企業やNPOといった組織体がいかにして運営されているか、あるいは「上手く」運営している秘訣は何か、といったことを考えるのが「経営学」である。この経営学やその関連領域の教科書の中には実はオンラインかつ無料というものが結構ある。
そこでこの記事では、そうしたオンライン・無料・経営学教材のいくつかについてまとめてみた。日本語のものも英語のものもあるが、読みやすいものから順に並べてみることにした。
ひとつ目は、無料で読めるマンガ『奮闘の軌跡』である。これは、製品開発や技術開発のケーススタディでもあり、具体的なソフトウェア開発手法・思想(たとえばオブジェクト指向)についての解説マンガでもある。なお、ここで出てくる大友氏は実在の人物で、この記事のもとになったのも同一人物だ。
おじいちゃんベンチャーの底力:定年後に起業して上場する人たち
※写真をクリックすると日鉄ソリューションズの公式サイトに飛びます。
このマンガは日鉄ソリューションズ株式会社が無料で公開しているもので、日鉄ソリューションズのもとになったシス研の発展経緯が描かれている。実は、1980年代のコンピュータブームにおいて、日本の製造業の多くがSIer(システムインテグレーター)と呼ばれるIT開発業に進出した。ただし、独立系ではない製造業系のSIerで売上1000億円以上、かつ、親会社と同等以上の利益率、となると日鉄ソリューションズとあと数社ほどしか残っていない。
そのようにきくと日鉄ソリューションズがどのような経営をおこなっているのかという興味がわいてくるだろう。そうした人にうってつけなのがこのマンガだということである。
次は、『赤門マネジメントレビュー』である。
これは、東京大学の経営学分野の教員が中心になって設立されたNPOグローバルビジネスリサーチセンターと有斐閣とが共同で出版している雑誌である。ほとんどの記事がオンラインで無料で読める。特に、経営学輪講というコーナーは、1本10分ほどで読める世界の経営学研究の紹介記事であり、これを通して読んでおくだけで大抵の経営学の試験(大学院入試、国家公務員総合職、公認会計士試験、中小企業診断士試験など)はかなり簡単に感じるようになるだろう。
日本語で少し難しめのものに『組織科学』がある。
なお、筆者は東京大学大学院を受験することを決めたあたりから『組織科学』を図書館で探して20~30年分くらい読んだ(当時はオンライン化されていなかったように記憶している)。『組織科学』は、日本語を用いた経営学研究における、ある意味ではお手本なので、経営学の研究に興味がある人にもおすすめである。
ここからは英語の教材である。
プロジェクト・マネジメントをおこなう際の金字塔といっていいものに、NASA Space Flight Program and Project Management Handbookがある。これは、アメリカをはじめとした諸外国でも、日本でも、プロジェクト・マネージャーの必読書といっていい。アメリカのプロジェクト・マネージャーでこの本を「題名さえ知らない」ということは、モグリでもなければ、ほぼありえない。
なんとこの本、500頁近い綺麗なデザインの本が公式サイトでPDF配付されている。
次は、Management and Business Reviewである。
これは、Management Science、The Accounting Review、Production and Operations Managementという世界の経営学・商業学・会計学分野のトップ雑誌の編集長たちが集まって作った実務向け雑誌である。今年立ち上がったばかりの雑誌だが『フォーブス』誌などでHarvard Business Reviewのライバルとして取り上げられ、米国生産管理学会の創設者によると「Financial Timesが選ぶ世界のビジネスに最も影響力のある50誌」の採用候補に現在入っているという。
最後に、Network Scienceもおすすめだ。
これは、アルバート・ラズロ・バラバシというスター学者が書いたネットワーク理論の教科書だ。近年、ネットワーク理論やネットワーク科学という言葉をよく耳にするようになった。社会現象や自然現象の裏にあるネットワーク構造を分析する新しい科学のことを指す。この教科書はネットワーク科学について初歩から応用まで全文ネットで読める上に、ネットワーク理論の研究実習の素材データも豊富にあり、さらにネットワーク分析をおこなうためのソフトの紹介などもおこなっている。
これさえあれば明日からネットワーク科学の研究者の見習いくらいにはなれる(と錯覚させてくれる?)のではと思うような充実ぶりである。日本語サイトもあるが、英語サイトとちがって日本語だと全文は読めないので英語サイトの方が良いだろう。
このように、現在では無料・オンラインの経営学教材が豊富にある。もちろん、こうした教材で学んだあとはディスカッションなどで理解を深める必要があるが、まずは基礎力のためにこうしたものを読んでみるのも一案である。