おじいちゃんベンチャーの底力:定年後に起業して上場する人たち

 人工知能、拡張現実、ロボットなどで起業したときくと、若くて勢いのあるカリスマ的な経営者をイメージする人が多いかもしれない。実際に、Googleを創業したブリンとページは博士課程に在籍する大学院生だったし、Facebookを創業したザッカーバーグはハーバード大学の学部生だった。日本でも今は大学生や大学院生が起業するというのが一種のブームになっていて、東京大学がある本郷界隈は人工知能分野でのスタートアップが集まることで「本郷バレー」と言われているそうだ。

 しかし、最先端分野での起業は何も若者にしか許されていないわけではない。

 私はいまこの人工知能分野で最先端を走る「株式会社マインドシフト」で社外監査役として株式上場の準備をしているのだが、ここの役員会メンバーは60歳超え(おじいちゃんという雰囲気ではないのでおじさんとしておく。もちろんマダムもありうる)がほとんどで私一人だけが参加当初は20代という不思議な会社なのである。技術を担うのは日本のITの黎明期を支え、超大手企業で常務や専務に上り詰めた「日本の人工知能研究の父」と呼ばれる人である。

 70歳を超えて今でも自分の力でC++を操り推論エンジンを作るその姿には鬼気迫るものがある。作業はきまって強羅の温泉地で、コーディング⇒散歩⇒温泉⇒ビール⇒コーディング⇒食事⇒ワイン⇒コーディング⇒温泉⇒日本酒⇒コーディング⇒ウイスキー と、夜が更けていく。はたからみれば大作に取り掛かる文豪である。そして夜も明けたころ「できた、魯山人の文書を全部覚えさせた!魯山人を生き返らせたぞ!」と声がする。

 それ以外にも、業務監査のプロ、営業のプロ、管理業務のプロ、財務のプロ、それを束ねる社長などみんな60歳を超えた(どころか70歳を超えることもある)おじさま達が集まって、若者と交じって最新技術に挑戦するベンチャーを立ち上げた。「若い奴にはまだ負けん」という気概と、これまでの人生経験で培ったマネジメント力で着々と実績を積み上げている。テーマは「AIの民主化」で、これまではIBMの独占で年間数千万から数億円が必要だったAIの利用を安価に使いやすく良質にしようというプロジェクトである。

 近年、高齢者をどうするかという問題が議論されることが多いが、その一つの選択肢・可能性として「おじさんベンチャー創業」もあるのだなと感じる。少子化・高齢化を考えるとき、私たちはよく「若者~人で高齢者1人を支えなければ(その若者の数が減る)」といったネガティブな文脈での表現を目にするが、場合によっては資金と知識と経験のある「おじさん」という貴重な資源を少ない人数でシェアできるようになるというように逆転の発想でポジティブに考えることもできる。

 たとえば出口治明氏がライフネット生命を創業したのも(いつから計算するかという問題はあるが)氏が60歳を超えたころである。若者同士の起業だと勢いもある反面喧嘩別れも頻発するが、そこにマネジメント力豊かなおじさんが入って会社としてうまくいくとか、過去の技術的な失敗例を若者がおじさんから取り入れることで開発がうまくいくなど、これから若者とおじさんのタッグ起業というのがひとつの新しい会社の姿としてありうるかもしれない。

クインテット総務
2019.10.11

出口治明さんの本を読んだところなので、
岩尾先生の記事を見て、ちょっと嬉しくなりました。

今回の記事を読んで、
「もう歳だし…」と言い訳しがちな己が恥ずかしくなりました。

今後は歳を重ねるごとに、
パワフルに色々なことにチャレンジしていきたいと思います。

岩尾俊兵
2019.10.11

そうですね!
次世代の働き方な気もします。

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