【インタビュー】コロナ×SDGs朝活イベントで考える未来|Ouchi Mirai Club

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府が全国の小中学校や高校に対し、一斉休校を要請したのが今年の3月のこと。

クラスメイトと机を並べ、ともに学び、笑い、育む。そんな当たり前の日常を失ったことがきっかけとなり、2020年4月、高校生が集まりSDGsを軸にオンラインディスカッションイベントを開催する「Ouchi Mirai Club」が誕生したのです。

今回は創設者であり代表の小林さんをはじめとする、メンバーの辻󠄀さん、髙橋さん、吉澤さん、羽柴さん、小川さんの6名にお話を伺いました。

りこ

はっしー

学生団体ミノリタス

運営メンバー全員が高校生!Ouchi Mirai Clubとは?

――Ouchi Mirai Clubの主な活動内容を教えて下さい。

小林 私たち「Ouchi Mirai Club」では、新型コロナウイルスによる外出自粛期間を活用し、オンラインイベントを開催しています。

イベントでは、テーマに合わせて専門の方をお呼びし、講演していただいたうえで参加者の方々とディスカッションを行います。その中で得た考えや思いついたアイデアを共有し、フィードバックをいただくサイクルを繰り返すといった流れです。

――なぜOuchi Mirai Clubを立ち上げたのですか?

小林 外出自粛期間中は学校も休校になり、ひとりで机に向かって勉強することがどうしても多くなってしまって。しかし新型コロナウイルスの影響を受け、世界情勢もどんどん変化していきますし、もっとみんなで対話をしながら学べる場所がほしいと感じていたんですね。

そこで、知り合いを数人集め、内輪でディスカッションをするようになりました。

その頃はそれぞれが持ち寄ったテーマでディスカッションをしていたのですが、あるとき、SDGsとコロナを掛け合わせてディスカッションしたらおもしろいのではないか、というアイデアが出まして。そこで高校生に限らず、いろいろな方を巻き込みながら多様な意見を聞けるディスカッションイベントを開催することになりました。

その際に、学校の友だちや知り合い繋がりで運営メンバーを募り、団体として活動を開始したという流れです。

――どのようなビジョンのもと活動されていますか?

小林 Ouchi Mirai Clubでは、『一人ひとりが社会の現状を知り、多角的な視点で「考動(こうどう)」するきっかけを作る』と『人との繋がりの中で共に学び、「対話」することによって、少しずつ問題意識と希望を共有する』という2つのビジョンを掲げています。

新型コロナウイルスの影響でどうしても受け身になりがちですが、こんなときだからこそ実際に自分で話を聞き、自ら考えてみる。そして世代を超えた対話により、自分の考えをより深め、アクションへと繋がる“きっかけの場”を提供できればと考えています。

――Ouchi Mirai Clubの魅力ややりがいについて教えて下さい。

小林 私たちのイベントの特長は、何かひとつのテーマを定めるのではなく、さまざまなテーマを扱っている点です。SDGsの1から17番までを包括的に取り組んだ後に、それらと掛け合わせ、「メディアと教育」や「いじめと教育」、「アートセラピーと健康」というように、いろいろな社会問題を多角的に扱っています。

これにより、それぞれのイベントが線となり、そして面になる。別の回で聞いた話が実は繋がっていて、重なっていると感じることもよくあるんです。そうやってどんどん広がっていくことがおもしろいと私自身は感じています。

辻󠄀 各イベントで事前に議題を設定するのですが、どのような会話になるかを予想し、話しやすいものを選ぶようにしているんですね。しかし実際にディスカッションをすると、参加者の皆さんそれぞれが全く違う意見を持っているので、想定外の意外な意見が生まれたりして、運営側としても非常におもしろいです。

髙橋 議論がどう育つか分からない点も魅力ですね。参加者の方々はいろいろなバックグラウンドを持っています。中学生から社会人の方まで幅広い年齢の方がいますし、所属している団体やお住いの地域もバラバラ。だからこそ、各視点のさまざまな意見をもらえるので、とても刺激になります。毎回、運営側の私たちが楽しませていただいていると感じるくらいです。イベントの日は1日がさわやかに始まる、みたいな。

小林 本当に、朝から有意義で濃密な1時間を過ごしています。途中で私が一番楽しんでいるんじゃないかと思うくらいで(笑)。

自分たちが楽しみながら、話し合いたいと思えるものを提供することは、運営メンバーと意識して組み立てた点なんです。その価値として参加者の方々にも興味深くディスカッションしていただけると思っています。

羽柴 それが参加者に伝わって、楽しんでいただけているのかなと思います。特に、リピーターの方がいらっしゃると嬉しいですね。有意義な時間を毎朝共有できているという実感が湧いてきます。

これまでの具体的な活動について

――イベントを開催するうえで大切にしていることはありますか?

小林 「身近な視点」と「自分たちがおもしろいと思える企画」という点を大切にしているのと、多様性に価値を見出せる発信の仕方をしたいと思っていて。

「SDGsを知っていることが正義」として押しつけたり「○○をやっていきましょう」と一方的にアピールするのではなく、皆さんとの対話を通じて出た結果を共有するという進め方を大事にすることで、共に考える場所として機能していると感じています。

髙橋 私たちの活動は、SDGsに賛同し、その一部取り入れようというもの。SDGsを正当化し「あなたもやろう」という広報活動をしている訳じゃないんです。SDGsのまだまだ完全ではない部分を含め、客観的に議論する。身近に感じながら課題を見つけていくというところをすごく大事にしていると思います。

――これまで開催したイベントの中で最も印象に残っている回について教えてください。

小林 どの回も本当に全て感銘を受けたというか学び大きかったのですが……あえて特筆するとしたら、10番の「人や国の不平等をなくそう」という回がすごく心に残っています。

この回では、日本赤十字社のルワンダ駐在職員として途上国の開発に携わられている吉田拓さんをゲストにお招きしました。

私はアーチェリー部に所属しているのですが、アーチェリーは障碍者と非障碍者の壁がほとんどない競技なんです。サッカーなどの競技だと同じフィールドでプレイするのが難しいと思いますが、アーチェリーの場合はルールもほとんどが同じ。練習も試合も一緒に行いますし、車椅子の方とプレイするような機会もあり、自分の中で「平等と公平って何なんだろう」と考えていました。

そんな中、このイベントでは「そもそも不平等はどうしてなくすべきなのか」というすごく根本的な問いから入ってくださったんです。

このイベントを通じて“自分自身が、不平等な社会的構造を肯定してしまっているかもしれない”と、自分の行動に気づくことが大事だと思うようになって。

平等を無意識に迎合するのではなく、そもそもなぜ平等について話すのかという点から入ってくださったことで、本当の平等とは個々を尊重しそれぞれに適用していくものなのかと考えるようになりました。

途上国の開発においても、日本やヨーロッパの考えを押しつけるのではなく、彼らの文化や生活を知ったうえで適切な対応を心がけることが本当に必要なステップだと感じています。 

 僕は「メディアと教育」の回。 

メディアリテラシー教育について、文部科学省が提示しているにも関わらずまだ教育現場に反映されてないことに以前から疑問を持っていて。フェイクニュースが蔓延し、信じてしまう人がいるのは、やはりメディアリテラシー教育が不足しているからだと思うんです。

このイベントでは、メディアリテラシー教育を導入するために私たちに何ができるかについてディスカッションしたのですが、受け取る側に問題があるという視点はもっともですが、学校側にも問題があるという話に結構波及していって。

メディアは遠い存在だと感じている人が多いと思いますが、ディスカッションしやすくするために、ケビン・カーター氏の「ハゲワシと少女」の写真を見ていただきました。

[写真はNATIONAL GEOGRAPHICのサイトに掲載されています。ぜひご覧ください]

人によって受け取り方はさまざまだと思うんです。手前の餓死しそうな少女に対して、ハゲワシが襲いかかるように見えるかもしれませんが、実のところハゲワシは離れたところにいる。写真の撮り方次第で、このように受け取り方が変わってきてしまうという実例を出すことで、話しやすくなる工夫を加えました。

髙橋 これはピュリツァー賞を受賞した写真なんですが、受賞後に批判が殺到したそうなんです。「なぜ少女を救わず写真なんか撮っているんだ!」と。報道によって貧困の現状を伝えることが大切なのか、それとも実際に目の前にある命を救うことが先決なのか、議論を起こした写真をテーマにすることで、そもそも天秤にかけるべきなのかも含めてディスカッションしました。グループワークでは新聞の読み比べも行いましたね。

吉澤 ロイターや産経、朝日、読売などを読み比べることで、いろいろな観点で多角的にメディアリテラシーや偏向報道について考えることができたと思います。

髙橋 私は最初、 Ouchi Mirai Club に入る前にFacebook を通じて、1番の「貧困問題」に参加させてもらいました。 

子ども食堂の支援をされている方から、新型コロナウイルスの影響で子ども食堂の継続がかなり難しくなっている今、家で満足にご飯が食べられない子どもたちはどこへ行くのかというお話を伺ったんです。私自身、両親の離婚によって子どもの頃、田舎に移り住んだ経験があって……。団地の集合住宅には、いろいろな境遇の子たちがいましたし、私の家も国のお世話になったこともありました。そのような環境下で育ったぶん、すごく共感する部分があったんです。

しかし、自分が小学生・中学生の時代、近所に子ども食堂があったとしても、大きな心理的な壁があり行けなかったのではないかと思います。当時私は、生徒会の活動をしていたので、どうしてもプライドがネックとなっていたはず。このとき、「福祉と恥じらい」というのが大きな課題だとヒントを得たんですね。

私は小さい頃から絵を描くのが好きで、ストレスが溜まったりしたりすると何かにつけてアートの世界に没頭し、絵を書くことやコミュニティに精神的に支えられていました。だからこそSDGsの17番までのイベントが終了した後、ぜひアートセラピーの企画を行いたいと思ったんです。

そこで、日本女子大学で教鞭をとられている臨床心理士の方をゲストにお呼びし、イベントを行いました。しかし、中高生は「表現アートセラピー」という身体や歌、演劇など、さまざまなものが複合的に組み合わさった自己表現にどうしても恥ずかしさが出てきてしまう。運営のメンバーが参加しても、恥ずかしさからカメラをオフにしてしまう参加者もいました。これって、子ども食堂と繋がるなと思ったんですよね。「私貧乏だからご飯をください」という、社会に対する恥ずかしさ、理想の自分と社会における自分との乖離が、生活をしていく上で大きな壁となっていることに気づいて。

それをテクノロジーの力があればなんとか変えられるんじゃないかと考えたんです。「産業と技術革新」という回で、オムロンの元社長 竹林さんにお越しいただき、技術を利用することで今まで見えてこなかった世界が見えること、そしてこれまでディスアドバンテージだと思われていた障害や生まれ、境遇が実はそこまで壁を感じず、共に歩んでいけるものなんじゃないかという気づきをたくさん得ました。

小林 途上国の子が書いた絵を、テクノロジーを通じてルーブル美術館に投影するという企画を紹介してくださって。

髙橋 その他にも、万博で身体障碍者の方がロボットを操縦し、接客を行うカフェのお話を聞き、壁に向かっている方が物理的な体を手に入れて働くことができ、お金を稼いでいる。そういったところにすごく感動して、テクノロジーを応用した取り組みを実際にやってみることにしました。

そこで行ったのが、気恥ずかしさを取っ払ってもっとセラピーに親しみやすくするために、オンラインでTシャツをデザインして作るという企画。 

Google 社が開発したAuto Draw(オートドロー)というツールがあるのですが、自分が適当に絵を描くとAI が自動で何を描いたかを認識し、適当なオブジェクトをサジェストして出してくれるというすごいサービスを活用することで、センスがないと思っている人でも自己表現できるんじゃないかと考えたんです。いろいろやってみたところ、とても良いものがたくさん完成しまして。

そこからさらに、ユニクロのサイトで今作った画像を使ったオリジナル T シャツを作り、気に入った方はその場で購入できるといったイベントにしました。もちろん、まだまだ改善できる点やコラボレーションできる点などはあると思いますが、私自身ひとつ可能性を見出せた分野で、SDGsのベースに基づく気づきがなければ成し得なかったことだと思います。今後自分の大学での学びにも結びついていく部分だと思いました。

吉澤 私は17番「パートナーシップを達成しよう」が一番印象に残っていて。

コロナに関連して身近に感じやすくなったところかと思っています。他の16個の目標は、貧困や飢餓といった具体的なワードが入っていて、なんとなくイメージできると思いますが、“パートナーシップ”とはなんぞやと、私自身運営に参加する前まではずっと感じていました。

この回では、ゲストの田瀬さんが個人が個を大切にしつつ、パートナーシップを達成させていくことがSDGs全体を解決することに繋がるということをおっしゃっていて、そこに強く共感しました。

小林 1つ具体例をあげるとしたら、たとえばプラスチックのレジ袋を廃止しようと思ったときに、その裏にあるものは何かと考えてみると、環境破壊がある。さらにその裏に何があるかというと、経済開発を優先してしまう労働環境かもしれないし、気候変動なのかも知れないし、もしかすると貧困の状況かもしれない。さまざまなことが起因しあってひとつの事象として現れている部分があるということを理解しつつ、それを解決するためにも包括的なアプローチが必要で、それをSDGsドミノというふうに分かりやすく表現してくださいました。

吉澤 田瀬さんは「強いパートナーシップというのは、個が強くかつそれを尊重していく関係があること」とおっしゃっていて、これはコロナの時代に関係していると思っていて。コロナによって社会との関係や自分の立ち位置がすごく浮き彫りになったことを私自身感じているのですが、コロナというきっかけがあったからこそ自分の個を確立して、周りと協力し合ってパートナーシップを大切に、さまざまな社会課題を解決していきたいと、この回から感じることができました。

羽柴 僕も吉澤さんと同じ17番が最も印象的でした。それは原体験とリンクしている部分があるからで。僕はハンガリーに留学していたのですが、そこで政治体制と「ロマ」と呼ばれる人々の2つが強烈な記憶として残っているんです。

ハンガリーでは、ロマ民族という伝統的に何百年も差別されている方々がいます。その要因は、教育だったり暮らしだったり貧困だったり……。文化的な差別が行動的な差別に行き着いているんです。イベントを行う中で、これもSDGsと繋がっているなと考えました。

ハンガリーの政治体制は独裁に近く、NGO の活動が制限されています。17番の回を通じて、政府とNGOなど、さまざまな組織が協力して解決するときが来ているということを学び、ロマ民族が学校をドロップアウトする確率が高いというバックグラウンドに貧困があること、そして貧困の理由として構造的な差別があるということが、SDGsドミノの流れとしっかりマッチして。次の時代には、そのような考え方が大事なんだなということを改めて確認することができた、素晴らしい回でした。

小林 今まさにその17番の裏に1番と10番があるということが浮き彫りになったよね。17番の裏に差別があるからの不平等。そのバックグランドに1番の貧困がある。本当に繋がっていると感じます。

小川 僕は9番の「産業と技術革新」の講演を竹林さんにしていただいた回がやはり良かったです。自分自身もイノベーションに興味があり、将来的にも携わりたいと思っています。

竹林さんとは、別のイベントに参加した際に登壇者として来られていたことが出会いのきっかけです。その後Facebook で繋がって、Ouchi Mirai Clubのイベントでもぜひ講演してほしいとお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。

このイベントでは、今後AIが発展していく中でも「便利と感動」を絶対に忘れてはいけない、不可欠な要素であるというお話をいただいたんです。IT が発展することによって人間が取って代わられるのではなく、人間のさらなる雇用が生み出されればそれに越したことはないと、非常に感銘を受けました。

小林 竹林さんは私たちのイベントにリピーターとして参加してくださっているんです。

小川 誕生日には Facebook でわざわざメッセージまでいただきました。

小林 普段だったら出会えないような人のお話を聞くことができ、個人的な繋がりまで生まれる。このコロナの期間とオンラインイベント、SDGsというテーマが相まって、オンライン上では密なコミュニケーションを取りながら対話ができたというのは、本当に有意義でした。

メンバーの原体験、そしてこれから

――みなさんの原体験と今後のありたい姿についてお聞かせください。

 僕がメディアに興味を持ったのは、これまでの原体験が大きく影響していると思います。僕は日本で生まれ、アメリカと上海で暮らしていたのですが、中国に住んでいたときにちょうど尖閣諸島問題による反日デモが起きていて。実際にこの目で見て、社会運動として印象的だなと感じていたんですが、その報道を見たときメディアに違和感を覚えたんです。

暴動が起きて略奪や破壊が行われているにも関わらず、中国メディアでは一切報道されていなかったんですよ。日本人に対して強く批判されていたにも関わらずです。もちろん、中国だから言論統制が強い部分もあると思いますが、実は中国に限ったことではなかったんです。

日本に帰りニュースに興味を持ち始めてみると、日韓報道などから日本にもそういう部分があることに気づきました。

メディアの役割って結局何なんだろう。メディアを信じてしまう世間の人たち……。メディアを信じることで世の中が良くない方向に行ってしまうのではないかと強く感じて、メディアに興味を持つようになりました。

また、アメリカに住んでいたときには意外と人種差別がなくて。自分が小さかったから「差別」という意識がなかったことも関係しているかもしれませんが、インドや南米、中国の人などさまざまいましたが、学校という小さいくくりの中では偏見を作り出す一員にはならなかったんです。

しかし、国家といった大きな共同体になると、それほど単純じゃない。だからこそメディアという大きな権力機関が大きな影響を与えているんです。それが間違った方向にいってしまうと危険だと肌で感じたからこそ、そこを変えたいと思っています。現状はどうなっているのか、その現状を私たち民間の手で変えられるのか、と今模索しているところです。

小林 私は模擬国連を始めたことがすごく大きくて。模擬国連は、国際問題についてさまざまな大使の立場から論理的に組み立て、交渉しながら妥協点をお互いに探るといった活動です。各国の視点から見ることで自分以外の人がその問題を考えたときに、どう感じるのかといった多角的視点を学ぶことができ、国際問題への関心がシンプルに高まりました。

もうひとつの柱としてはアーチェリーを始めたこと。同じ練習環境でプレイすることによって障碍者の方に関心を持ちました。

私自身はこの2つの原体験から、そういう方々に対して何かビジネス的なアプローチができたらいいなと思い、今サービスを開発中です。現在はD&I(ダイバーシティアンドインクルージョン)という言葉が普及しつつありますが、インクルージョンを実現できる国際社会にしたいとぼんやりと感じていたのを、Ouchi Mirai Clubでのイベント運営を通じ、いろいろな場面で感じることができて。

それは障碍者に限らずセクシャルマイノリティーや貧困だったりとか、さまざまにいえることだと思うので、そのようなことから挑戦していきたいなと思っています。

髙橋 私は5歳のときに両親が離婚しましてそのとき母方に引き取られたんですが、今思うと母はかなり重度の ADHD を患っていたんじゃないかなと思って。というのも、日々のタスク管理や感情のコントロールが苦手で、お金を上手く管理できず、いろいろなところから援助を受けているにも関わらず、10年間ほど貧困の状態に置かれていました。

田んぼに囲まれた田舎でそんな生活をしながら、中学校では生徒会の活動をやらせてもらったり、美術部に所属して絵を描いたりしながら「人から評価を受けたい」とか「自分でストレスを発散する」という方向が日常の中で見つかり、なんとかなっていました。

ただ、田舎の中学って情報に疎いんです。高校受験するとき、親戚に金銭面で頼って、東京の学校に行くといった選択肢もあったはずなのに、全く見えていなくて。公立の高校1本で受験した結果、失敗してしまいました。

唯一、併願で受けていた私立の女子校に進むにあたって住環境が一変。自分が思い描いていた将来とのギャップに加え、いわゆる進学校だったため、高校生のときから毎日毎日大学進学のことをかなり強く上からいわれる生活でした。

自分にかけられた期待にどう応えるか……。すごく重くのしかかっていたんですよね。結果、精神的に限界がきて学校に行けなくなってしまったんです。その後高校2年生の冬にドロップアウトすることになるのですが、それまでの間すごく苦しい思いをしながら、自分についてたくさん考えました。

最近私は、身体は女性だけれど、気持ちは男の子に近いんじゃないかと思っているんです。これには長年、なかなか気づくことができなかったし、女子の中に囲まれて生活する違和感も、きっと自分が変な人のせいだと思い続けていました。自分自身に気づいてあげられなかったというような反省があって。

家庭の問題ともリンクするんですが、そういったところって顕在化しにくいんですよね。そこにどうやって気づいてあげたらいいのかというのは課題として感じています。たとえば家出して児童相談所に訴えかけても、やっぱり最後には家庭に返されてしまう。そのような現場を、対処療法的ではあるけれど、自分の好きな絵の力を使って解決することができるんじゃないかと思っています。

今は、アートとこれからどんどん発展していくテクノロジーの世界に関連づけた研究をOuchi Mirai Clubでのイベントでの発見と併せてやっていきたいと思っているところです。

吉澤 私は辻くんと一緒で、メディア関係に興味があるのですが、その原点は東日本大震災だったんですね。その当時、私は小学2年生だったんですけど、本当に怖くて怯えることしかできず、ずっとテレビを見ている状況でした。

そのときアナウンサーの方が、私たちに必要な情報を発信しているのを目にして、発信者に憧れを抱きました。私も誰かに必要とされるような発信者になりたいなという思いがひとつ、一番深いところにあります。

そこから、原点である震災ついて調べ始め、浮かび上がってきたのが偏向報道の問題。当時、 メディアが被害の大きい場所ばかりを取り上げていたことで、 復興に差が出ていると私自身感じていました。それに加え、農家を営んでいる父の友人が「農作物が汚染されている」という被害にあって……。実際には汚染区域外だったにも関わらず、そのような報道がなされたことで一般の視聴者は思い込んでしまった。結局今もその被害で経営難に陥っているんです。

そのようなことからメディアの力や発信方法に問題意識を抱くようになりました。そしてこのお話は、きっかけさえあれば誰でも当事者意識を持てるんじゃないかと思うんです。というのも、私の学校はSDGsに関して授業で取り扱われることがありませんでした。

しかし私は、風評被害や偏向報道というひとつのきっかけから行動を起こしています。私もOuchi Mirai Clubで活動することが、誰かの行動するきっかけになれればという思いでイベントの運営に参加しました。今後はメディアを正しく使い、偏りのない情報を発信していける社会を実現させるための研究を頑張りたいと思っています。

羽柴 僕は最終的に、一人ひとりの個性がちゃんと認められて、ひとつのチームの中で一人ひとりの能力が活かされ尊重しあえる社会を作りたいんです。それはまさに、ラグビーのチームのようなもの。

僕は父の仕事の都合でマレーシアに住んだことがあるんですよ。マレー系と中華系とインド系の人々がいて、宗教も食べてはいけないものも全く違うのに共存していて。そんな人々と触れ合うのが楽しくて仕方なくて、異文化に強い興味を持ちました。子どもながらに「共存っておもしろいな」って思っていたんです。

そこで、他の文化にも触れてみたいとの思いからハンガリーに留学することに。すると、僕が想像していた共存は全然なくて、逆に自分が差別されたり、何百年も差別され続けるロマ民族がいて……。さらにハンガリー人のステレオタイプも存在していて、かなりの悪循環に陥っていました。それどころか、差別をネタに「おもしろいだろ」と見せてくる友だち、議論になると感情的になって差別的な発言をするマザーたちと接しながら、いつも「これでいいんだろうか」と考えていました。

しかもハンガリーの政治は、裁判所の内部収賄や陰からのメディア統制、NPOの禁止といった実状。問題意識を覚えたまま帰国してみると、意外と日本も同じような点があると感じたんです。在日韓国人の入管問題もそうですし、性的マイノリティの方々の扱い。中でも「ゲイ」という言葉はハンガリーで相手を罵倒する際に使われていたため、日本で耳にしたときにはモヤモヤしました。

違いがあるからこそ攻撃するのではなく、お互いを尊重できたら。僕の中でマレーシアがすごくいい場所だったので、マレーシアのように異なる文化やバックグラウンドを持つ人々がお互いを認め、共存できればいいと思っています。そのために何ができるかを考え、いろいろな論文を読んでみたり、マイノリティと政治を繋ぐ「学生団体ミノリタス」を友だちと創設したりして。

そこで多くの学びがありました。当事者の方や取り組みをされている方から話を聞くことで、政治などのいろいろなところからアプローチし、学生団体ミノリタスとしても本格的に活動できればと考えています。いつかハンガリーにも帰って、ロマ民族の方々とも活動できれば……と空想しながら。彼らは音楽が素晴らしいので、そこを強調してハンガリー人の方と良さを共有できたら楽しいんじゃないかと思っています。

小川 自分は今までの人生、全て野球中心に回っていたので、普通の生活だと会えないOuchi Mirai Clubの仲間に会えて本当に良かったと思ってます。通っている学校には、このような課題意識を持っている人はいませんし、野球部は週に1度オフがあるかないかという状況なので、実はディスカッションイベントにもあまり興味がなくて……。

しかし、このコロナ期間は部活がなく、動けるようになったことで自分の課題ややりたいことが見つかったんです。それは、大好きな漫画に関わること。もともと、中学生ぐらいから漫画が好きで、家には単行本が400冊以上あります。

今課題に感じているのは、漫画家の労働環境について。漫画家という個人事業主と出版企業のパワーバランスに問題があると感じているんです。現在漫画家が置かれている環境は、自分が中学・高校と経験してきた、野球部の監督と選手の関係にすごくマッチしているところがあって。

出版社のビジネスは約100年間、同じモデルで続いているのですが、コロナの影響を受けて新規参入がより一層早まりました。そこで、自分が新しい出版社を立ち上げることにより、摩擦なく移行できればと考えていてます。SDGsのイベントで、何の知識もなかった自分が、いろいろな方の話を聞き繋がれたことで人脈が広がっていますし、未体験のコミュニティが形成されていて、価値観が大きく変わる要因になりました。

先ほど吉澤さんが「きっかけがあれば、誰でも取り組める」といっていましたが、Ouchi Mirai Clubの中で自分が一番それを経験していると思いますね。

髙橋 小川くんはずっと組織の中で野球一筋に生きてきたからこそ、相手との関わり方や礼儀に強いよね。独自のボキャブラリーももちろんあって。組織の中で受けた経験が、漫画家支援の動機づけにもリンクしていると普段からすごく感じます。

小林 こうやって抱く問題意識もバックグラウンドによって本当にさまざまで。でもSDGsというひとつのキーワードによって、同じ方向を向いて一緒に学ぶことができるのが、すごく大きいと思っています。それぞれ違うことからスタートして、その過程にSDGsがあって、目指す未来や問題意識も皆それぞれ。Ouchi Mirai Clubが共に学び合うきっかけの場所であり、中継地点になれたらと思っています。

――Ouchi Mirai Clubは今後どのようなことを成し遂げたいですか?

小林 今回の外出自粛期間でも「考動と対話」をテーマとしながら、それぞれの問題意識、もしくは無知であることも共有しながら多様な議論を繰り広げることが、それぞれのアクションに繋がっていくということを身をもって体感することができました。

コロナの影響を受けながらも2030年は刻々と近づいてきますし、私たち自身がこれをきっかけに得られた学びを、どんどん共有しながら共に学びあっていけるようなプラットフォーム中継地点として継続させていきたいと思っています。

それぞれ受験やテストなど、いろいろなことがありますけども、それぞれが柔軟に意見や企画を出し合い、今後もコミュニティを活かして問題意識をどんどん広めていきたいです。

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▷Ouchi Mirai Club note


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