【勝間和代先生登壇】専門職の未来:AI時代に会計士・弁護士・税理士は生き残れるのか?

 東京大学では2012年から、統合的な視野と独創的な発想を備え、産学官の各方面でグローバルに活躍するリーダーを育成することを目的としたGCLプロジェクト(ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム)を開始した。プロジェクトの一環として行われている講義「グローバル・クリエイティブリーダー講義Ⅱ:Introduction to Management(担当:東京大学大学院情報理工学系研究科客員研究員・岩尾俊兵)」では、普段相互に交流する機会があまりない文系と理系の大学院生、さらには業界の最前線を走るトップランナーとが社会イノベーションに関して様々なテーマで議論し、日本と世界のイノベーションを担う人材を育成することを主目的としている。

 今回はゲストとして公認会計士、経営コンサルタント、証券アナリストなど多様なキャリアを経験された勝間和代氏をお迎えし、「専門職の未来:AI時代に会計士・弁護士・税理士は生き残れるのか?」というテーマで学生と議論した。

 

ゲスト:勝間和代 氏(株式会社 監査と分析 取締役 共同事業パートナー)

司会:岩尾俊兵(明治学院大学 経済学部 国際経営学科 専任講師)

書記:加藤木綿美(二松学舎大学 国際政治経済学部 国際経営学科 専任講師)


●テーマ①専門職人材とAIはどのように協調していくことができるか?

 

人工知能と人間との差

 

勝間:人工知能と人間の差とは何かを考えてみると、何が一番違うと思うか?

 

学生:私は現状の弱いAI、すなわち、一つのタスクに絞ったAIと人間の違いは、柔軟さというか、タスクを自ら定義できるところかなと思う。

 

勝間:最近そこも徐々にでき始めている。タスクを自分で定義させるプログラムを入れるとタスクも定義できる。

 

学生:AIは判断するためのロジックを組むのに、結果ベースでデータベースで組むが、人間であれば上から下にロジックを組めるという部分が違うと思う。

 

勝間:Googleの囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)」は、過去の棋譜データをもとにプロ棋士に勝ったのはもとより、最近では棋譜データなしにゼロからAI自身で全部考えて、人間に勝つようになってしまった。ロジックを自分で組めるという話では、AIもすでに一部でき始めている。

 

岩尾:難しく考えている学生が多いように思うが、もっと単純なところで、AIは疲れないとか文句を言わないということもある。

 

学生:それでいうと人間とAIの違いは感情がある/ないというところではないか?

 

勝間:その通りだ。感情、さらにいえば心がある/ないという点が人間とAIの違いだ。心がないということは、五感がないということ。人間は五感のボトムアップから世界を見て組み立てているが、コンピュータは最初のプログラムやロジックから見て世界を組み立てているから、物事を考えたり感じたりする仕組みが全く違う。そのため、AIに感情や嘘をつく能力を作らせることが難しいそうで、多くの研究者が取り組んでいる。私の友人は人狼知能という人狼ゲームをさせるAIを作っている。「感情や感覚がないAI」と、「感情や感覚がベースで無理やり後付けでロジックを付けている人間」でどのように専門職において協業していくのかを考えると面白い。

 

感情というキーワード:人とのコミュニケーション

 

学生:私は看護師を4年経験してから進学してきた。医療職は感情や人の温かさが最終的な判断に大きく影響するところがある。例えば「この手術を受けたら99%の確率で死ぬが1%の確率で完治する」ということを数字で出されても患者は選べない。また、危篤状態で家族が選ばなければいけないことも多い。そういった中で数字だけで判断することは難しい。患者や患者家族のアクションを後押ししたり、ブレーキをかけたりすることが医療職に求められるのだと思う。

 

学生:私は外務省で10年、その後NY州弁護士を経験しており、法務というよりはロビー活動を経験した。弁護士の視点では、「いかに顧客を満足させるか」が最も重要な仕事であるため、いかにうまく説明するか、客観的な事実だけではなく直接会うことや伝える際の表情など、感情の部分で弁護士としてやらなければいけないこと、AIにできないことはまだあると考えている。一方で、弁護士の中でも判例を集めるところを専門的にやっている弁護士も(特にNY州弁護士の場合は)いるので、そういった面ではAIによって淘汰されてしまう可能性はある。

 

勝間:やはり現状、人とのコミュニケーションの部分はどうしても人間が必要ということだ。現状のAIがダメな部分として、AIは耳と目はあるが他の感覚がなくて、人間の代替をさせるためには特に皮膚感覚がないのが致命的だといわれている。人間は皮膚から非常に多くの情報を取っていて、相手が何か不正をしているときに皮膚から感じる。「この人は何か変なことを隠している」とか、「話は流ちょうで良い人のように見るがどうも詐欺師な気がする」ということが人間ならば皮膚感覚でわかることがある。現状のAIは目と耳だけはすごく優秀だが、皮膚感覚がない。

 

責任というキーワード:誰が責任を取るのか 

 

学生:国際条約についてのある研究によると、国際条約におけるコピペが非常に多いという研究結果がある。国際関係に限らず、国内の契約を作るという部分での法律業務についてもAIの活躍は今後さらに増えていくだろう。

 

学生:条約には租税条約などテンプレートがほとんどで交渉の余地がないものもあるものの、一方で「AIがお互い交渉して妥結したのでこれでよい」ということを国内でどう説明するかという問題が生じる。国家と国家の条約にする際に誰が責任をとるかという意味では、今いる外交官全員が働く必要はないと思うが、ゼロにはならないと思う。

 

勝間:私は監査法人の会計士を経験したが、監査の最後には「監査をしたところ、この会社の財務諸表は適正です」と最後にサインをする必要がある。すなわち、サインする人・責任を取る人は絶対に必要だ。ただしそれも、AIが今後優秀になってきたら国が認可すれば良いのかもしれない。「公認AI」のようなものができて、「金融庁長官が認可して公認AIがサインすればOK」のようになっていく可能性はある。

 もうひとつ、現状では(特に上場企業に関して)人間の会計士の主な役割は交渉だ。利益をいくら出すかという部分は比較的裁量が大きいので、会社は「これくらい利益を出したい」というのに対し「それは利益の出しすぎだ/出さなすぎだ」というように、押し引きするため交渉が必要になる。それが行き過ぎると粉飾事件になるわけだが。この交渉という行為も今のところは人間が得意としている領域だ。

 

国の枠組みに守られている専門職

 

勝間:今回の議論に関して、現在何万人の弁護士・会計士・税理士がいて、それらが将来何人必要になるのか。絶対に残るとは思うが、人数が増えるのか減るのか、給料が上がるのか下がるのかという予測があると面白いだろう。弁護士・会計士・税理士はここ20年程、稀少性が薄れて給料が下がっている職種だ。私の頃は全て電卓で叩いていて、ゆったりと優雅な監査をしていたが、今ではコンピュータ化でスピード感がどんどん早くなり、同じ監査をするのにも少人数で済むようになった。

 

学生:法律文書や会計文書の電子化によって業務時間が減るという話をよく聞くが、電子化によって減る部分と、AIによって減る部分は分けて考えた方が良いと思う。AIが入ることによって変わる部分はどういった部分なのか?

 

勝間:例えば私が会計士をやっていた頃は、20~30年先輩の会計士がとにかく財務諸表をただ眺める。眺めただけで何の分析もせずに「ここがおかしい」と指摘し出す。それはベテランの人にとっては長年のビッグデータが脳内にあって、何か違和感があるところを診断するわけだ。そういった診断はAIに類似業種や過去のデータと乖離が何%あるなどで統計分析させれば簡単にできるだろう。

 

学生:電子化によるインパクトとAI導入によるインパクトはどちらにほうが大きいと思うか?

 

勝間:弁護士・会計士・税理士は現在準公務員であり、国が決めた枠組みの中で使わざるを得ない限りにおいては、給料は上がらないだろうが、AIが入っても人数はそこまで変わらないと思う。最も打撃になるのは国がAI弁護士やAI会計士を規制緩和で認めた時だ。AI弁護士を法廷に立てて良いとか、AI税理士の税務書類を出して良いとなったら皆すごく喜ぶと思う。

 

岩尾:今でも自己弁護の場合は弁護士が必要ないということになっているが、そこにAIが入って、「AIは本人の自己弁護を助けているだけで、あくまで自己弁護だ」という言い訳が認められるようになれば弁護士も危ないかもしれない。

 

勝間:税理士も義務ではないし、自分でサインして出せば良いが、税務調査が入った時に言い訳をしてくれる人がいなくなる。会計士は今のところ義務だ。帳簿上の大会社と上場企業は監査に対して必ず会計士の資格を持っている者がサインしなければならない。

 

 

●テーマ②AIが普及していく中で専門職人材に求められることとは何か

 

AIの2大問題「感情と責任」

 

勝間:私は最近ヤクルトの工場見学に行ったが、非常に大きな工場なのに、全て自動化され働いている人間は2人しかいない。人間はエラーが何分か出た時に専門の人に知らせて修正するための見張り番だ。弁護士業務もヤクルトの工場のようになってしまい、サインや依頼人に話をするところ以外は置き換わってしまう可能性も十分にあると思う。

 

学生:法律相談に限らず色々な相談ごとのある一定割合はおそらく相談しなくても解決するような案件だと思う。弁護士に相談しなくても解決できるという選択肢がAIによってできていくのではないか。

 

勝間:FAQみたいなものがあってそこに文章を入れるとAIが文脈を解釈してくれて、ある程度プレスクリーニングした上で「どうしてもだめな時はコールセンターに」みたいになってくるということだ。それはあり得るだろう。

 

学生:弁護士業務の中で2つ残ると思う点がある。一つ目は、法律問題でバグというか、本来予定されているルールから少しそれた問題の解決である。例えば殺人事案であれば法律にのっとると有罪になってしまう案件を無罪にするための弁護をするといったように、ロジックに基づかないものをAIが見つけて弁護していけるのかという問題だ。二つ目は、法律も会計もルールにグレーゾーンがあり、明確にマル/バツと決められないときに、依頼者にとって有利な部分を見つけ出して戦うという創造的なこともAIができるのかというと今はできないと思う。

 

岩尾:例えば大昔に(子が親を殺害する)尊属殺人事件というのがあった。AI的に処理して判例通りにすれば死刑になるわけだが、人間が弁護すると個々の状況によっては、感情によって「これで死刑となるのはおかしいだろう。そもそも国の制度がおかしいんだ」となって、実質的に無罪になるということがある。実際に日本では尊属殺人に関する刑法の規定は憲法違反となった。

 

学生:弁護士よりも裁判官の方がAIを使えるところがあるのではないか。判断する時は気持ちを入れずに事実に基づいて判断した方が良いから、AIの方が向いているのではないか。

 

勝間:それには国民の合意が必要だろう。白黒つかない問題が裁判になるという側面もある。

 

岩尾:非難する先がAIになってしまった時に、何か起きた場合に法務大臣を追及するのか、最高裁判事を追及するのか、国民がどのようにすれば納得するのかという問題はある。

 

勝間:AIになればなるほど責任の所在問題は本当に難しい問題だ。

 

学生:裁判になると感情が高まってしまうため、弁護士業務の9割は和解で紛争を終わらせている。依頼者がどうしても裁判をしたいという場合は「国がやっている公正な制度で裁判官に話を聞いてほしい」という感情的な部分もある。

 

岩尾:ここまで議論してきて、「感情と責任」が今日のテーマのように思う。

 

勝間:その通りだ。感情の持っていきどころと誰が責任をとるのかという2大問題がAIにはまだ解決できていない。

 

単純処理のAIと例外処理の高度専門家人材の二極化

 

勝間:感情の持っていきどころでいうと、最近恥ずかしいことがあった。クレジットカードの明細を見ると、iTunesから覚えのない請求が2万円きていたので、IDとパスワードを盗まれたと思ってAppleに電話したところ、犯人は娘だった。担当者が「娘さんである可能性が非常に高いですよ。娘さんのApple IDと使用している端末を教えてください。(申し訳なさそうな声で)一致しています」と柔らかく伝えてくれた。そういうこともAIのFAQで「あなたの不正請求はおそらく家族が原因です。先に家族に確認してください」と表示されても腹が立つだろう。

 

学生:私はクレジットカード会社で働いていて、その例は「フレンドリーフロード」という専門用語がある。私の会社では最近フレンドリーフロードの解決のためにアメリカのAIスタートアップを買収した。フレンドリーフロードの発生頻度は非常に高く、電話オペレータは人件費コストも時間的コストも高い。顧客はアプリ上でAIロボットと会話して「どのデバイスで、いつ、何を買ったのか」を提示することでフレンドリーフロードを解消することができる。

 

勝間:それはぜひ欲しい。今まで人間が莫大な処理をしていた作業をAIにやらせると人間はもっと高度なことに集中できるようになる。私の直感では不正請求の9割はフレンドリーフロードだ。そういう意味で専門家も、高度な専門家はいくらでも生き残っていける良い時代になると思う。粗末なことはAIにやらせて例外処理で単価を高くすればいい。音楽もデジタル音源はiTunesで安く聞ける一方で、コンサートはひたすら高騰しているが、所得の二極化が起こっているのと同様に、専門家も二極化していくのではないか。

 

まとめに

 

勝間:創造型の専門職や人とのコミュニケーションが主になる専門職はこの先も給料が上がっていく可能性が高い。一方で、専門職の中でも技能専門職や、まさに今回テーマとなっている3業種(弁護士・会計士・税理士)をはじめとした知識型の専門職の今後はあまり明るくないだろう。そういった専門職に対しAIはネガティブにはたらくと思う。医師はあまりにも人的コミュニケーションの部分が高く、また、国の政策で医学部が増えないので医者も増えない一方で、少子高齢化により病人は飛躍的に増加する。専門職の中でも医師のみが、給料も人気も上がっていて、弁護士・会計士・税理士の人気が下がっているというのはそういう理由ではないか。さらに、最近では自費診療も増えている。標準治療ではできない医療について、本当に良い医療であれば100%自費で払うという高所得の高齢者が増えてきた。専門職は今まさに変革の時代を迎えている。