氷河期世代の救済の形

 「氷河期世代」という言葉はいつからあったのだろう。

 1976年生まれの私は大学受験で1年浪人したため卒業は2000年3月。有効求人倍率が1を切った就職氷河期ど真ん中に当たるらしい。当時は就職難とか氷河期とか、そんな意識は頭の片隅にもなく、想像していた以上に容赦なく落とされるけれど社会というものはそういうものだと考えていた。そもそも私の出た学部は就職にこだわる気風はなく、私もリクルーターとウェイウェイやってた法学部や政経の友人を尻目に、就活つまらんの一言であっさり就職活動を止めてしまった。キー局とNHKにボコボコにされ、ベースボールマガジン社は募集がなく、東スポを寝過ごした記憶しか残っていない。

 その後、人と運に助けられ、クインテットに拾ってもらって今があるわけだが、そんな比較的恵まれた境遇もあって自分のことを氷河期世代と普段から意識しているわけではなかった。ただ、今回の「就職氷河期世代支援プログラム」の報道には怒りのような名状しがたい感情に襲われた。


 何をいまさら。10年遅い。

 いや、これは理不尽な怒りかもしれない。遅すぎるとはいえやらないよりましではないか。ちょっと落ち着いて内容を見てみよう。さらにこちらのⅡの2こちらがたたき台と思われる。どれどれ。


 ……やっぱ、遅いわ。

 いくら「相談、教育訓練から就職まで切れ目のない支援」があったとしても、実務経験の薄い40歳を企業が採用するかというとまあ採らない。なかなか採らない。


 氷河期世代とひとくくりにしても、今回のプログラムの支援対象は2つに分けられる。まず、「正規雇用を希望していながら不本意に非正規雇用で働く者(少なくとも50万人)」、そして「就業を希望しながら様々な事情により求職活動をしていない長期無業者、社会とのつながりを作り、社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする者など」。


 前者について考えてみよう。能力や習熟度に個人差はあるだろうが、支援は本当にそれでいいのか? ちーがーうーだーろー! 正規雇用を希望していながら非正規雇用にとどまっているのは、相当な部分が国の政策(2004年の改正労働者派遣法)の問題だ。そこに切り込まずして救済はあり得ない。派遣先で立派に仕事をしている彼らにどんな訓練を施してどこに送り込もうというのか。


 後者については、上でも述べたように40歳オーバーの長期無業者を企業が積極的に採用することは考えにくい。「各種助成金の見直し等による企業のインセンティブ強化」「専門ノウハウを有する民間事業者に対し、成果連動型の業務委託」というキーワードから貧困ビジネスのにおいすら漂う。また助成金をエサにした営業電話がかかってくるのか……、とげんなりした方もいるだろう。

 プラットフォームだなんだといって、長期無業者(あまりこの単語を連呼するのも気が引けるがご容赦されたい)に必要な支援を届けることを強調しているものの、肝心の出口の施策に目新しさはなく、今までの支援と何が違うのかさっぱりわからない。「遅い」という文句すら適切ではないのかもしれない。

 手を打とうとしていることはわかる。だが、40歳を過ぎた長期無業者が企業で働くハードルはとてつもなく高い。「人手不足等の企業とのニーズ」に合致したとしても、人手不足にはそれなりの理由があることを忘れてはならない。それが改善されないことには定着は難しい。


 要するに。

 長期無業者だって仕事は選びたい。なんでもいいから働けじゃ夢も希望もないし、安価な労働力として都合よくつかわれたくはない。けれども企業のニーズは……という現実。支援というならば国や自治体が率先して正規雇用に乗り出せばいいのだが、残念ながら宝塚市や愛知県の例を除いてそのような動きは鈍い。

 だから本当に気力を振り絞って人生を変えたいのであれば、自分で何かを始めた方がいい。国の支援で有益な資格が取れるならそれは活用すればいい。その上でやりたいことがあるなら自分でやった方が早い。


 日本において再チャレンジが困難とされるのは、どうしても就職の問題があるからだ。そこからはじかれた人の支援として、組織に属しなくても働ける、個人が活躍できる社会という視点も必要ではないだろうか。

 今はWebの普及によって誰もが発信できる時代だ。例えばYoutuber、例えばECサイト、例えばクラウドファンディング。テレビや実店舗、金融機関がなくても個人が芸能人となれる、店を持てる、資金調達できる。これらは一例だが、そのような環境を整えていくことも、氷河期世代だけじゃない、「普通のレール」から外れた人たちの受け皿、あるいはオルタナティブな選択肢になると考えている。


 えっ、弊社のPandoならECやクラウドファンディングが簡単にできるですってー(PRです)?


 偉そうなことを書いている私も、人と運に助けられただけなのだ。卒業無職で実家でぷらぷらしていたとき、もっと鈍感だったら、親の目を気にしなければ、そのまま齢だけを重ねていったかもしれない。 

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