文化経済学って何? WHAT IS CULTURAL ECONOMICS ?

こんにちは! Smilocal 伝統班のなりなりです。

私たちは地域活性化や衰退の一途を辿る伝統文化を守るために、主に京都の伝統産業を支援する活動をしております。他の記事でも取り上げましたように、非常に深刻な状況が長引く京漆器を復興させるために京漆器cafeをオープンしたり、漆塗り職人さんにインタビューしたり、マイナーであまりフィーチャーされない伝統文化を盛り上げようと日々活動しています。

しかし、その活動と同時に、私たちが学生であるという立場を活用して、「伝統文化産業を社会全体として、どう守っていくべきか」という課題を学術的なアプローチで分析し、行政に対する提言なども行なっております。そのため伝統芸能班として、このコロナ禍で伝統文化産業がどのような対策を講じているのかいうことには大変注目しており、現在はコロナ禍での伝統産業に対する産業政策について論文を執筆しています。また偶然にも、私たちのゼミ生の多くは経済学部に所属しているということから、「文化経済学」という文化にまつわる現象を経済学的なアプローチによって分析する、経済学の中でも比較的新しい学問領域についても研究しています。今回はそんな聞き慣れない「文化経済学」についてご紹介していこうと思います。


そこで、参考にするのがこちらの書籍
文化経済学 理論と実際を学ぶ」 後藤和子・勝浦正樹 編 有斐閣
そもそも文化経済学とはなんなのか という疑問について、Towse(2010)を引用して
次に挙げられた質問を経済分析を使って答えるのが文化経済学だと答えています。

・ポップコンサートやオペラの価格はどのようにして決まるのか
・芸術の世界ではなぜ、一握りのスターがたくさん稼ぐのか
・なぜ、大多数の芸術家は貧乏なのか
・なぜ、ハリウッドなどの特定団体が映画などの特定産業の市場を独占しているのか。
・映画やレコードの成功を予測することは可能か。
・違法ダウンロードは、音楽産業にダメージを与えるか。
・美術館や博物館などのミュージアムの入館料を無料にすると、入場者数は増えるか。
・なぜ、政府は芸術を支援するのか。
・文化遺産を守るために、我々はどの程度支払う意思があるのか。
・なぜ公共放送局が必要なのか。

以上、10の質問に答えるには、伝統的な経済学による分析では無視してきた部分を考慮するために、芸術や文化という世界を、社会学や経営学など、他の分野の知見を取り入れながら、観察する必要があります。たとえば、芸術家の多くは貧乏なのかという質問に答えるために、伝統的な経済学が対象とする経済的価値の利益最大化を目的としても、芸術家の創造性や創作活動に取り組む動機など無視していては、芸術品の価値を決める文化的価値を評価することはできません。また、文化遺産を観光に活用し経済的価値を最大化したとしても、肝心の文化的価値が損なわれては、本末転倒です。つまり、「文化」については、社会学、経営学等の社会科学の諸分野と美学、芸術学など人文科学などと学際的なアプローチによって分析する必要があり、その一つが文化経済学なのだと言えるでしょう。

まずは、みなさんにもぜひ以上10の質問について、ご自身で考えてみてほしいです。特に違法ダウンロードの質問について、私は興味深い結果を知っています。伝統的な経済学の分析によると、「すでに作成された音楽はすべて、無料でダウンロードできるようにする方が世の中のためになる」ということが知られています。しかし、音楽産業の立場で考えると、常識的に無料にすべきだとは言えません。この問題について詳しくは、神取(2018)を参照してみてください。

ここまで、長々と文化経済学について説明させてもらいましたが、もしかするとこの企画はシリーズ化されて、これからも文化経済学についての記事を書くことになるかもしれません。そのときは、ぜひご愛読していただければ幸いです。文化を伝統を守り続けていくために、これからもよろしくお願いします。ありがとうございました!


参考文献
神取道宏 (2018) 「ミクロ経済学の技」 日本評論社
後藤和子・勝浦正樹 (2019)「文化経済学 理論と実際を学ぶ」有斐閣
Towse,R. (2010) "A Textbook of Cultural Economics, Cambridge University Press.

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