皆さんこんにちは、石川です。本来は模擬国連に関する記事を書いているのですが、今回は模擬国連からは少し離れて、「現代社会の諸問題について考える」記事をお届けします。
今回のテーマは「BlackLivesMatter」。全米で続く大規模なデモはなぜ起こったのか、私たちとどのような関係があるのか、読み解いていきましょう。
デモの発端
今回のデモの発端となったのは、今年5月25日に黒人男性が警察官によって殺害された事件です。
アメリカはミネソタ州ミネアポリスに住む黒人男性のジョージ・フロイドさんは、偽装紙幣所持の容疑で逮捕されました。その際、フロイドさん抵抗の意志は見られなかったにも関わらず、警察官によって地面に組み伏せられ、首に膝を当てて締め付けられていました。フロイドさんは何度も"I can't breathe(息ができない)"と言い続けたものの警察官が拘束を解くことなく、8分以上も首を締め続けられたのち亡くなりました。しかしながら、彼を殺害した白人警官は非常に軽い罪で起訴されたのです、
無抵抗の黒人男性が助けを求めたのにも関わらず白人警官に殺害されたという悲惨な事件を受けて、事件発生地であるミネアポリスのほか、アメリカ各地で黒人差別に対する抗議運動が広がっているのです。
Black Lives Matterとは
今回の大規模なデモ運動の背景には、アメリカに根深く残る人種差別の歴史があります。
アメリカがヨーロッパ諸国の植民地であった頃から奴隷制度は存在し、アフリカから連れてこられた黒人奴隷を売買し、安価な労働力としていました。奴隷であるということで黒人には選挙権などの公民権は与えられていませんでした。
その後、南北戦争中の1863年にリンカーン大統領が奴隷解放宣言を発布し、1865年にはアメリカにおける奴隷制度は完全に廃止されました。しかし、同じ「人」であるにも関わらず黒人に公民権は与えられず、黒人と白人とで電車の車両を区別するといった人種差別が合法化されていました。
1960年代には、白人にバスの座席を譲らなかった黒人女性が逮捕されるという「ローザ・パークス事件」をきっかけに、キング牧師(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)やマルコムXらを中心とした公民権運動が過熱し、ついに1965年、ジョンソン大統領により黒人の公民権が認められます。
しかし、黒人の公民権が認められた後も黒人差別はアメリカに燻り続けます。そんな中2013年に起こったのが「トレイボン・マーティン射殺事件」です。武器などを所有していなかった黒人高校生が自警団員に射殺されるという衝撃的な事件は瞬く間にアメリカ全土に広がり、黒人差別の是正を訴える運動が起こります。これがBlackLivesMatterの始まりです。
その後も、「エリック・ガーナー殺人事件」や「マイケル・ブラウン殺人事件」など、黒人が白人警官によって殺害される事件は頻発し、その度に抗議デモが発生しています。なぜ警察官による黒人差別は頻繁に起こるのでしょうか。そこには、白人警官による根深い差別意識が潜んでいるのでしょう。実際、肌の色を理由に職務質問をする「レイシャル・プロファイリング」という行動が警官によって行われているのも事実です。
今回のデモはアメリカ全域に広まり、イギリスやフランスなど他国でもデモ活動が始まっています。アメリカでは計1万人以上が逮捕され、商業施設などへの放火・破壊活動などが行われています。これに対し、アメリカのトランプ大統領は破壊活動の鎮圧のために各州兵の派兵などを要請しています。また、BlackLivesMatterに対抗する目的で「AllLivesMatter(すべての命が大切だ)」という活動も行われています。
デモ活動の中で一般市民が暴徒化しているのは事実ですし、もちろん破壊活動は容認されるべきではありません。しかしながら、暴徒化しているのはごく一部であるということも忘れてはなりません。「BlackLivesMatter」は決して黒人以外を否定する活動ではありませんし、ましては他人を傷つけるための活動ではありません。すべての命が大切なのは当然なのですが、その中でも差別を受けている黒人への同権を平和的に訴えようとしているのが、BlackLivesMatterの目的なのです。
私たちとBlackLivesMatter
Black Lives Matterは私たちにとって対岸の火事ではありません。
まず、私たちの中にはアメリカで暮らしたことがある人がいると思います。たとえ今はアメリカで暮らしていなくても、短い間でもお世話になったであろうアメリカで起こっている現実に向き合わなくてはいけません。
また、私たちはブラックカルチャーから大きな影響を受けています。ブルースやヒップホップなどはアフリカ系アメリカ人から生まれた文化ですし、俳優や歌手として働いている方もいます。「スター・ウォーズ」シリーズに出演した黒人俳優のジョン・ボイエガさんはロンドンでの抗議デモでスピーチをしています。私たちが楽しんでいる文化も黒人にあってこそということを忘れてはいけません。
そして、私たちは彼らのデモに反対することはできません。一部メディアが「暴力的解決やデモは何も生まない」としていますが、私たちに黒人の何がわかるのでしょうか。日常生活においてすら差別を受けている黒人たちがこれほどまでに抗議をしているのに、なんら差別を受けていない(であろう)私たちがなぜ抗議活動に反対できるのでしょうか。
そして、私たちは差別と無縁では決してありません。差別被害者ではないかもしれませんが、知らぬ間に差別加害者となっているかもしれません。日本で暮らす他国籍の人々へのヘイトスピーチや、LGBTへの批判活動、同和問題、その他のマイノリティーへの批判がすべて差別的行為であることを忘れないでください。
そして、差別的行為を見て見ぬふりをすることも差別に加担していることになります。デモに参加しろとまではいいませんが、まずは黒人差別に対して関心を示してほしい。流れてくるニュースをぼーっと見るのではなく、自分の力で調べる。家族や友人と議論する。黒人差別をテーマにした映画を見てみるのもいいと思います。「他人事だからいいや」と目を背けるのではなく、この問題に興味関心を示してほしい。そう願ってこの記事の締めくくりとします。