WebデザイナーがはじめるDTP vol.01

はじめに

この記事のメイン対象となる方はこんな方です。

  • 普段はWebデザイナーとしてバリバリやってます!
  • でもDTPは業務でやったことありません
  • デザイナーだから余裕だよね★といきなり印刷の仕事振られて途方に暮れています

「Webデザインのことはそこそこわかるけど、紙の仕事とかやったことないよ」

そんな立場だった私が同じような悩みを抱えた方々に向け「WebデザイナーがはじめるDTP」として何回かに分けてライトな内容で執筆していく予定です。

本文は調べて実務で体験したことをベースに構成されています、つまりググればわかることがほとんどです。

それを踏まえてゆるりとご一読いただけますと幸いです。

01 ファイル作成

今回は主にIllustratorで印刷用データを新規で作成し納品するまでの手順を中心に紹介します。 中身の作り方は勢いでなんとかなる部分もありますが、「そもそも最初にどうしたらいいか、よくわからなかった」という苦い経験上からです。

まずは、発注者に次のうちどちらに該当するのかを確認します。

A: 印刷業者に入稿する(出版社や代理店に入稿するものもこちら)
B: 自社など自前のプリンタで印刷する

両方対応させたいケースでは最初にどちらかを作り、完成したらコピーしてもう1バージョン作るとよいでしょう。

A:印刷業者に入稿する場合

入稿する印刷業者がわかっていて、その業者が制作物サイズのテンプレートを配布しているならダウンロードして潔く利用するのが一番確実です。入稿先が不明な場合や入稿先がテンプレート未配布の場合でも、他社のテンプレートをダウンロードして使用しても基本的に問題ないはずです。

「ないはず」という言葉にひっかかった方や、自力で作成してみたいという方のために、ここからは新規ファイル作成の手順を紹介しましょう。

Illustratorを起動し、新規作成ウィンドウの印刷タブから作成するとスムーズです。 裁ち落としは要望(※)がない限り3mmのままで問題ありません。 

※ここでの要望とは「塗り足しが5mmぶん欲しい」といった内容を指します

A4ならB4、B5ならA4、ハガキサイズならA4など実際に作成するデータから一回り大きいサイズで新規ファイルを作成します。 名刺やハガキなどA4以下の原稿サイズの場合、自社で印刷確認することを考えると一律ファイルサイズはA4でよいでしょう。

アートボードは複数ページやペライチで表裏を作成する場合でも1つにして、各ページを別ファイルで作成するのが無難です。同一ファイル複数アートボードでも入稿可能な場合は多いですが、別々のファイルでの入稿を推奨する印刷業者をよく見かけるためです。

見開き原稿の場合は例外で見開き分2ページで1ファイルとなります。 A4見開きの場合には倍のA3サイズより一回り大きいB3で作成する、ということになります。この辺りは、前述の印刷業者が配布しているテンプレートを参考にするのもよいでしょう。

B:自社など自前のプリンタで印刷する場合

作成データ通りのサイズで新規作成します。

こちらは原稿サイズが完成サイズと同じため、複数ページの場合アートボードを複数(※)で作成するのも問題ありません。ただ、 あまりページ数が多いとファイルが単純に重くなってしまいがちなため、表裏のペライチをまとめて作成するくらいにとどめておくほうがよい気がします。

※アートボードが複数のaiファイルをPDF化した場合は、複数ページのPDFに自動変換されます

Photoshopで作成するには?

「どうしても使い慣れたPhotoshopで作成したい」という気持ち。わかります。
その場合、解像度は350に設定するのがお勧めです。 

350にする理由は印刷における出力線数が通常のカラー印刷の場合は175線であり、この線数の倍の解像度が適切とされているためです。

カラーモードはこの時点でCMYKにしてもいいのですが、RGBと比較してPhotoshopの機能が制限されるため完成に近づいてから後でまとめて変換するのも個人的にはアリだと考えています。

RGBからCMYKへの変換は以下の手順で行うのがお勧めです。

  • 初めにCMYKのカラー設定(Shift+Ctrl+K)をしておきます、カスタムCMYKを開きインキの総使用量の制限が300%になっていることを確認しOKします、これでTAC値を300%以下に収めることができます
    (TAC値とはCMYK全部の数値を足した総インク使用量のこと。入稿規定に320%以内という上限がある場合が多くその対策で行います)
  • RGBカラー→Labカラー→CMYKカラーとLabカラーを挟みつつ変換することで、色調のずれを少なくすることができます

……ただ、本音のところは印刷データ作成におけるPhotoshopの役割は「配置するビットマップデータ素材の作成ツール」とすることをお勧めしたいです。

02 下準備(トンボとガイドの作成)

印刷業者に入稿するファイルにはトリムマーク(トンボ)をつける、ということ以外は別段必須ではないのですが、やっておくとデザイン作業を効率よく行うことができます。

A:印刷業者に入稿する場合

トリムマーク(トンボ)と3重のガイド線を作成していきます。

まずは、実際の作成サイズの四角形をドキュメントの中央に配置し[オブジェクト]→[トリムマークを作成]よりトリムマークを作成します。

パスのオフセット[オブジェクト]→[パス]→[パスのオフセット]を利用して、仕上がりサイズの長方形から四方に3mmずつ大きな塗り足しガイド用の長方形を作成します。

再度、はじめに作成した長方形を選択(図1)し、パスのオフセットを利用して、今度は四方に3mmずつ小さな文字切れガイド用の長方形を作成します。

作成した長方形3種類すべてを選択し、ガイドを作成(Ctrl+5)します。

これでトリムマークと3重のガイドが完成です。

3mm大きいガイド線は「塗り足しガイド」と呼ばれ塗り足しの基準線となります。 

真ん中の原稿サイズのガイド線は「仕上がり線」と呼びます。

3mm小さいガイドは塗り足し以外のコンテンツの境界線です。
文字切れガイド」と呼びます。

原稿いっぱいに背景や写真を敷きつめたい場合には、原稿サイズピッタリの「仕上がり線」ではなく3㎜大きい「塗り足しガイド」まで埋めます。 実際の印刷の際にズレが生じた時の保険として余分に塗り部分を用意しておく必要があるためです。

一方、「文字切れガイド」の3mmはあくまで目安です。
原稿によってはさらに小さく5mmや10mmに設定したものでも問題はありません。

3重のガイドとトリムマークは1つのレイヤーにまとめて、実際に作業するレイヤーと別にした上でロックしておくとよいでしょう。

複数ページものの場合や表裏が存在する場合、ページ数や表面、裏面などもガイドと同じレイヤーにその旨を表記しておくのがお勧めです。

B:自社など自前のプリンタで印刷する場合

2重のガイド線を作成します。

原稿サイズから縦横10mmずつ縮小した四角形をドキュメント中央に配置します。XY座標とも5mmです。初めに原稿サイズと同じ四角形を用意してパスのオフセット機能で縮めてもいいでしょう。

再度、長方形を選択(図1)し、パスのオフセットを利用して、四方に3mmずつ小さな文字切れガイド用の長方形を作成します。

2つまとめて選択し、ガイド化(Ctrl+5)します。

自前で印刷する場合、原稿の端まで埋めようが、プリンターの設定で余白をゼロにしようが、絶対に余白はついてしまいます。 5mm小さいガイドは、実際に印刷される限界線のおおよその基準線です。 ここはプリンターの条件によって違いがありますが、確認する術は実際に端まで塗ったドキュメントを印刷してみるしかないのです……。

内側の小さいガイドはなくてもいいのですがコンテンツ配置限界目安に「文字切れガイド」として入れています。個人的には原稿サイズから10mm小さいものをよく入れます。

自前で印刷する想定のファイルの場合、余白がつくことを前提にデザインするのが無難です。 なお、印刷が完全に紙の中心に来ること自体期待するのは酷ですので、おおらかな気持ちでデザインしましょう。

余談ですが印刷業者ではドキュメントより大きめの紙に印刷し、それから原稿サイズに裁断しています。それで余白が入らないというわけです。

こちらもAの場合同様に、ガイドは1つのレイヤーにまとめて実際に作業するレイヤーと別にした上でロックしておきます。

03 作業

さて、いよいよデザイン作業本番となります。
レイアウトをする上でコーディングを意識しなくていいのは印刷系ならではの魅力です。
存分にクリエイティビティを発揮して素敵なデザインを作りましょう。

今回はその中から押さえておきたい要点だけリストにして抜粋します。
詳しくは次回で解説予定です。

前提

スクリーン上だけではなく、節目節目では必ず印刷をしてデザイン確認を行うこと

  • カラー原稿の場合CMYK全部の数値を足した総インク値(TAC値)が300以内になることを前提で作成します。入稿規約においてTAC値は320%以内という制限が設けられている場合があるためです
  • 特にKの値が高い場合、実際に印刷したときにモニターで見ていた時の想定より黒々とした印象に陥る場合が多いため注意が必要です。紫や紺などの暗めの色でありがちです
  • 特色は原則的に使わないようにします。特色とはプロセスカラー(CMYK)で再現できない色を表現するために用意された特殊なインクを差し、印刷するには特別な発注が必要となるためです

ビットマップデータ

  • 配置するのは解像度350のCMYKカラーファイルです
  • 実際に配置するサイズに近い大きさで画像を用意することで容量短縮につながります
  • eps形式は古~いバージョンのIllustrator(※5.5以前)にも対応し、無難にいくならこの形式がお勧めです
  • psdやtiffでもまず問題ありません、psdは画像を統合し1枚のレイヤーにしてから配置することが推奨されています
  • jpgも配置できますが、解像度に注意が必要です
  • png、gifはスクリーン向けの保存形式となり配置はできますが印刷には不向きです

04 入稿・納品

印刷業者等へ入稿するファイルの場合、入稿規約(規定)があるかどうかを確認します。
可能であれば入稿直前になってからよりも制作着手前に規約が確認できると調整が少なくなり、よりベターです。

入稿規約のある場合、そちらのルールに則ってデータを調整し準備していきます。

さて、入稿ファイルの準備において一番最初にすることは次の2つです。

  1. 入稿用のファイルは作業・編集用のファイルとは別名にして保存する
  2. ロックをすべて解除する

文字のアウトライン化

  • 入稿ファイルの文字は必ずアウトライン化します
    Ctrl+A(全体選択) → Ctrl+Shift+O でほんの一瞬です
    ロックされた文字の対応漏れに注意が必要です
  • 編集用のファイルがアウトライン化されていると後の修正で絶望する事になります
    繰り返しになりますがアウトライン化する前に入稿用ファイルは別名で保存します

ドキュメントのラスタライズ効果設定の確認

Illustratorの効果メニューで指定するドロップシャドウやぼかしは、印刷時にビットマップ画像にラスタライズされます。[効果]→[ドキュメントのラスタライズ効果設定]で解像度を「高解像度(300ppi)」と設定し、なめらかな状態で効果が印刷されるようにしておきます。

原稿に不要なオブジェクトの削除と塗り足しの確認

トリムマークの外側にオブジェクトが置いてある場合はすべて削除します。バージョン違いで取っておきたいようなオブジェクトでも、入稿するデータ上で使用しないのであれば本体の編集用ファイルに残されているもので充分です。

同時に余分なポイント(孤立点:空の文字データやアンカーポイント)を削除します。[選択]→[オブジェクト]→[余分なポイント]で一括選択することができます。

裁ち落とし(原稿の端まで表示させたい塗りや写真)は、仕上がりサイズではなく塗り足し線まで塗られているかの確認も同時に行います。足りない部分はここで調整し、はみ出した部分があればクリッピングマスクなどでマスクをかけてトリムマークの外側にはオブジェクトが存在しない状態にしておきます。

リンク配置画像の確認

配置した画像を埋め込みせずリンクのまま入稿・納品する場合は、母体となるaiファイルと同一ディレクトリに置くようにします。

ただし、後述するパッケージで入稿する場合にはこの限りではないようです。

パッケージ

Illustrator CCになってからついた「パッケージ」という印刷入稿に必要なデータをワンセットとして一つのフォルダに収集してくれる機能があります。

これによりリンク画像がバラバラのフォルダにあったり、CCライブラリから配置したクラウドマークのついた画像でも1つのフォルダにまとめて収納しパスも応じて更新してくれて、Typekit以外のローカルフォントまで入れてくれるようです。これが当たり前になると、かなり制作がしやすくなりそうですね。

新しい機能のため入稿先が対応しているか確認の必要がありますが、覚えておいて損はないかもしれません。

参考:公式サイトより
https://helpx.adobe.com/jp/illustrator/how-to/package-data-print.html

……なお、私は今のところ実務で使ったことがまだありません。



以上、問題なければ納品となります。

万全を期すならば他の方にデータ一式を渡して別PCで開いてもらい問題ないか見てもらうことにより確実性が増します。

グラフィックデザインメインの会社さんだとフローにしているところもあるようです。

最後にPDF保存についての補足です。

PDF保存に関して

特別な入稿規約・規定がない限り"[PDF/X-4:2008(日本)]"一択で問題ありません。

PDF/X-4、PDF/X-1は印刷向けの規格です。
PDF/X-4は透明機能が使えますが、対応バージョンがCS3以上となり印刷業者が「Adobe PDF Print Engine」という規格に対応している必要があります。
PDF/X-1は透明機能が使えませんが、古い規格のためすべての印刷業者が対応可能です。

PDF入稿は独自形式の場合も含め概ねどちらかがベースになっている場合が多く、規定をよく確認することが重要です。

自社のプリンタで印刷する場合にはPDF/X-4で基本的に問題ありません。
ほかにも色々とPDFの保存方法がありますが、PDF/X-4でも十分データは軽くなりWeb上での表示も含め対応可能です。

あまり深く考えずこの2種類を覚えて使い分けておくだけで、今のところ特に困ったことはありません。



最後までお読みいただきありがとうございます。

次回は印刷用データにおけるコンテンツ制作においてのポイントと、Web用データ作成時との違いをメインに執筆する予定です。それでは、また。


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