2022/08/13 夏期合宿 岩尾俊兵研究会 チーム:屋形船
こんにちは。岩尾俊兵研究会の吉岡耕大です。記事へのご訪問ありがとうございます。この記事は、チーム屋形船から吉岡が書いています!チーム屋形船としては通算13記事目、僕が担当する記事としては通算3記事目です。今回は8月10日(水)、11日(木・祝)に実施した夏期合宿での進捗と、これからの展望についてできる限り具体的に記していきたいと思っています。
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目次
・夏期合宿での進捗
・これからの展望
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A. 夏期合宿での進捗
チーム屋形船が扱っているテーマは、大きく「テレワークと生産性との関係性」についてです。なかでも中小企業に焦点を当てた上でその検討を進めています。リサーチクエスチョンとしては、これまでの間に「中小企業がテレワークを導入することは生産性向上の観点から効果的なことか」というものを立てました。この問いに答えるべく研究活動を進めています。
現状、大企業においてはテレワークの普及率が比較的高い一方で、中小企業においては必ずしもそうではありません。事実、東京商工リサーチが実施した「新型コロナウイルスに関するアンケート」によると、2021年3月初旬ごろのテレワーク実施率について、大企業ではその割合が69.2%であったことに対して、中小企業では大企業の約半分の33.0%に留まりました。本来、テレワークの実施が中小企業の経営において望ましいことだと判断されるとすれば、中小企業においてもテレワークの実施率がもっと高くなるはずです。4月から夏期合宿までの期間はこうした意識に基づいて、中小企業の実態について業種を絞らず広く把握すること、さらにはテレワークに関する既存研究を業務効率化や生産性向上の観点から理解することを継続してきました。
そのような中でこの2日間の夏期合宿はこれまでの活動を振り返りつつ短期集中型のチーム活動を行うには最適の機会だったと思います。チーム屋形船が合宿中に取り組んだ内容は主に以下の2つです。
(1)これまでの研究の成果を論文の体裁をとることを念頭におきながらひとまず字数は気にせずにまとめること
(2)「中小企業がテレワークを導入することは生産性向上の観点から効果的なことか」という問いに対する答えを提示し得るシミュレーション・モデルをNetLogoを使って作成すること
まず、(1)については、この2日間で一定の進捗があったと思います(当初の予定よりはやや少ない進捗ではありましたが...!)。最初に、論文の骨格を「はじめに → テレワークの利点・不利点 → 中小企業が抱える経営課題3つ → 中小企業が直面する人材不足に対する解決策としてのテレワークの位置づけ → NetLogoによるシミュレーション・モデルの作成と実験 → ディスカッション→おわりに」とすることをあらかじめ仮に決めました。中小企業におけるテレワークの導入が従業員の業務効率化を図る結果、企業全体での生産性が上昇するのだとすれば、それは中小企業が抱える経営課題のうちの一つである人手不足に対する有効な解決案になるのではないか、ということが研究の趣旨です。
その上で、この骨格に沿った形で、「はじめに」と「おわりに」以外の論文パートをチーム内で役割分担して執筆を進めました。事実を一つ述べるごとにそれを支える根拠を提示する必要がありますが、その点については現在、地味ながらも一番注力しています。このタイミングになって、改めて、これまでに読んできた既存研究、データなどを見返すこともしていますが、欲しい資料をすぐに手元に呼び出せないという状況が頻繁に発生しているので、また一から調べ直したり、以前書いたメモを手がかりに資料を探したりといったことをチームメンバー全員で手分けして行っています。
岩尾先生からいただいた多くのアドバイスのうち、特に意識していることは「論文の弱点を作らない」ということです。主張の展開、既存研究のまとめ、論理構成、シミュレーションの精度、図表の分かりやすさ、文章の切れ味など、論文制作の要となり得る要素が複数ありますが、そのどれを取ってみても弱点となっていないということ、そしてその上でチーム屋形船なりの独自性があること理想だと思います(図1)。
それぞれにそれぞれの文体があるので、まだパートごとの接続が滑らかではありませんが、合宿が終わった今も引き続き研究の文章化を進めています。まだ終わりは見えていませんが、一歩一歩前進していきたいです。
(2)については、合宿をとおして、シミュレーションの土台となる大枠は作成できたのではないかという小さな手応えがあります(一方で、細かな条件設定は根拠に乏しいものが多く、まだかなり雑な作りになっています)。シミュレーション・モデルの概念を考えることは6月ごろから重ねてきましたが、それをNetLogo上である程度再現できている状態にまで到達できたのは合宿が始まるほんの4、5日前でした。端的に述べれば、「3段階の異なる業務処理レベルを持つ従業員」と「6段階の処理過程を持つ仕事」とをエージェントとして、従業員が仕事を完了させていく様子を再現するモデルです(図2)。
→よりシンプルにしていきたい
合宿中には、シミュレーション・モデルの動作具合やそこから提供される結果の解釈を行いながら、より簡素かつ現実の本質をついたモデルを作ることができるように細々とした修正を続けていました。このパッチ6色・タートル3色モデルに関して岩尾先生からいただいた多くのフィードバックのうち、一番、納得したものは「よりシンプルに」というものでした。合宿終了間際から早速、モデルをより簡単にすることを目指して改修を始めています。
この記事を書いている時点では、「2段階の異なる業務処理レベルを持つ従業員」と「100段階の処理過程を持つ仕事」とをエージェントとするようにコードを書き改めました。これまでは、従業員を模したエージェントについて3段階のレベルを持つものにするべきだという固定観念にとらわれていましたが、これを2段階にしてもなおモデルがよく機能していることが分かりました。この変更には思い切りがいりましたが岩尾先生のご助言どおりに改修を実行してみてよかったです。
これに対して、仕事を模したエージェントについては、6段階の過程を持つものから100段階の過程を持つものに改めました(このコード書き換えが、あまりにも膨大かつ単調だったのでかなり苦しかったです)。一見すると、モデルをシンプルにするどころかより複雑にしているようにも思えるこの変更ですが、実は意外にもそうではなさそうです。100段階の仕事処理過程をNetLogo上に再現したことで、従業員の仕事処理に関する結果がより鮮明かつ詳細に得られるようになりました。言ってみればこの変更は、モデルの要素を増やしたことにより複雑化を招いたということではなく、モデルの中のある一つの要素をより深掘りしたことによってかえってモデルがシンプルな結果を示すようになったと考えてもよいのではないかと思います(図3)。
→とはいえ、まだまだ改善するべきところが多いです
(例: 従業員が連携力を強める確率をどのように定めるか →今はひとまず、25%と50%を併用しています)
そのほか、必要ないと思った要素については、念のためコードを別の場所に保存した上で、全て削除しました。
B. これからの展望
これまでのチーム研究を論文の体裁でまとめることについては、とにかくまずは頭の中に蓄積されているこれまでの歩み・成果を臆せず文章化していきたいと思っています。最終的に、12,000字を上限としてまとめることが目標ですが、まずは少なくとも20,000字くらいは書くつもりで、役割分担をしながら奔放に要点を文章に起こしていきたいと思っています。その後は、図表を使って視覚的に内容を補助しながら読みやすい文章になるように時間をかけて修正していきたいです。9月初旬までにここまでの段階を通過できるとベストだと思います。
シミュレーション・モデルの修正と、それをNetLogo上に反映させることについては、チーム屋形船の論文の眼目と言ってもよい部分なので、こちらも折れることなく取り組み続けていきたいです。ウェブサイトNetLogo Models Libraryには、かなり複雑なはずの現実世界の動きを驚くほどシンプルな形でシミュレーション・モデル化しているものが100以上も無償提供されています。そうした最高峰のモデルを一つ一つ確認していきながら、技術的に取り入れられる部分を貪欲に吸収していきたいです。
今回の記事はこれでおしまいです。ここまでお読みくださりありがとうございました!
吉岡耕大
こんにちは。岩尾俊兵研究会の吉岡耕大です。記事へのご訪問ありがとうございます。この記事は、チーム屋形船から吉岡が書いています!チーム屋形船としては通算13記事目、僕が担当する記事としては通算3記事目です。今回は8月10日(水)、11日(木・祝)に実施した夏期合宿での進捗と、これからの展望についてできる限り具体的に記していきたいと思っています。
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目次
・夏期合宿での進捗
・これからの展望
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A. 夏期合宿での進捗
チーム屋形船が扱っているテーマは、大きく「テレワークと生産性との関係性」についてです。なかでも中小企業に焦点を当てた上でその検討を進めています。リサーチクエスチョンとしては、これまでの間に「中小企業がテレワークを導入することは生産性向上の観点から効果的なことか」というものを立てました。この問いに答えるべく研究活動を進めています。
現状、大企業においてはテレワークの普及率が比較的高い一方で、中小企業においては必ずしもそうではありません。事実、東京商工リサーチが実施した「新型コロナウイルスに関するアンケート」によると、2021年3月初旬ごろのテレワーク実施率について、大企業ではその割合が69.2%であったことに対して、中小企業では大企業の約半分の33.0%に留まりました。本来、テレワークの実施が中小企業の経営において望ましいことだと判断されるとすれば、中小企業においてもテレワークの実施率がもっと高くなるはずです。4月から夏期合宿までの期間はこうした意識に基づいて、中小企業の実態について業種を絞らず広く把握すること、さらにはテレワークに関する既存研究を業務効率化や生産性向上の観点から理解することを継続してきました。
そのような中でこの2日間の夏期合宿はこれまでの活動を振り返りつつ短期集中型のチーム活動を行うには最適の機会だったと思います。チーム屋形船が合宿中に取り組んだ内容は主に以下の2つです。
(1)これまでの研究の成果を論文の体裁をとることを念頭におきながらひとまず字数は気にせずにまとめること
(2)「中小企業がテレワークを導入することは生産性向上の観点から効果的なことか」という問いに対する答えを提示し得るシミュレーション・モデルをNetLogoを使って作成すること
まず、(1)については、この2日間で一定の進捗があったと思います(当初の予定よりはやや少ない進捗ではありましたが...!)。最初に、論文の骨格を「はじめに → テレワークの利点・不利点 → 中小企業が抱える経営課題3つ → 中小企業が直面する人材不足に対する解決策としてのテレワークの位置づけ → NetLogoによるシミュレーション・モデルの作成と実験 → ディスカッション→おわりに」とすることをあらかじめ仮に決めました。中小企業におけるテレワークの導入が従業員の業務効率化を図る結果、企業全体での生産性が上昇するのだとすれば、それは中小企業が抱える経営課題のうちの一つである人手不足に対する有効な解決案になるのではないか、ということが研究の趣旨です。
その上で、この骨格に沿った形で、「はじめに」と「おわりに」以外の論文パートをチーム内で役割分担して執筆を進めました。事実を一つ述べるごとにそれを支える根拠を提示する必要がありますが、その点については現在、地味ながらも一番注力しています。このタイミングになって、改めて、これまでに読んできた既存研究、データなどを見返すこともしていますが、欲しい資料をすぐに手元に呼び出せないという状況が頻繁に発生しているので、また一から調べ直したり、以前書いたメモを手がかりに資料を探したりといったことをチームメンバー全員で手分けして行っています。
岩尾先生からいただいた多くのアドバイスのうち、特に意識していることは「論文の弱点を作らない」ということです。主張の展開、既存研究のまとめ、論理構成、シミュレーションの精度、図表の分かりやすさ、文章の切れ味など、論文制作の要となり得る要素が複数ありますが、そのどれを取ってみても弱点となっていないということ、そしてその上でチーム屋形船なりの独自性があること理想だと思います(図1)。
図1 論文完成フィッシュボーン
試しに、論文の構成要素を視覚的に表した図を作ってみました。岩尾先生が、論文の弱点を作らないためにこうした図を作ってみながらチーム内で論文制作の方向性を共有していくことの大事さについても強調されていたことが印象に残りました。それぞれにそれぞれの文体があるので、まだパートごとの接続が滑らかではありませんが、合宿が終わった今も引き続き研究の文章化を進めています。まだ終わりは見えていませんが、一歩一歩前進していきたいです。
(2)については、合宿をとおして、シミュレーションの土台となる大枠は作成できたのではないかという小さな手応えがあります(一方で、細かな条件設定は根拠に乏しいものが多く、まだかなり雑な作りになっています)。シミュレーション・モデルの概念を考えることは6月ごろから重ねてきましたが、それをNetLogo上である程度再現できている状態にまで到達できたのは合宿が始まるほんの4、5日前でした。端的に述べれば、「3段階の異なる業務処理レベルを持つ従業員」と「6段階の処理過程を持つ仕事」とをエージェントとして、従業員が仕事を完了させていく様子を再現するモデルです(図2)。
図2 パッチ6色・タートル3色モデル
余計な要素が多すぎて何をやっているのか分かりにくいです →よりシンプルにしていきたい
合宿中には、シミュレーション・モデルの動作具合やそこから提供される結果の解釈を行いながら、より簡素かつ現実の本質をついたモデルを作ることができるように細々とした修正を続けていました。このパッチ6色・タートル3色モデルに関して岩尾先生からいただいた多くのフィードバックのうち、一番、納得したものは「よりシンプルに」というものでした。合宿終了間際から早速、モデルをより簡単にすることを目指して改修を始めています。
この記事を書いている時点では、「2段階の異なる業務処理レベルを持つ従業員」と「100段階の処理過程を持つ仕事」とをエージェントとするようにコードを書き改めました。これまでは、従業員を模したエージェントについて3段階のレベルを持つものにするべきだという固定観念にとらわれていましたが、これを2段階にしてもなおモデルがよく機能していることが分かりました。この変更には思い切りがいりましたが岩尾先生のご助言どおりに改修を実行してみてよかったです。
これに対して、仕事を模したエージェントについては、6段階の過程を持つものから100段階の過程を持つものに改めました(このコード書き換えが、あまりにも膨大かつ単調だったのでかなり苦しかったです)。一見すると、モデルをシンプルにするどころかより複雑にしているようにも思えるこの変更ですが、実は意外にもそうではなさそうです。100段階の仕事処理過程をNetLogo上に再現したことで、従業員の仕事処理に関する結果がより鮮明かつ詳細に得られるようになりました。言ってみればこの変更は、モデルの要素を増やしたことにより複雑化を招いたということではなく、モデルの中のある一つの要素をより深掘りしたことによってかえってモデルがシンプルな結果を示すようになったと考えてもよいのではないかと思います(図3)。
図3 パッチ100色タートル2色モデル
少しはシンプルになってきた気がしています →とはいえ、まだまだ改善するべきところが多いです
(例: 従業員が連携力を強める確率をどのように定めるか →今はひとまず、25%と50%を併用しています)
そのほか、必要ないと思った要素については、念のためコードを別の場所に保存した上で、全て削除しました。
B. これからの展望
これまでのチーム研究を論文の体裁でまとめることについては、とにかくまずは頭の中に蓄積されているこれまでの歩み・成果を臆せず文章化していきたいと思っています。最終的に、12,000字を上限としてまとめることが目標ですが、まずは少なくとも20,000字くらいは書くつもりで、役割分担をしながら奔放に要点を文章に起こしていきたいと思っています。その後は、図表を使って視覚的に内容を補助しながら読みやすい文章になるように時間をかけて修正していきたいです。9月初旬までにここまでの段階を通過できるとベストだと思います。
シミュレーション・モデルの修正と、それをNetLogo上に反映させることについては、チーム屋形船の論文の眼目と言ってもよい部分なので、こちらも折れることなく取り組み続けていきたいです。ウェブサイトNetLogo Models Libraryには、かなり複雑なはずの現実世界の動きを驚くほどシンプルな形でシミュレーション・モデル化しているものが100以上も無償提供されています。そうした最高峰のモデルを一つ一つ確認していきながら、技術的に取り入れられる部分を貪欲に吸収していきたいです。
今回の記事はこれでおしまいです。ここまでお読みくださりありがとうございました!
吉岡耕大
素晴らしいまとめ!