【企業インタビュー】株式会社GLAB|大学教授がハイヒールを作る理由

株式会社GLAB代表取締役の蒲田和芳氏は、広島国際大学教授としてスポーツリハビリテーション、関節バイオメカニクス、関節リアライメント治療の教育と研究を行いながら、治療に難渋する関節疾患やトップアスリートのけがの治療やコンディショニングにも携わっている。

インタビューのため東京オフィスを訪ねると、そこには美しいハイヒールが何足も並んでいた。「大学教授が手がける会社にハイヒール!?」と、その光景に少なからず戸惑いながらも、インタビューをスタートした。

そもそも株式会社GLABは、蒲田氏が提唱するリアライン・コンセプトを普及させるために、セミナーを主催したり、関節を整えるための商品を開発・販売する会社だ。話を聞いていくと、そこでハイヒールを作る理由こそが、同社、そして蒲田氏が目指す“究極の目標”へとつながっていることがわかった。

さまざまな経験の中で問題意識を蓄えてスポーツ医療の道へ。

――蒲田先生が現在の道に進まれたきっかけを教えてください。

大学でアメリカンフットボールをやっていて、仲間がけがをする姿をたくさん見ていました。中でも、同級生が頭にけがをして半年後に亡くなるという重大事故は、人生観を大きく変えた出来事でした。そのような経験をして、スポーツ現場のけがの予防を含めた対策をできないものかと思うようになったのです。

卒業後の進路について、留学しようか、国内で学校に進学しようか、大学院に行こうかといろいろ考え、今につながる道として、大学院で学位を取ること、夜間部で理学療法士の資格を取ることを選びました。加えて、医療機関と母校のアメリカンフットボール部で現場経験を積みました。

――当時はいろいろ掛け持ちをしていて忙しかったと思いますが、なにがそれを支えていたのでしょうか? 責任感や使命感などがあったのですか?

確かに朝昼晩深夜と1日4クオーターで動いていたので忙しかったですね。いろいろなところから出る宿題や試験もあるので寝る時間はだいたい3時間。そういう生活を5、6年続けました。やる以上は中途半端にしたくないなっていうのもあったし、一定の努力をしていると必然的に寝る時間も短くなってしまったのです。

当時の自分が責任を負っていたかはわからないですけど、ベストは尽くしていましたね。アメリカンフットボール部の「勝つために頑張る」という努力のスタイルというか、そのような文化で育ったので、そもそも8割の力でやることはあまり考えませんでした。

――その後、横浜市スポーツ医科学センターに勤務されますが、そこでの経験はその後にどのような影響を与えましたか?

横浜市スポーツ医科学センターはいわゆる臨床現場なので、けがをしたり、痛みが生じてから来る場所です。膝の変形疾患の中高年の方も比較的多く、予防というよりは治療。原因はよくわからないけど、そこに通っていた方はみんな膝関節がねじれていたから、膝のねじれを作り出す筋肉の癒着や皮膚の硬さとかに取り組むようになりました。このような考え方は他の関節にも応用できたので、全身の関節の僅かなゆがみに興味を持ちはじめました。

ただ、次から次へと患者さまが来るので、落ち葉拾いのようできりがない。だったら、もう少し早い段階から予防すべきだと考え、「どうしたらねじれていくのを防げるのか」「ねじれた結果どういう悪循環がはじまるのか」という関節のゆがみやズレを研究しようとアメリカに渡りました。

――臨床現場での経験が今につながる大事なものになったということですね。そこから会社設立に至った経緯は?

アメリカ滞在中にはいろいろな情報に触れ、またアメリカのセラピストや医師の講演などを聞きながら、徐々に問題意識を蓄えていきました。理論や治療方法が正しくても、それを予防法として多くの方に役立たせるには研究だけをしていたのでは普及しない。臨床だけでも治療できる人数に限りがある。そこで、無症状の人に予防効果のある商品を作ってビジネスを展開することが最も多くの人に関節のゆがみ予防を提供できると考え、2008年に株式会社GLABを立ち上げました。

これらは治療よりも予防。ゆがみ予防には社会的な価値がある。

――株式会社GLABの主な事業内容を教えてください。

ひとつは教育です。リアライン・コンセプトの治療法を多くの専門家に向けて伝えていくセミナー事業に注力しています。もうひとつはリアライン・コンセプトから生まれた商品の販売です。

――リアライン・コンセプトとはどのようなものですか?

リアラインとは、re-(再び)+align(配列する)のことで、いわゆる再配列を意味する言葉。ゆがんだり、本来の動きを失ったりした関節を理想的な状態に整える、再配列を表現しています。

ほとんどの関節はねじれたり、ゆがんだり、ズレたりしており、100%理想の形になっていることはまずありません。リアライン・コンセプトは、運動や徒手的な治療によって理想に近い骨の配列(位置関係)を取り戻すことを重視した治療法です。

――株式会社GLABはリアライン・コンセプトを広めるためのものということでしょうか?

そうですね。理論を証明するために論文を書き、普及させたいと投稿記事(総説)を書いても、読むのはごく限られた研究者だけで、ほとんどの方は目にしません。結局、研究成果を社会に役立つ状態にまで発展させるには、長い年月がかかります。より多くの方にとって身近な存在になるには一般向けの本を書くという方法もありますが、言葉だけでは正しく理解されない場合もあります。

そこで、具体的に形があるものとして、「商品」を作ることが効率的かつ効果的な方法だと思ったわけです。

情報として理論や運動方法をいろいろ説明しても、広がっていくうちにだんだん変化して、最後のところではどう変化しているかわらなくなる。伝言ゲームみたいなものです。そういう面でも、理論を反映した商品があれば、理論が確実にユーザーに届くようになります。だから商品を拡販することが関節のゆがみ予防の重要性を広めることになると思っています。商品を介して、自分の分身を全国に飛ばしているようなところがありますね。

――「予防」というワードが出てきましたが、先生は予防を重視されているのですか?

はい。全身のゆがみが蓄積されると、将来的に病院にかかるほどの大問題になりかねません。対症療法として薬で痛みを軽減しながら、そのうち人工関節を入れることになるかもしれません。その先には、膝が動かなくなって、寝たきりになることも考えられます。

治療するとなると時間もかかるし、手間もコストかかる。今の医療は時間とコストがかかることばっかりやっている状態。医療経済の面からもゆがみによる治療費は膨大で、その延長線上には就労困難や介護費用などの間接的な社会的負担も膨らみます。このため、ゆがみ予防は医学的に重要だと思いますし、予防に力を入れることは社会的に非常に価値があると思っています。

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全ての方にゆがみ予防を知らせるために、全ての方に商品を届けたい。

――アスリートに向けたトレーニング器具やパフォーマンスを向上させるソックス、インソールなどさまざまな商品を開発されていますが、現在力を入れている商品を教えてください。

ハイヒールです。9cmヒールなのに足が前に滑らず、ピタリと止まる。歩き方が矯正されて、ゆがみの予防につながります。これは、他にはない素晴らしい商品だという自信があります。これから7cm、5cmヒールも作っていきますが、5cmヒールは就職活動用のリクルートシューズにもおすすめしたいですね。「1日中歩き回れる靴」と認知してもらって、リクルートシューズの定番になれれば嬉しいです。

デザイン性やキーワードに興味を持ったとしても、裏にはしっかりリアライン・コンセプトがあって、調べれば調べるほど情報が出てくるという奥深さがあります。まずは、多くの方に試着してもらい、この靴の存在を知ってもらう方法を考えないといけませんね。

――どうしてハイヒールを開発しようと思われたのですか?

30代の女性をターゲットにした商品によって予防医療の重要性を広める突破口にしたいと思ったんです。理由は、彼女たちが家族の中のキーパンソンだと考えたから。あくまで一例ですが、子どもの膝のねじれを予防しようとすると恐らく母親が主導になるだろうし、高齢の親が転びそうになっているのをなんとか防ごうとするのもこの年代であることが多いだろう、と。だから、ゆがみ対策のキーパーソンになってもらえるのではないかと考えました。

その世代の方々は健康よりもファッションへの関心が高いと思い、ファッションに興味がある方が弊社のハイヒールを知って、そこからゆがみについて知ってもらえるといいなと思ったわけです。

そして、このハイヒールを、なんとしても全国の女性に届けたいと思い、大企業とのコラボレーションを積極的に進めたいと考えています。我が社は、知識を形にする「企画・開発」に特化し、営業・販売は他の企業にお願いする形が最も理想的だと思っています。

――他に開発している商品はありますか?

ハイヒールと並行して座椅子の開発を進めています。学生やオフィスワークの方で長時間座っているのがしんどくて仕方がない方がいます。それも骨盤のゆがみからくるもので、骨盤のうしろの関節が徐々に広げられ、背筋など周辺の筋肉が緊張して、疲労してしまうんです。今開発している座椅子は、椅子にポンと置いて座るだけで、骨盤が自然と良い形になるように誘導するもの。折りたためて、袋に入れて持ち運べるようなものを考えています。

産後の女性、長時間運転を行うドライバー、長時間移動を要するアスリート、そしてすべてのデスクワーカーにお届けしたいと思っています。椅子を通じたゆがみ対策が勉強や仕事のクオリティー(生産性)も上げることをアピールしていきたいですね。

もうひとつが骨盤ベルトです。こちらは立っているのも座っているのもしんどいという、症状の重い方に効果があるものです。介護職やナースなどは、人を支えなければいけない非常に重要な責任がありますが、実は腰痛のために離職される方も多いのです。仕事を辞めなければいけないくらいに辛い腰痛を持つ方といった「ハイデマンドの方」に届けられるような骨盤ベルトを作ろうとしています。

なお、こちらは特許取得前なので、写真を含めた詳細は公表できません。

――今後の目標、目指すところを教えてください。

立つ、座る、寝るといった人として日常的に行っている活動の中で、自然にゆがみ対策が行えるようになることを理想としています。しかし、当社だけではその実現は困難です。大企業にもこの活動に参加していただき、全国隅々まで、また生活の隅々までゆがみ対策商品が行き渡るように様々なコラボレーションを模索していきたいと考えています。靴業界、家具業界の皆様からのご連絡をお待ちしています!

私が開発する商品によって、全ての年代、全ての属性の方たちにゆがみ対策の商品が知れ渡る、行き渡るのが究極の目標です。「こんなものを作ったら、こんなものがあったら役に立つ」というニーズに基づいた商品を作っています。一方で、マーケティングや営業力に課題があるため、リアライン商品を社会にどのようにして認知してもらうかが課題となっています。そのためのマーケティングやPRに注力したいと思っています。

このような課題には、僕が広島にいることも影響していると思っています。東京に来る頻度の問題もあって、東京で商談する機会が圧倒的に不足している。東京でPRや営業を担ってくれるスッタフがいればいろいろな展開ができるかなとも思いますね。

――最後に、どのような方と一緒に働きたいかを含め、求職者へのメッセージをお願いします。


コミュニケーション能力や探究心など求めるものはいろいろあります。「ここまでやってください」「ここまでなんとか責任を持って」と指示を出したとして、達成するまでにはいくつもハードルがあると思います。そのハードルを自分で乗り越えていく探究心がある方がいいですね。ハードルを見つけたら成長のチャンスと捉えて、情報と知恵を使ってスムーズに乗り越えられるような方かな。根性ではなくて知恵を使ってほしい。

例えば、SNSマーケティングをしようとしたら、本もたくさんありますし、インフルエンサー的な方もネット上でいくらでもみつかります。そういう方と会って条件を聞いたり、どうやったら成功するか考えたり。いろいろと情報収集できると思うので、自分からプランを作って動ける方がいいなと思っています。



株式会社GLAB 代表取締役 蒲田 和芳

広島国際大学教授/(社)日本健康予防医学会 副理事長/学術博士/理学療法士/日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー

経歴

東京大学教育学部を卒業後、社会医学技術学院 夜間部理学療法学科にて理学療法士の資格を取得。東京大学大学院総合文化研究科 生命環境科学系修了し、学術博士となる。その後、横浜市スポーツ医科学センターにて整形診療科理学療法士を務めた後、渡米。コロラド大学博士研究員、フロリダ大学博士研究員を経て、2006年に広島国際大学リハビリテーション学科 准教授(2015年から教授)に就任。2008年、「臨床現場で働く医療従事者が必要とする医学情報の循環や医療現場の活性化の促進」を目的に、株式会社GLABを設立。日本健康予防医学会 副理事長としても活躍中。

企業情報

株式会社GLAB
広島県東広島市黒瀬町宗近柳国889-1
https://realine.info/

<事業内容>
・健康、医療関連商品の企画・販売
・全国各地におけるセミナーや研修会等の開催支援(事務局代行)
・医療器具、治療方法、サービスについての調査・研究・臨床現場への推薦・販売促進
・インターネット技術を用いた情報発信支援、各種業務・雑務の効率化支援

<関連ウェブサイト>
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