有名議題を掘り下げる 〜移民問題〜

さて、少し間が開いてしまいましたが、「有名議題を掘り下げる」第2回目です。前回お伝えしたとおり、今回は国連総会第2委員会で話し合われている議題を解説します。


第2委員会は経済成長と開発をテーマに議論を行っています。各国が経済的な発展や開発を行う際に生じる課題を解決することが目的です。もちろん国際的な経済政策や、貧困関連の議論も行われていますが、今回ここで取り上げようと思うのは「移民問題」です。あれ?と思った方もいるのではないでしょうか。移民と経済成長・開発はどのようにつながるの?どちらかというと移民問題は人権に関連する話ではないの?と。勿論そのような側面もありますが、第2委員会では現在施行されている経済政策などが、今後の開発に悪影響を及ぼさないか。という点に着目して議題を選んでいます。劉振民(リュウ・ジェンミン)国連事務次長は、「出身地と移住先の双方の国の開発に移民と移住が果たす重要な役割」を認識するべきであると述べています。母国と移住先を行き来する移民は、特に発展途上国にとって将来の開発のために有益な人材となるのです。移民問題は確かに多面的な問題を抱えつつも、経済成長と開発という文脈での議論が最も適しているように見えますね。

では移民問題について詳しく見ていきましょう。まず、一般的に移民は大きく二つに分類できます。正規移民と非正規移民です。前者は合法的な措置を通じて出国し、また手続きを取ったうえで受け入れ国に滞在する移民を指します。詳細は異なりますが、大まかには海外からの帰国生を想像してみるとわかりやすいと思います。彼・彼女らは日本を出国し、一時期海外にいたわけですから、その間は移民のような形であった、とも言えます。他方で非正規移民は、非合法な手段で母国を出国し、別の国に移る人々を言います。このような人たちは送出国あるいは受入国の法を犯して移住するわけですから、受入国からの保護を受けられずに母国に戻される場合が多いようです。

ここまで話したところで少し引っかかった人もいるのではないでしょうか。移民(特に非正規移民)と難民って何が違うの?と思う人も多いかもしれません。大まかに言ってしまえば、移民は移住する際の主な理由が政策的、経済的なから生じる人たちのこと指し、難民は内戦や政治的迫害を原因に他国に移る人たちのことを指します。難民にとって、母国では自身に危害が加えられるリスクがあるため、安全を模索して他国に移る、という状況が多いのです。そのような性質から、難民問題は第2委員会ではなく、人権関連を話し合う第3委員会で扱われることもあるようですね。

次に、移民問題ではどのようなことが話されているのでしょうか。移民を受け入れる国において、移民に対する待遇や現地コミュニティーとの連携などのローカルな側面に焦点を絞る場合もあれば、移民が移住先で習得した技能などをどのようにして母国に還元するシステムを作るか、ということも話し合われています。特に後者については、移民を送り出した国にとってはとても重要な議論となります。仮に発展途上国が、先進国での技能習得のために移民を送り出したとして、その発展途上国にとっては先進国で得た知見を母国に持って帰り、共有してもらいたいわけです。ところが、移民にしてみれば移住先の方が安全で高賃金だ、という理由から派遣先にとどまりたくなってしまうでしょう。このように途上国の開発に必要な人材が国外へ出ていき、そこにとどまってしまう現象を「頭脳流出」と言います。経済成長と開発を議論する第2委員会では、途上国からの頭脳流出を止めるための政策やイニシアティブも話されています。

このほかにも、非正規移民に対する待遇や移民の待遇と安全性の担保なども話されているようです。先述の通り移民は多面的な問題で、送出国や受入国単体の政策では解決を図れないのが難しい点です。グローバル化した社会でヒトの行き来が活発化している、と書きたいところですが、現状では難しそうですね。では、今後発展途上国が経済成長を目指す際にその技能や知見をどこから得てくるのか、これまでにない考え方で移民問題を扱うことになっていきそうです。


次回は国連総会第3委員会でのテーマをお話しします。難民については今日述べてしまったので、その他の議題で書いていきたいと思います。次回もお楽しみに!