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ロシア国旗に使われている白色の光景。白色(と水色)に輝く、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館の写真。写真ACでダウンロードしました。
皆さん、こんにちは。東大ロシア語学習者ブロガーのSullivanです。
今回は連続投稿企画「ろしあごであそぼ」の第2段として、東大のロシア語の授業について解説していきます。
<<注意>>
今回の内容は、まだロシア語に強い興味が無い方にとってかなりヘビーなものになっています !
もしこれを読んでいる途中で頭が一杯になってしまった方は、この回を飛ばして第3回に進んで下さい。
(第3回で皆さんをお出迎えする愉快なキャラクター達。Sullivan作画。)
東大における第二外国語の位置付け
東京大学の1・2年生は、2つの外国語を必修外国語として学びます。多くの東大生は既修外国語として英語を学習して、初修外国語(第二外国語)としてドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、韓国朝鮮語、イタリア語の7言語のうち1言語を選択して学習します。(第三外国語としてなら、東大ではこの7つ以外の言語も多数学ぶことができます。そして、第三外国語を学んでいる東大生は沢山います。)
この7言語のうち、東大生に圧倒的に人気なのはスペイン語、中国語、フランス語の3言語で、その選択者の全体における割合はそれぞれ29%、22%、21%です。
一方、イタリア語、ロシア語、韓国朝鮮語を選択する東大生は全体の中でもかなり珍しく、全体におけるイタリア語、ロシア語選択者の割合はそれぞれ5%、韓国朝鮮語選択者の割合は1%です。これら3言語の選択者は人数が極めて少ない反面、その分、第二外国語の言語を同じくする人達同士(ロシア語だったらロシア語選択者同士)の絆がかなり強固なものになる傾向があると言われています。
(第二外国語の選択者の割合の参考データ: https://www.utcoop.or.jp/start/daini.html )
ちなみに東大では、この第二外国語によって1・2年次のクラスが決まります。例えば、1年生がサークル内で自己紹介をする時、「理科一類スペイン語9組の○○です」のように自己紹介をするのです。興味深い事に、クラスの雰囲気は言語によってかなり変わってくるそうです。
よく、東大内ではこういうことが共通認識として言われています。(が、偏見を多分に含んでいるので、あくまで参考程度に留めておいて、完全に真に受けないようにしましょう!)
● スペイン語
明るい人が多い。
● ドイツ語
真面目な人が多い。女子の人数が少なめ。
● フランス語
キラキラしたおしゃれな人が多い。女子の人数が多い。
● イタリア語
スペイン語ほどではないが明るい人が多い。人数が少ないためアットホームな雰囲気。● 中国語
良い意味で普通の人、バランスの取れた人が多い。
● ロシア語
他のクラスからは「変わった人が多い」と言われる事が多い。
(果たして実際のところはどうなのかについては、次回の第3回の記事で明らかに
していきたいと思います! 乞うご期待!)
● 韓国朝鮮語
Kポップ好きが多い。極めて人数が少ないため、非常にアットホームな雰囲気。
このようなクラスのイメージも参考にしつつ、自分の興味関心や熱意と相談しながら、東大生は自分の第二外国語を選択していくのです。
東大の初修ロシア語の授業の枠組み
東大における第二外国語の位置付けの確認が済んだので、早速ロシア語の授業について見ていきましょう。
まず、東大のロシア語の授業は大きく分けて2種類あります。大学入学後に初めてロシア語を学ぶ学生を対象とする「初修ロシア語」と、大学入学までにロシア語の基礎を一通りマスターしている学生を対象とする「既修ロシア語」です。東大の第二外国語でロシア語を学んでいる学生の大半は「初修ロシア語」を受講します。かく言う私も「初修ロシア語」受講者の一人です。
本記事では、私が実際に体験した、4月から7月までの「初修ロシア語」の授業がどのようなものだったかについて解説していきます。
「初修ロシア語」受講者が4月から7月までの間に必ず受講しなければならない授業は2種類あります。「ロシア語一列」と「ロシア語二列」です。と言いましたが、実際の所、この2種類の授業で内容が大きく異なる事はありません。なぜなら、確かに「ロシア語一列」と「ロシア語二列」で授業を担当する先生は異なるのですが、やっている内容はどちらもロシア語の文法と和訳・露訳であり、しかも、使っている教科書がどちらも同じだからです。つまり、「ロシア語一列」と「ロシア語二列」を一緒くたにして「ロシア語一列・二列」と解釈しても、何ら問題は無いという事です。(という事で、今後は「ロシア語一列・二列」という名前を使っていきます。)
ロシア語一列・二列の授業の内容
先ほども少し述べましたが、ロシア語一列・二列では、ロシア語の文法と和訳・露訳を重点的に学習します。この章ではその更に具体的な内容、つまり、4月から7月までにロシア語一列・二列の授業で扱う文法事項がどのようなものなのかについて書いていきます。ロシア語を一切知らない方にも分かりやすいように簡潔に、それでいて退屈にならないようにザックリと解説していくつもりなので、どうか安心して読み進めて下さい。
第1関門:ロシア語のアルファベットを覚える
ロシア語学習の第一歩として、ロシア語学習者はロシア語のアルファベット33文字を順番も含めて正確に覚えさせられます。英語のアルファベット(26文字)よりも文字の数が少し多かったり、英語のアルファベットと似たような形の文字が異なる発音と順番で登場したりするのが大変ですが、反復していくうちに慣れが生じて自然に覚えられるようになるのか、最初は「読めない」「覚えられない」と悲鳴を上げていた人達でも、何だかんだ全員がこの関門をクリアーしていきます。
第2関門:基本的な肯定文、否定文、疑問文
英語で言うと “I am a student.” “I am not a student.” “Are you a student?” のような、基本的な肯定文、否定文、疑問文を扱います。ロシア語では英語の冠詞やbe動詞にあたるものが存在しない(存在を表す動詞は存在しますが、英語のbe動詞とは全く用法の異なるものです)ため、その作り方は英語よりもずっと単純なものになります。
ここまではロシア語の非常に簡単な部分であり、ロシア語学習者の多くが「ロシア語、楽勝だわ〜」と考えています。ここまでは。
第3関門からは難易度がグッと上がり、第2関門までで高を括っていたロシア語学習者が、「ロシア語、やっぱり難しいじゃん」と痛感させられる事になるのです。
第3関門 : 名詞の性と複数形
日本語にも英語にも登場しない新たな文法事項、名詞の性が登場します。
名詞の性とは、簡単に言ってしまうと、文法的な振る舞いに基づく名詞の分類カテゴリーの事です。ロシア語に限らず、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語にも存在する文法概念であり、第二外国語でヨーロッパ系の言語を選択している東大生が絶対に学ばなければならない文法概念でもあります。
ロシア語の名詞の性は、男性、女性、中性の3種類です。名詞の性の決め方についてはいくつかのルールがあり、ロシア語学習者はこのルールを覚えながら名詞の性の見分け方を習得していきます。
また、ロシア語にも名詞の複数形という文法概念があります。基本的には名詞の語尾を変化させると複数形が出来上がるのですが、一部の例外も存在するため、ロシア語学習者は複数形の作り方のルールを、その例外事項と共に学んでいきます。
第4関門 : 形容詞の性・数変化
ロシア語には「名詞の性と複数形に合わせて形容詞の形を変化させなければならない」というルールがあります。このルールを「形容詞の性・数変化」と呼びます。(第3関門の説明で述べていた「文法的な振る舞い」の一つがこの「形容詞の性・数変化」です。また、実際には形容詞以外の一部の品詞についても同様の性・数変化が存在します。)
この関門では、ロシア語の形容詞を名詞の性と複数形に合わせて正しく変化させる方法について学びます。
第5関門 : 動詞の現在変化
ロシア語には「主語の人称に合わせて動詞の現在形の形を変化させなければならない」というルールがあります。このルールを「動詞の現在変化」と呼びます。つまり、主語が1人称単数(私)の場合、2人称単数(君)の場合、3人称単数(彼・彼女・それ)の場合、1人称複数(私達)の場合、2人称複数(君達・あなた・あなた達)の場合、3人称複数(彼ら・彼女ら)の場合で、それぞれ動詞の現在形の形が異なるのです。
ロシア語の動詞の現在変化の仕方は、第1変化、第2変化、特殊変化の3種類です。名前から想像されるように、特殊変化は、第1変化にも第2変化にも該当しない動詞の現在変化全てが所属する、「その他の変化」という意味合いのカテゴリーです。しかし困った事に、ロシア語にはこの特殊変化に該当する動詞が大量に存在します。つまり、第1変化、第2変化、特殊変化という分類法を参考にしながらも、結局は動詞の現在変化の仕方を動詞ごとに一つ一つ暗記していくしかないのです。
この関門では、第1変化、第2変化、特殊変化がそれぞれどのような変化なのかを学んだ後、動詞の一つ一つについてその現在変化の仕方を覚えていきます。
第6関門 : 動詞の過去形と未来形
動詞の過去形と未来形の作り方を学習します。
英語と同様に、ロシア語の動詞の過去形は現在形の語尾を変形させる事で、未来形は主語と動詞の間に英語で言うとwillのような言葉を挟む事で作る事が出来ます。英語とは異なる注意点としては、ロシア語では動詞の過去形が主語の性と複数形に合わせて、未来形が主語の人称に合わせてその形を変えてしまう事が挙げられます。しかし、他の関門と比べるとそこまで難しいものではありません。
第7関門 : 名詞の格変化
ロシア語には「文中の機能に合わせて名詞の形を変化させなければならない」というルールがあります。このルールを「名詞の格変化」と呼びます。格とは、格変化によって変化する名詞の形のタイプの事です。ロシア語には、主格、生格、与格、対格、造格、前置格の6つの格が存在します。それぞれの格の主な特徴は以下の通りです。
1. 主格 | 主語や述語となる。「…が」と訳される事が多い。 |
2. 生格 | 所有や所属を表す。「…の」と訳される事が多い。 |
3. 与格 | 間接目的語を表す。「…に」と訳される事が多い。 |
4. 対格 | 直接目的語を表す。「…を」と訳される事が多い。 |
5. 造格 | 手段・道具・資格を表す。「…によって/…として」と訳される事が多い。 |
6. 前置格 | 常に前置詞と共に用いられる。訳し方は様々。 |
注1) 実際には名詞だけでなく、形容詞や代名詞の一部も関係する名詞に応じて格変化をします。
注2) これらの格の特徴の説明はあくまで大まかなものであり、実際には否定生格などの細かな
文法事項が存在します。
ロシア語学習者は一つ一つの名詞の単数形と複数形についてそれぞれ6個の格、合計12個の語形を覚えます。つまり、ロシア語では 1 個の名詞に対して12個の語形を覚えなくてはならないのです。大変ですね。
もちろん、格変化にも規則性があります。そうでないとロシア人でさえも名詞を使いこなせませんから。しかし、ロシア語学習者にとってはその規則を覚えるのが大変なのだ、というのもまた厳然たる事実です。実際、この関門はロシア語学習における最も難しい所(少なくとも第1関門から第9関門までの中で最も難しい所)の一つであると言っても過言ではありません。
この関門では、それぞれの格の特徴とその語形の規則性、および関連する文法事項について学んだ後、名詞の一つ一つについてその格変化を覚えていきます。
第8関門 : 不定人称文と無人称文
ロシア語には、不定人称文と無人称文という文型が存在します。
不定人称文は、「図書館が建てられている」「〜だと言われている」のように、話し手の関心が主として動作、あるいはその結果としての事実にあり、誰がその動作をしたのかがあまり重要ではない場合に使われる文型です。主語が省略され、動作者の人称が定まっていないため、「不定人称文」と呼ばれるのです。
無人称文は、「〜しても良い」「〜してはいけない」「〜しなければならない」のような、許可、禁止、義務などを示す場合に使われる文型です。このような文章の意味(許可、禁止、義務などのメッセージ)は、私、あなた、彼、彼女、彼ら、……などあらゆる人々に及びます。このような文章は、動作者としての主語を持ちません。動作者の人称がそもそも存在しないため、「無人称文」と呼ばれるのです。
この2つの文型はとても紛らわしく、混同しやすいです。しかし、逆にこの2つの違いさえ押さえられれば、文章の作り方そのものはそこまで難しく無いため、さほど苦労する事なくこの関門をクリアーする事が出来る事でしょう。
第9関門 : 定動詞と不定動詞
ロシア語では、「歩く」「乗り物に乗る」などの移動を表す動詞には、それぞれ定動詞と不定動詞という2種類の動詞が存在します。定動詞は一方向に向かって進行中の動作、不定動詞は往復や反復、あるいは方向性を持たない移動を表す動詞です。
ロシア語学習者は移動を表す動詞の一つ一つについてそれぞれ定動詞と不定動詞の2種類を覚えなくてはなりません。これについては規則性が存在しません。一つ一つ、どちらが定動詞・不定動詞かがあやふやにならないようにしながら覚えていくしかないのです。
この関門では、定動詞と不定動詞の定義と用法を学んだ後、主な定動詞・不定動詞とその現在変化の仕方を覚えていきます。
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以上が4月から7月までにロシア語一列・二列の授業で扱った文法事項についての解説の全てになります ! ロシア語を学んだ事も無いのにここまで読み通したあなたは本当に凄いと思います ! これから先に起こるであろうどんな困難も、その忍耐強さとパワーできっと乗り越えられる事でしょう ! お疲れ様でした !
<今回省略した主な文法事項>
正書法の規則、人称代名詞、所有代名詞、接続詞、指示代名詞、前置詞、所有の表現、否定生格、動作・運動の目標、再帰動詞など。
<この後に続く(秋以降に学習する)文法事項>
形容詞短語尾形、完了体と不完了体、命令法、個数詞と順序数詞、比較級と最上級、仮定法、関係代名詞、形容分詞と副分詞、などなど。
終わりに、そして次回予告
今までの内容を2文でまとめると以下のようになります。
⑴ ロシア語クラスは他のクラスから「変わった人が多い」と言われる事が多い。
⑵ ロシア語は覚えるべき事が多い。
これを読んでいる皆さん、今、どのような思いを持っていらっしゃるのでしょうか。
「第二外国語でロシア語を選ぶのは修羅の道だな。辞めておこう……。」と不安に思っているのでしょうか。それとも、「こんな大変そうなロシア語を選ぶ理ロシ生はどんな人達なのだろう……?」という疑問を抱いているのでしょうか。あるいはその両方でしょうか。
実は、今まで伝えそびれた事が2つあります。
1つ目は、このロシア語を学んでいる人達(理ロシ生)が一体どのような人達なのかという事です。彼らはなぜロシア語を第二外国語に選んでいるのでしょうか。彼らはロシア語学習をどのようなものとして受けとめているのでしょうか。また、彼らは理ロシクラスというコミュニティに対してどんな思いを抱いているのでしょうか。
2つ目は、このロシア語という一見難しそうに思える言語が一体どのような魅力を秘めているのかという事です。もしロシア語が難しくて、何の役にも立たなくて、何の面白みも持たない言語だったとしたら、きっとこの世界にロシア語学習者など一人も存在せず、東大でロシア語の授業が開講される事も、理ロシクラスというコミュニティが形成される事も無かった事でしょう。実際にはそうではないという事は、ロシア語は難しい言語でありながらも、その難しさを上回る、有用性や興味深さなどの魅力を秘めている言語である、という事です。
「ろしあごであそぼ」の第3段から第5段では、こうした2つの事を中心にお話していくつもりです。特に第3段「ろしあごであそぼ その3 東大理系ロシア語選択クラスってどんなクラスなの?」では、これまで謎のヴェールに包まれてきた理ロシクラスの実態について赤裸々にお伝えしたいと思います。楽しみにしていて下さい。
それでは次回予告も済んだ事ですし、今回はこの辺で!
また次回、お会いしましょう、さようなら!
参考文献
・ 「ロシア語をはじめよう」(西中村浩・朝妻恵理子 共著、 朝日出版社)
・ 「初級ロシア語文法」(黒田龍之介 著、 三修社)
・ 「知らないと後悔!?~第二外国語別のクラスの雰囲気を40人に聞いてみた~」
URL : https://todai-umeet.com/article/6529