マダガスカル名産のTHBビールの工場が建設され、綺麗なレストランもあるアンチラベ(Antsirabé)という、マダガスカルの中でも比較的裕福な地域を調査していたときのことです。「ここらへんは急勾配な道が多く、舗装もされてないから気をつけなきゃいけないよ。わかってるの?」と一緒に調査をしていた現地のマダガスカル人の忠告に耳を傾けるフリをして、どんどん進み、まるで某ジブリ映画の某トトロの森みたいな山道に入り、村人からあると聞いた存在するはずの村を探して、その道をとにかく突き進むという行き当たりばったりの調査を私はしていたことがあります。結局、山道の途中でTHBビールを片手に持った酔っ払いの若い男に絡まれ、散々な目に合うものの、「家を見せてくれ」とうまく誘導し、目的の僻地の村へとたどり着くことができました。そんな行き当たりばったりの村では、子供たちはまともに着る洋服もなくズタボロで、靴など履いているわけでもなく裸足で陽気にデコボコ道を駆け上り、突然現れたわけのわからない日本人と快く遊んでくれました。
そんな中「この村は腐敗している。役所に手続きを頼むには賄賂が必要で、汚職が蔓延している。どうにかしてくれないか?」と村人にお願いされたのは、真昼間からTHBビールを片手に昼食にコンポジ(composit)を楽しんでいたときのこと。THBビールというのは、Three Horses Beerの略称で、三頭の馬の首がラベルにデザインされているのが特徴のマダガスカルを代表するビールで、日本のラガービールみたいに苦くなくスッキリとしてクリアな味わいが口に広がります。一方、コンポジというのは、おそらくcomposite(混ぜる)という言葉に由来した、ニンジンや菜っぱなどを細かく刻んだ野菜とパスタを和えた手軽な食べ物です。マダガスカルの農村部では舗装された道はほとんどなく、車が通ると酷い土埃がたつなど、行政がうまく機能していない現状があります。頼りの行政も役人たちが賄賂に甘んじ、公の仕事とは何かを理解していないような印象でした。警察官のなかにも悪徳警察官がいて、観光客を見つけてはライフル銃で脅し、パスポートを取り上げ、返却してほしければ有り金を渡すように命令してきたりすることもあります。またそれを警察としても、あまり注意せずあってはならない非道が跋扈しています。
さて、行き当たりばったりの調査をしていた私は、思いもよらない村人の声を耳にし、何と答えたのでしょうか。当時、若干20歳の私には何ができたのでしょうか。それはまたいつかの話に。