の目を通じて(しかも管理会計ではなく財務会計・制度会計を経由して)明らかにされるのではないかという内容でした(この研究は、9年間の時を経て大幅な改訂・修正がおこなわれ、2022年に「トヨタ生産方式に残る謎の会計学的解明:なぜジャスト・イン・タイムと自働化がTPSの二本柱なのか? 」というタイトルで、会計学分野で最も歴史のある雑誌のひとつ『産業經理』に掲載されました)。

大学では、授業料の成績優秀者免除を受けたため、いつか慶應義塾大学商学部に恩返ししたいという気持ちが増していきました。

そんな中、私の唯一の理解者といっても良かった父がガンにおかされました。そのころ様々な苦労が父を襲っており、父は治療を拒絶してしまいました。病床での父の生産管理・イノベーション論への未達の想いを知り、数名しかいない通夜で師匠・藤本隆宏先生(東京大学教授)に出会いました。

東京大学では、トヨタ生産方式をもっと大きな目(=イノベーション論)から見てみるとどうなるかという研究に従事しました。病床で「イノベーションはコンビネーション」と繰り返していた父の遺言に「コンビネーションはコーディネーション」と付け加えることが自分の研究となっていました。

東京大学での研究推進にあたっては、文部科学省博士課程リーディングプログラム生(東京大学ソーシャルICTグローバルクリエイティブリーダー育成プログラム)として、修士2年博士3年間の入学金・授業料免除および5年間で総額1000万円以上の生活費・研究費の支援を受けました。こうした支援がなければ博士課程まで進学することは不可能でした。こうしたことから、このようなチャンスを与えてくれた日本社会全体への恩返しをしなければいけないという気持ちを強くしました。

このリーディングプログラムは、東京大学大学院情報理工学系研究科が主導していたため、情報理工学系の学生・教員からの影響を受けました。その結果として、人工知能を大量に作成して疑似社会を作るという「マルチエージェントシミュレーション」の手法を経営学に取り入れました。こうして、日本の経営学において伝統的に使われていた①ケーススタディ、②統計分析、③歴史分析・オーラルヒストリー分析、そして④コンピュータシミュレーションのすべてを横断的に使用しながら日本の自動車産業を研究し、「日本企業の伝統的な強みとされてきた“カイゼン”が持つ本当の価値(=イノベーション)」と「その価値が発揮されるための組織設計上の条件」を明らかにしました。

この研究によって、2015年に修士(経済学)を取得し、さらに2018年には東京大学140年の歴史で初めて博士(経営学)を授与されました。その後の数年間、東京大学博士(経営学)を持つのは世界中で1人だけでした(写真は東京大学公式Webサイトから)。

この研究はのちに『イノベーションを生む“改善”』として有斐閣から書籍化されました。

本書のアイデアの核となった7本の論文(とはいえ、この本は論文集ではなくまとまった一冊の本です)のうちのひとつに対して、経営学分野で最大規模の学術団体である特定非営利活動法人組織学会から第36回組織学会高宮賞(論文部門)を、本書の出版に対して一般社団法人日本生産管理学会から第22回日本生産管理学会・学会賞(理論書部門)第37回組織学会高宮賞(著書部門)をそれぞれ史上最年少で受賞しました。さらに、これまでの活動全てに対して、第73回義塾賞(慶應義塾賞)をいただきました。

※義塾賞受賞式の様子


職歴

大学院時代に情報理工学系研究科の友人たちと一緒にクラウド型医療支援システム事業分野で起業したりしつつ研究を進め、大学院修了と同時に明治学院大学経済学部国際経営学科専任教員(2018年専任講師任用、2020年9月准教授昇進)・東京大学大学院情報理工学系研究科客員教員となりました。2021年からは慶應義塾大学商学部に拠点を移し専任教員(専任講師→准教授)として勤務しています。大学では主にビジネスモデルとイノベーションを教えています。

今でも、本業の教育・研究のかたわら、自らもイノベーターとして行動すべく様々な活動に取り組んでいます。

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