企業であれ、非営利団体であれ、政府や公共団体であれ、あるいは個人であれ「私(この組織)はどんな組織か?」を他者に伝えることは、マネジメントの一大課題である。
たとえば企業の場合、役員や従業員に、また投資家に、さらに顧客に「この会社はどんな会社か、何をする会社か」がきちんと伝わらないとビジネスに失敗することになる。「こんな会社だとは思わなかった」ということになると、従業員は離職するし、投資家は経営陣と紛争を起こすかもしれないし、顧客は離れていくだろう。
個人でも同じである。自分がどのような人物かということが他者に上手く伝わらないと、本当ならば非常に相性が良かったはずの人や組織との縁がつながらなくなるだろう。誤解によって不仲になるかもしれないし、自分を理解してもらえずチャンスを奪われるかもしれない。
大学でも地方公共団体でも同じである。どんな大学かが伝わらないと、学生とのマッチングができず、「入学したが後悔した」ということになりかねない。地方公共団体も住民とのマッチング、寄付者・ふるさと納税者とのマッチングがうまくいかなくなるだろう。
もちろん、だからこそ多くの組織や個人はWebサイトやSNSのアカウントを持っているともいえる。そうしたシステムをつかって自己紹介は絶えずおこなわれる。しかし、単に自己紹介ページを作っても「自分はどんな存在か」について十分に伝えることはできない。Webでの1ページなど、組織や個人の自己表現には狭すぎるのだ。
こうした問題に取り組んだ経営学者・社会学者にカール・E・ワイク(Karl Edward Weick)がいる。ワイクは、組織や個人が「どんな存在か」を認識・理解する過程を「センスメーキング」として説明した。センスメーキングというといきなり難しい言葉が出てきたと思われるだろうが、具体例で説明すると理解しやすいだろう。
たとえば同窓会で古い友人に会ったとき、その人が別人といえるほど太ったり、オシャレになっていたり、ときには整形していても、すこし話せば「ああ、○○君・さんか!」と分かる。これはセンスメーキングの例である。
あるいは「イノベーション」という言葉。よく使われる言葉だが、これを高校生向け模擬授業で説明しようとすると非常に難しい。「新結合」では意味が分からないし、「何か新しいこと」では発明や発見とどう違うの?となる。岩尾 (2019) で使用した「経済的インパクトを持つ、新しい製品、生産工程、市場、材料、組織の実現をともなう諸要素の新結合のことを指し、技術革新・技術変化とも言われる」ではどうだろう。学術的で理解しにくいという人もいるだろう。
それではOECD・経済協力開発機構によるOslo Manual 2018における定義「「新しいまたは改善された製品や生産プロセス(あるいはその組み合わせ)であって、それ以前の製品や生産プロセスとは一線を画し、潜在的な顧客や生産現場にとって利用可能なもの」ではどうだろう。よく分からないが三回四回と定義を並べられて何となくわかってきた人も多いのではないだろうか。これはセンスメーキングの例である。
あるいは会社や組織に入って数年、だんだんと社長の性格・組織の気風・その組織で評価される行動と非難される行動が分かってくる。そして居酒屋で「ウチの組織は××(大企業病、官僚的、ぬるま湯などなど)だから~」と愚痴る。これはセンスメーキングの例である。
ここまで読んで何となく「センスメーキング」の意味が分かってきたという人もいるだろう。これはセンスメーキングの例である。なお、このセンスメーキングの説明の仕方は、ワイクの著書を真似ている。ワイクの著書は難解だが読んでいるうちにセンスメーキングが起こるのである。
大事なことはここからだ。
このセンスメーキングは組織が一致団結したり、新規事業の内容を伝えたり、組織変革を引き起こす際に必要不可欠だとされている(たとえば中川功一『戦略硬直化のスパイラル』)。どんな会社に訪問しても、(センスメーキングという言葉が使われることはまれだが)センスメーキングは課題として挙げられることが多い。このように重要な経営課題なのにも関わらず、センスメーキングを引き起こすためのITシステムはこれまでなかなか出てこなかった。そして、Pandoはこの経営課題を解決する、おそらく初めてのシステムではないかと思える。
ワイクによれば、センスメーキングは、イナクトメント→淘汰→保持というプロセスを取るとされる。
これを、若干正確さが失われるが、分かりやすく言い直すと、新規情報→解釈・意味づけ・再解釈→記憶となるかもしれない。
私たちは、組織や個人が発信する情報を得て、それを解釈して意味づけし、なるほどこういうことかと納得して記憶する。しかしその情報は絶えず更新されていく。ビジョンに「貧困をなくす」と書いてあるのに記事は「豪華なランチを食べました」では齟齬があるため「なるほどこの人は表面だけの人だな」とセンスメーキングされる。
反対に、多少言葉足らずでであっても、ビジョンや信念にもとづいた発信が繰り返しおこなわれていれば「なるほど最初はよく分からなかったけどこの人・組織はこれがやりたいのか」と理解できる。そして、自己が何をしたいのかが伝わることで必要な人とつながれるし、集まってきた人たちも何をすればよいのか分かるので、行動が実行可能となり、必要な変革が実現する。
こうして個人の自分のやりたいことと組織の目標とが一致するようになり、組織変革やイノベーションが起こりやすくなれば、すべての人が幸せである。
こうして考えてみると、ビジョンを掲げた上で記事を通常のSNSではありえないほどの自由度(画像の挿入・リンク・文字変更など)で執筆でき、Webサイト的にも運用できる上、必要な人とつながることもでき、クラウドファンディングやECサイトも運営できるPandoはまさしくこのセンスメーキングを可能にするITシステムだと思える。大きな変更がまれなビジョンと、日々の情報発信とを同時に参照してもらい、センスメーキングしてもらえるからだ。
繰り返しになるが、Pandoはおそらく世界初の、センスメーキングを可能にするITシステム(グループウェア)なのである。
センスメーキング。非常に興味深く記事を拝読致しました。経験を踏まえた個人的な意見ですが、個人において、センスメーキングに至っていない場合は、掲げたビジョンや目標が心の底から湧き出たものではない可能性があると私は思いました。ビジョンが本物であれば、自身の行動について一貫性を意識することなく行動ができると思います。ビジョンが本物であればあるほど、ビジョンと個人は相対するものではなく一体化しているからです。
同じ志を有する確立した個の集合体=組織は、自ずとセンスメーキングされていくのだろうかと先生の記事を読みながら考えました。いつも気づきと考察の機会を与えて頂き、ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
おっしゃる通りだと思います。
その上で絶えず情報が発信されるというのが大事ですね。