今回は、わたしが国際協力ボランティア活動に勤しむかたわら、大学で専攻している経済学について、ご説明しようと思います。
わたしは新興国を含む開発途上国全般の発展戦略と貧困削減戦略を研究する学問である「開発経済学」を研究しています。この経済学の一分野である開発経済学と、国家の役割との間には非常にシビアな関係が存在しています。
いくら国民が経済発展のために一生懸命努力したとしても、国家が腐敗し社会情勢が不安定で、なおかつまともな開発政策が採用されていないような国では、経済は発展しないという議論があります。たしかに高率のハイパーインフレに見舞われたり、いつ政権が転覆するか分からない状況では、将来を見据えた投資が行われにくいでしょうから、経済は発展しません。またせっかく道路等のインフラ投資が計画されたとしても、政治家が大きく上前をはねるような社会では、インフラの建設も進みません。
しかし私は、腐敗していたり非民主的であるような国家では経済は発展しえないという主張には、根拠が乏しいと考えています。そもそも、腐敗がなくクリーンで民主的な国家の形成を貧しい国々に求めること自体に無理があり、むしろ持続的な経済発展を成し遂げる能力のある国家の形成と経済発展を目指すべきです。例えば、かつて日本でも明治政府は決して民主的な政府ではありませんでしたが、日本は激動の昭和の時代を駆け抜け、経済は着実に発展しました。インドネシア、タイ、マレーシアでは、1990年代まで国家は非民主的で腐敗していましたが、経済を発展させることが政権の安定にとって重要な課題であると理解した結果、経済は急速に発展しました。近年では、インドネシアやフィリピンで民主化と経済発展が並行的に進展しています。このように国家の建設と経済発展の関係は非常に複雑ですが、国家が効果的な発展戦略を理解し、それを政策として実行すれば、効果的な開発政策が経済発展をもたらし、民主的国家の建設につながるという好循環が生まれます。
経済学はそれ単体では、その力のすべてを発揮できません。しかし、先進国に住む私たちが、途上国に住む彼らに手を伸ばし、共に道を歩むことを決めたとき、経済学は私たちが歩むべき道を照らす灯りとなる学問であるに違いないと、わたしは信じています。