WEBでの誹謗中傷に苦しむあなたへ 送信防止措置と発信者情報開示

 匿名掲示板を運営していたころは山のような削除依頼と小山のような開示請求を右から左へと捌いていたものだ。「口コミ広場から問い合わせを行って実際に施術を受けた会員だけが書けるリアルレポート」という口コミシステムへの変更に伴い、かつてはあんなにも私の心を掻き立てた削除依頼も解除請求も訴訟沙汰も絶えてしまった。老兵は死なず、ただ消え去るのみ。狡兎死して走狗煮らる。平和な時代には必要のないレガシー。そんないにしえの智慧が何かの役に立つかもしれないと思い至ったのは、痛ましいニュースに接した5月23日のことだった。

 テラスハウスという番組は見たことがない。おまけに私はテレビ業界に明るくない。だから以下に書くことは仮定の話だと断っておく。だが仮に、シュートを謳うこの番組にブックが存在するとして、プロレスラーだからといって安易にヒール役をあてがっていたのだとしたら。想像するだけで涙が出てくる。土日は記事を追いながら最悪の気分だった。プロレスはいいんだよ。ブックがあることもヒールという役割もキッズ以外はみんな知っているのだから。ブーイングはヒールへの称賛であり、むき出しの悪意の込められたメッセージとは違う。なんなら「プロレス」という言葉そのものが「芝居」を意味することだってある。業界最大手のWWEが上場時にシナリオの存在を認めたことは有名だ。

 けれどもリアリティショーとは何だ。リアリティと強調しつつ、ショーっていったでしょというエクスキューズなのか。画面に映るそれがリアルだと、出演者の人格だと、本気で信じる方がバカなのか。そうかもしれない。だが私はやっぱり番組の責任を問いたい。リアルと思わせてストーリーや設定、演出があったのだとすれば。それによって視聴者のヘイトを22歳の女性に向かわせたのだとしたら。

 以上、仮定の話はおしまい。

 ここからは実際的な話をしよう。かつて匿名掲示板の運営において、私が削除依頼や開示請求の対応を行っていたことは最初に述べた。だから、どういった内容であれば削除や開示に応じなければならないか、請求の仕方も知っているつもりだ。大した内容じゃないし調べればわかることではあるが、ここに書くことで誰かの助けになるかもしれない。

送信防止措置と発信者情報開示

 さて、WEBのどこかに自分を誹謗中傷する情報が掲載されたことを知ったとき、とることのできる手段は大きく分けて二つある。

1.送信防止措置依頼

 いわゆる削除依頼。この情報は私の権利を侵害しているので削除してくださいという請求である。発信者(投稿者)に連絡が取れるのであれば、直接依頼してもよい。

 発信者が不明、あるいは連絡手段がない、対応してくれない場合にはWEBサービスの運営者に依頼することとなる。ちゃんとしたWEBサービスであれば窓口や通報制度は設けているし、こちらが一般私人で、なおかつ対象となる個人を特定できるような侵害情報であれば削除してくれるはずだ。プライバシー案件は依頼がなくても見つけ次第削除が鉄則。常時監視義務はないんだけどね。

 ・一般私人、プライバシー侵害 ・・・削除されやすい

 ・店舗・法人等、名誉毀損 ・・・社会的評価を低下させたか、意見・感想の範疇かどうか

 ただし、①公共の利害に関する事実について②もっぱら公益を図る目的で行われた情報発信であって、③真実あるいはそう信じるに足る相当の理由が発信者にあれば、名誉毀損は成立しないとされるため(違法性阻却事由)、特に店舗・法人等に対する批評は、対象の社会的評価を低下させたとしても運営者の判断では削除されにくい。

 というのは、何らかの業を営んでいる以上、店舗や法人の評判というものは①そのものであり、ネガティブな内容であったとしても一般的な意見や感想の範疇であれば②とみなされる。従って、結局のところ③の問題になるケースが多いのだが、何が真実であるか運営者が判断するには限界があるのだ。このような場合には運営者から発信者に意見照会を行い、その上で判断することになる。これは政治家などの公人が対象でも同様だ。

 窓口も通報制度もない。連絡できても回答がない。

 そんな運営者には、会社所在地に書面で送りつけてやるしかない(書式はこちら)。それでも動いてくれないなら訴訟だが、権利侵害が明白なプライバシー案件は本人訴訟で構わないと思う。運営者が受けて立ったとしても裁判所は和解を勧めてくるので、「送信防止措置をとるなら損害賠償は減額」などの落としどころを見つけよう。

2.発信者情報開示請求

 発信者(投稿者)を突き止めたい。訴えて責任取らせてやる。

 そのようなときには、運営者に発信者情報の開示請求を行う必要がある。ただWEBサービスの握っている発信者情報もピンキリで、IPアドレスだけ開示されても発信者は特定できないので、開示されたIPアドレスからインターネットサービスプロバイダ(ISP)を逆引きし、さらにISPに対して契約者の情報を開示してもらう、といった段階を踏まなければならない。

 1.開示請求 → 運営者(IPアドレス、タイムスタンプ等)

 2.開示請求 → ISP(契約者情報)

 3.損害賠償請求 → 侵害情報を発信した回線の契約者 ≒発信者

 ※1の運営者が発信者の登録名や連絡先を握っている場合もある

 発信者情報開示請求は基本的に書面で行われる(書式はこちら)が、個人情報に当たる部分を含むためISPの開示のハードルは正直高い。だからといって意見照会を行ったところで発信者が開示に同意するわけもなく、契約者の特定は訴訟を経由するケースがどうしても増えるのだ。

 一方、IPアドレスやタイムスタンプしか保有しない運営者は、ISPに比べればいくらかは気楽である。もちろん気楽にぺらぺら開示しているわけではないのだが、たとえば複数名義で悪口を書き散らしているのにいずれもきわめて類似した発信者情報だったりする例は珍しくもなく、そういう場合には違法性阻却事由の②を満たさないとして開示に応じている(弊社の場合)。

通称「プロバイダ責任制限法」

 正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」というこの法律、名前の通り特定電気通信役務提供者(いわゆるISPの他、電子掲示板等のWEBサービスの運営者も含めたプロバイダ)の損害賠償責任を制限するもので、プロバイダがどのように対応すれば責任を免れ得るかという内容になっている。

 逆にいえばそこから外れたケースではプロバイダが賠償責任を負うので、業者側が守るべき指標となっており、かくいうワシもプロバイダ責任制限法の名誉棄損・プライバシー関係ガイドラインと実際に得た複数の判例を支えに、かつての荒んだ匿名掲示板を守る戦いに身を投じておったんじゃ……(遠い目)。

WEBの世界に平和と秩序を

 繰り返しますが、「口コミ広場から問い合わせを行って実際に施術を受けた会員だけが書けるリアルレポート」という口コミシステムへの変更に伴い、弊社サイトは今はとっても平和です。しかしそれは戦いによって勝ち得た平和ではなかった。制度を変えないと平和は訪れなかった。

 WEBでの誹謗中傷に苦しむ誰かに、戦う術を伝えられたらと思ったけれど、それは新たな訴訟社会の呼び水になるだけかもしれない。戦う力は抑止力を、抑止力は均衡を生むだろうか。しかし均衡が破られたときにどうなるか、しばし思いを巡らせたが答えは見つからず、老人はやがて力なくかぶりを振った。

 すべてのSNSに平穏が訪れることを、表現の自由と知る権利、そして個人の尊厳が守られることを祈ってやまないじいさまであった。

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7件
No Name
2020.05.29

本当に痛ましく、腸が煮え繰り返る事件ですね。
大きな影響力を持つメディアが、バラエティという言葉を免罪符にすれば何でもやっていいのか。
メディア媒体で飯を食っている人間として憤りを感じます。

しかし木谷さんの戦いの歴史はとても勉強になりました。
戦いの末に得た平和ではないとしても、その過程の上に制度を変えるという結果に繋がったのだと思います。

平和な時代を謳歌できるのも木谷さんのおかげですね。

しかし、制度を変えどそれに順応した業者が蔓延るのも世の常ですね。

誤った情報発信によって不利益を被るユーザーがいなくなるよう、クチコミ広場の戦いは続きます。
引き続きよろしくお願いいたします。

木谷 太郎
2020.06.03

そこは暗闘中ですね~。

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