商学部研究会とダブルディグリープログラム

[はじめに]
     こんにちは。岩尾俊兵研究会の吉岡耕大です。記事への訪問ありがとうございます。今回の記事では、慶應義塾大学商学部商学科と北京大学光華管理学院とのダブルディグリープログラムについて、研究会活動(ゼミ活動)への参加とのバランスの取り方に注意しながら、実際の経験をもとにいくらかの説明をしてみたいと考えています。というのも、慶應北京のDDについては、まだ開始されてからの日が浅く(4年前に開始しました)、かつ、派遣実績もほとんど蓄積されていない(2023年9月時点で合計2人です)ために、本記事執筆時点において情報を集めるのがかなり困難になっている現状があるためです。
(※2023年の出願締切が昨日9月15日だったということで、昨年よりもかなり早かったようです。昨年は10月中旬だったと思います。本来であれば出願締切日よりも早く公開したかったのですが、全く間に合わずかなり残念でした。とはいえ、記事を書いている今、まだ北京での生活が始まって2週間程度しか経っていないためこれでもかなり早くしたつもりではあります...お許しください! 来年以降の参考になりますように)
(※日本の大学学部でのDDプログラムで北京大学の学士号が取得できるのは、記事執筆時現在において、慶應義塾大学商学部と早稲田大学政治経済学部のみだったと記憶しています。慶應北京DDの特徴としては、北京大学での授業を全て英語で履修できるため中国語の事前知識がない人でも出願ができることにあります。)
(※何か誤りに気付いた場合や、追記事項が出てきた場合には、最終編集日を明記したうえで、逐次編集を行います。よりよい記事にするためです)




     以下、北京大学の基本的な情報を簡単に整理した上で、このプログラムの特長や周辺事項についてできる限り事実と経験に基づいて客観的に記述します。情報提供が主であるという観点から、できるだけ私情を挟まないように注意はしますが、多少、主観的な部分もあるかもしれない点についてはあらかじめご承知おきください。何か問い合わせしたいことが出てきた場合には、一度、この記事のコメント欄にご連絡ください (もしくは大学のメールでも大丈夫です! ky0915 ☆ keio.jp または 210009285 ☆ gsm.pku.edu.cn)。順次、返信いたします。お気軽にどうぞ。ところで、この記事のカバー画像は大学内の学食のうちの一つです。中心部に自由に演奏できるピアノがあります。
     では、早速、本編に入ります。ですが、その前に、北京大学のシンボル・写真映えスポットとも言える東門と西門の画像を掲載します。比較的有名なものなので一度は見たことがある方も多いのではないかと思います(図1、図2)。

図1 北京大学東門 (「北京大学」の文字は毛沢東揮毫と現地の人が言っていたような気がします。後から調べても出てきませんが...。勘違いかもしれません。執筆者撮影)
→2023年10月16日追記: 毛沢東揮毫で合っていました!

図2 北京大学西門 (こちらの門は豪華ですが、キャンパスの主要なエリアからはやや遠いです。門を背景に写真を撮っている人もかなり多いです。執筆者撮影)



目次:
1. 北京大学基本情報
2. 慶應北京DDについて
3. 出願を考えている方へ

※この記事が扱っている内容はあくまでも参考のためのものです。思い違いや書き損じがあるかもしれないので、詳細は必ず自分で調べてください! プログラムの内容や要件も頻繁に更新されているので、情報が古くなる恐れがあることにも注意していただけると助かります


1. 北京大学基本情報


     北京大学は、変法運動期の1898年に創設された京師大学堂を前身としています。京師大学堂を継承・発展する形で1912年に創立されました。基本的な情報を慶應義塾大学と比較する形でまとめると以下の表のようになります (表1)。

表1 慶應義塾大学と北京大学との比較

慶應義塾大学北京大学
創立年1858年1898年
学生数33,467人35,915人
学部数10
(文学、法学、経済学
、商学、医学、理工学、総合政策学、環境情報学、看護医療学、薬学)
6
(人文学、社会科学、経済学・管理学、理学、情報科学・工学、医学)
理念独立自尊、実学精神、半学半教、社中協力愛国、進歩、民主、科学、勤奮、厳謹、求実、創新

     北京大学の前身、京師大学堂が設立された1898年の時代感としては、1894年の日清戦争を経て眠れる獅子中国の弱体化が顕著になった結果、欧米列強による中国分割が行われていたまさにその時期です。中国分割による清王朝の動揺は、富国強兵策である洋務運動衰退の遠因になりました。形骸化した西洋化を生むにとどまった洋務運動に対するアンチテーゼとしての戊戌の変法を掲げたのが後の京師大学堂を創設することになる康有為です。
     戊戌の変法は、結局のところ西太后ら清朝の保守派により弾圧されました(戊戌の政変)。戊戌の変法は失敗に終わりましたが、その象徴として存続していた京師大学堂は、その後、中国近代化の拠点として機能していくことになります。1912年、辛亥革命を契機として、京師大学堂は北京大学に改称されました。日本の東京帝国大学に倣った近代的な大学として、中国の近代化を牽引することが期待されての成立でした。
     改称以後の動きとしては、北京大学は、白話文学を提唱した胡適のちに中国共産党を結成することになる陳独秀、中国にマルクス主義を紹介した李大釗を同大学教授として採用したことに典型的なように、のちの文学革命新文化運動の拠点となりました。1919年の五・四運動が北京大学学生により主導されたことも特筆に値することだと思います。愛国運動の地としても北京大学は歴史に名を残してきました。
(※まとめがかなり緩いですがお許しください。史実には反していないと思いますが、専門家ではないためもし誤りがあればご一報ください)

     ここで光華管理学院の校舎、学食(たくさんあるうちの一つ)、校内にある池、お土産コーナーについて画像をいくつか載せます。少しでも現在の北京大学の雰囲気が伝われば嬉しいです (図3、図4、図5、図6)。

図3 光华管理学院校舎 (2つあるうちの片方です。執筆者撮影)

図4 学食 (比較的空いている時間。
混んでいるときは身動きが取れないほどです。執筆者撮影)

図5 未名湖 (名前がない湖で人工湖です。キャンパスの中で一番落ち着ける場所だと思います。湖の奥には水を保管するために使われていた塔が見えます。執筆者撮影)

図6 お土産コーナー (ドラえもん人気は根強いです。そのほか、ファミリーマート、ユニクロ、吉野家などすっかり北京に定着している日系企業も多いです。執筆者撮影)


2. 慶應北京DDについて

      基本的には、慶應義塾の公式ウェブサイトから情報を得ることが先決だと思います (https://www.students.keio.ac.jp/mt/fbc/class/program/fbc-beijingdd.html)。こちらに書いてあることについては、もちろん全て信頼のおけるものです。出願要件については事前の準備がないと満たすことが難しいものになっていると感じるので、念入りな募集要項確認が大切だと感じます。北京大学の公式ウェブサイトとしては、英語検索(もしくは中国語検索)してみるとかなり有益なものに辿り着くことができます ( 例: https://futureleaders.gsm.pku.edu.cn/index.htm )。ウェブサイトの切り抜きも掲載します (図7)。

図7 北京大学光華管理学院公式の案内 (出典: 北京大学公式ウェブサイト)

開講科目や現地での生活レポートなど多くの情報が掲載されています。北京大学側のプログラム運営の方々もとても話しやすいので気軽に連絡してみてもよいのではないかと思います。

     個人的に感じたこととして、このプログラムの最大の魅力は各国からの留学生・北京の現地生と生活・学問レベルで交流することができることにあるように思います。20近くの大学からプログラムに参加している留学生がいます。
     生活レベルの交流については、割と日本にいたときに想像していたとおりのような気がします。部屋があって、廊下があって、エレベータがある。ときどき物音が聞こえて、ときどき誰かが集まりを主催して、基本的には一人の時間が保障されているというようなイメージです。もしこの記事を読んでいる方で慶應義塾の寮でRAをしていた方がいたとすれば、まさにそのとおりのイメージです(RA→ https://www.ic.keio.ac.jp/intl_student/housing/ra_boshu.html )。
     学問レベルの交流については、慶應義塾商学部のGPPの延長(もしくは社会学研究科のGICの延長)のようなイメージです(GPP→https://www.students.keio.ac.jp/mt/fbc/class/program/gpp.html)。ディスカッショングループワークをとおした意見表明が求められる場面が多いことも(今さら書くことではないかもしれませんが)特徴だと思います。このあたりの雰囲気と間合いはいまだに慣れないところです。
     全ての授業を英語で履修して卒業することができるため、事前の中国語知識は必ずしも必要ありません。とはいえ、中国語ができる人や中国に何かしらの形でゆかりのある人もかなり多い印象です。中国語ができれば日常生活がより楽になることも間違いないと思います (執筆者は中国語選択ではなかったため、渡航前の自学で得た知識、今現在受講している中国語の授業で得た知識、そしてなんとか振り絞って出している気合いで日常生活を乗り切っています。そうはいうものの、キャンパスや病院など場所を選べば、英語が通じることも多いです。中国語選択ではなかった人でも十分楽しめると思うので言語の壁についてはそこまで大きく心配する必要はないと思います)。講義・授業については、50分×2もしくは3です。最速では午前8:00授業開始、最終は午後9:30授業終了です。留学生が配属されることになる寮(「北京大学中关新园」)から大学までは徒歩5分くらいです(図8)。

図8 北京大学中关新园 (9号楼まであります。1号楼には一般向けのホテルもあるため、寮エリアには常に一般の方々が出入りしています。現地学生と間違えられて道を聞かれることもしばしばです。今日も既に2回聞かれました。執筆者撮影)

    北京については日本との時差は-1時間です(日本で15時なら北京では14時ということです)。そのため、日本での何かしらの活動についてもオンラインであれば比較的容易に参加することが可能です。地理的、文化的、言語的に馴染みやすい部分も多いのではないかと感じています。大学のキャンパス内で、日本語が聞こえてくることもそれなりにあります。

3. 出願を考えている方へ

     慶應北京DDを考えつつもこちらの記事にたどり着いたという方々の中には、商学部の研究会に参加しつつDDに参加することに関する期待/ 不安があるという方も多いと思います。この記事の立場としては、勉強することへの抵抗がない(むしろ進んで勉強したい!)という場合には、研究会とDDの両方に参加することをぜひお勧めしたいです。研究会をとおして定期的に重要文献にあたってその知見を整理しておくことや、先行研究が救いきれていない部分から発展させて自分なりの問題意識を持っておくこと、さらにテクニカルかつ差し迫った問題として何かしらの分析手法/ 解析手法に慣れ親しんでおくことが慶應北京DDに対するよい影響を与えると思います。もちろん、逆もまた然りだと思います。
    DD終了後に研究会に戻って新しい卒業論文をもう一度執筆することは確かに大変かもしれませんが (※慶應義塾と北京大学の両方で卒業論文を執筆するということです)、勉強が好きな人にはむしろ楽しめることだと思います。
(※最悪、と言っては聞こえが悪いですが、北京大学で卒論執筆後、慶應義塾商学部のほうでは卒論を書かずに卒業するもできます。例えば、本記事執筆時点において、専攻演習科目の履修、もしくは、GPPの修了ができれば卒論なしで慶應義塾のほうを卒業可能です。そのため、一度、研究会の話を聞いてみたうえで、思い切って研究会に所属してみることもよい選択肢のうちの一つなのではないかと感じています。もちろん、研究会ごとの見解の違いはあるとは思うのでそこは注意点です)
→2023年10月16日追記: 商学部については研究会の形態によって、3年修了と4年修了の両方でそれぞれ4単位、合計8単位もらえる場合と、4年修了で一気に8単位もらえる場合の2つがあります。そのほか、研究会によっては遡及進級を認めている場合と認めていない場合があるようです。この辺りについては、ぜひ事前に詳しく調べていただけると良いのではないかと思います!

(※岩尾俊兵研究会では、NetLogoというシミュレーション言語を使ったコンピュータ・シミュレーション技法について勉強しています。NetLogoについて詳しくはこちらから確認できます → https://www.u.tsukuba.ac.jp/~kurahashi.setsuya.gf/NetLogo-ja/index.html 。コンピュータ・シミュレーション、特に、マルチ・エージェント・シミュレーションの特徴として、現実世界の現象を説明するための最も単純な因果関係の特定を前提に、その因果関係に影響を与える変数の設定・感度分析の実施・境界条件の導出を主な現実世界へのアプローチ方法としています。経営科学とコンピュータ・シミュレーションとの関係について詳しくは、こちらのPando記事にまとめています→https://pando.life/keioiwao/article/113999 。もちろん、商学部のそのほかの研究会で用いれることも多いPythonやRを使った分析/ 解析に触れておくこともとても重要だと思います。PythonもしくはRに関する授業の履修経験はDDの出願要件の一つにもなっているのでどこかしらのタイミングでそれらのうちの一つを経験しておくことができるとかなりよいのではないかと思います)

コンピュータ・シミュレーションの論点整理(経営科学の視点から)

吉岡耕大
慶應義塾大学商学部岩尾俊兵研究会


     ちなみに、ダブルディグリーということで2つの相異なる学位がもらえることになりますが、慶應義塾からは商学の学士号 (Bachelor of Arts in Business and Commerce)が、北京大学からは経営学の学士号 (Bachelor of Management with a speciality in Business Administration)がもらえます (出典: 慶應義塾大学の公式ウェブサイト https://www.students.keio.ac.jp/mt/fbc/class/program/fbc-beijingdd.html と https://www.students.keio.ac.jp/other/files/degreetitle_for_undergraduate_20191030.pdf )。
     しばしば、ダブルディグリーという用語とダブルメジャーという用語とが混同されて使用されているように思います。ダブルメジャーという言葉が傾向として、ある一つの大学内で比較的違いが大きい二つの学問分野を専攻することを指すことに対して、ダブルディグリーは、ある二つの相異なる大学で比較的似ているもしくは同じ学問分野を専攻することを指す傾向があるように感じています。もちろん、言葉の使いかたの問題なので、その限りではないこともあります。とはいえ、必要に応じて、慶應北京DDが何を指向しているのかについては特に外部の知り合いに聞かれたときには補足説明する必要がある場面も存在するように感じました。


[おわりに]

      まとめとして、商学部の研究会(ゼミ)に参加するべきかどうか迷っている方々に経営科学を追求する場としての岩尾俊兵研究会をぜひ検討していただきたいこと、加えて、DD(もしくは留学一般)に参加するべきか迷っている方々に学際的な経験を積む場としての慶應北京DDをぜひ参加する留学プログラムの候補に入れていただきたいことを執筆者の願いとして強調したいです。慶應義塾での勉強に力を入れている人であればあるほど、北京大学での生活を楽しむことができると思います。研究会出願についてもぜひ余念なく準備することができるとよいのではないかと思います (岩尾俊兵研究会に関する詳しい情報は過去のPando記事、もしくは、定期的に開催される説明会や体験会から入手することができます。Pando記事としては昨年度の内容はこちらに体系的にまとめていますhttps://pando.life/keioiwao/article/106973 。今年度の最新情報は、また追って更新されると思います)。

【2022年度】岩尾俊兵研究会活動報告

吉岡耕大
慶應義塾大学商学部岩尾俊兵研究会

      日々さながら、日本から使節として派遣されているかのような状況で(大袈裟な表現ではありますが...)、「これが日独伊三国同盟か〜」と思いながらグループワークをしたり、「これがウェストファリア会議か〜」と感じながらディスカッションをしたりする時間はかけがえのないものだと感じています (まだ2週間の経験だけではあるのであまり説得力はありませんが...)。
     ここまで少し偏った書きかたになりましたが、研究会への参加とDDへの参加を同時にすることは大いに可能であること、そして、それがむしろお互いに補完し合うものであるために自信を持っておすすめできることを申し添えて本記事をおしまいにします。最後までお読みくださりありがとうございました! 何か質問や疑問などの問い合わせ事項が生じた場合には、遠慮なくご連絡ください。

吉岡耕大

(本稿終。丸括弧による注釈が多いために読みにくかったら申し訳ないです。記事投稿: 2023年9月16日 初回編集: 2023年10月16日)



紹介されたウェブサイト一覧

【2022年度】岩尾俊兵研究会まとめ活動報告(春学期・秋学期) https://pando.life/keioiwao/article/106973 

Global Passport Program(GPP)https://www.students.keio.ac.jp/mt/fbc/class/program/gpp.html

慶應義塾大学ダブルディグリープログラム公式ウェブサイトhttps://www.students.keio.ac.jp/mt/fbc/class/program/fbc-beijingdd.html

慶應義塾大学学位(学士)名称https://www.students.keio.ac.jp/other/files/degreetitle_for_undergraduate_20191030.pdf 

【2022年度】岩尾俊兵研究会活動報告

吉岡耕大
慶應義塾大学商学部岩尾俊兵研究会

研究会 (慶應義塾大学商学部)
https://www.fbc.keio.ac.jp/academics/curriculum/seminars/

コンピュータ・シミュレーションの論点整理(経営科学の視点から)https://pando.life/keioiwao/article/113999 

NetLogo User Manual version 5.3.1 February 29, 2016 日本語版https://www.u.tsukuba.ac.jp/~kurahashi.setsuya.gf/NetLogo-ja/index.html

北京大学光華管理学院ダブルディグリープログラム公式ウェブサイト
https://futureleaders.gsm.pku.edu.cn/index.htm

コンピュータ・シミュレーションの論点整理(経営科学の視点から)

吉岡耕大
慶應義塾大学商学部岩尾俊兵研究会

留学生寮 レジデント・アシスタント募集 (慶應義塾大学国際センター)

https://www.ic.keio.ac.jp/intl_student/housing/ra_boshu.html





岩尾俊兵
2023.10.16

なんという素晴らしい記事!
さすが吉岡くんです。

吉岡耕大
2023.10.16

岩尾先生、拙文をご覧くださりありがとうございます!必ずしもこの記事経由ではないのですが、商学部研究会や慶應北京DDについての問い合わせも来ているので、今後もゆっくりと情報発信していこうと思っています。
嬉しい驚きとして、岩尾先生をはじめ慶應の先生方に教えていただいた経営学理論、周辺知識・関連知識を押さえていれば、こちらでの講義でも理論面では全く困らないように感じます。一方、光華管理学院がビジネススクールという立ち位置で講義を提供している都合上、講義内容が事例研究中心になる傾向が強く、そこがまだ慣れないところです。「理論と実践の行き来」ですね…!

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